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第228話 試験と試練①

 

~キュルラリオ視点~


「ヤバいヤバいヤバいぃぃーー!! この量は無理ぃ!!」


 阿吽さんへの師事を申し出た翌日、僕は中級ダンジョン【狼の塔】の19階層で、魔物の群れから全力で逃走していた。

 というのも、阿吽さんから出された試験は『狼の塔の19階層から入口まで、迷宮離脱石を使わずに戻ってこい』と言ったものだった。つまり、限界が来たら迷宮離脱石を使ってもいいけど、その時点で不合格。逆に、どんな手段でもいいから入口まで完走することができれば合格という単純明快な試験内容だ。


 【狼の塔】には昔、即席のパーティーで潜ったことはあるが……、その時でさえ僕たちの最高到達階層は蛇の塔3階層だった。今でも自分のレベルが22という低レベルだという事も踏まえて考えれば、この試験の難易度……いや、危険度は自分にとって相当高いものであると自覚はしている。当然阿吽さんにもそのことは伝えてあるが、「だからこその試験内容だ」と言われてしまうとそれ以上はもう何も言えなかった。最悪の場合、迷宮離脱石を使えるという安全マージンはあるけれど、それをしてしまうと不合格になってしまう。使うとしてもギリギリまで粘るしかない……。


 だが好材料もある。スタート地点の19階層最奥まではネルフィーさんが先導してくれたお陰で直行ルートも判明し、丁寧に罠も全て解除してくれたため配置や種類はある程度覚える事ができた。さらに、出会った敵は全てネルフィーさんが仕留めてくれたお陰で、僕はMPも全く消費していない。

 むしろ散歩のように進むことができたし、何一つ危険な事も無かった。その時に星覇の方々の強さも再確認する事はできた。


 ――のだが……簡単に進み過ぎて、色々な事を失念してしまっていた事にも今更ながら気が付いた。


「そもそも中級ダンジョンって、ソロ踏破なんてする所じゃないですよぉー!」


 だからこそ、ソレを簡単にやってのける【星覇】全員の規格外さも浮き彫りにはなるのだが……。僕が憧れた強さはそのレベルに達する事。すぐには難しくても、いずれは……。それに、これは覚悟を示すための試験。なにも阿吽さん達のように魔物全てを倒して回る必要はないし、時間はかかるが隠れてやり過ごす方法もある。

 でも、それは甘っちょろい考えだと思い知らされた。一度魔物に見つかってしまうと、近くの魔物が全て反応してしまうのだ。そうなると、全力で逃げるか全て倒しきるかの二択しかないわけで……。


「こっ、こんな量の敵……倒しきれるわけないでしょー!?」


 この大量の魔物を引き連れて逃走する行為が“モンスタートレイン”と言われる危険なものであるとは分かってはいるが、僕は否応なしに逃走という選択を選ばざるを得ないでいた。

 周囲に僕以外の冒険者が居なかったのは本当に運が良かったとしか言いようがない。


「でも、このままじゃいずれ追いつかれて物量に押しつぶされる未来しか残っていない。ただ、阿吽さんからのアドバイスも無碍(むげ)にはできないし……」


 この試験に入る前、阿吽さんからもらった『本当に強くなりたいなら、尻尾の使い方を考えた方が良いぞ? せっかくの個性や特性なんだからな』というアドバイス。

 この尻尾がどんな使い道があるというのか全く分からない。でも、そのアドバイスにこそ活路があるようにも感じる。


(でも、どうしたらこの状況を打開できるんだよー! 尻尾を切れば自分のダミーとしてデコイの働きもさせられるけど、そうじゃないんだよなぁ……)


 口から出かけた弱音を飲み込みながらも全力で魔物の集団から逃げつつ、自分にできる事を考える。迷宮離脱石を使うのは本当に最後の手段だが、それでもその選択肢があるという安心感で先程よりは少し冷静にはなれていた。

 焦りながらも状況を整理しながら思考を巡らせていると、この先の通路に足止め系のトラップが仕掛けられている事を思い出す。そして、一つの作戦が頭に浮かんだ。


「失敗すれば逆にピンチになっちゃうけど……。でも、今はこのスキルに賭けるしかない!」


 背後から迫る大量の魔物。チラッと確認しただけでも10体程度は僕を追ってきていると思うが、狭い通路も相まって後方の魔物までは目視する事はできない。でも、逆に言えば後列の魔物は僕を目視できていない事にもなる。なら、まだ活路はある!


 トラップを起動する魔法陣を一息に飛び越え、踵を返す。そして向かってくる魔物を確認する。

 先頭にいるのはDランクコボルド数匹、その後方にDやCランク下位の魔物であるブラックウルフ、グレーターボアなどが続いていることが把握できた。

 魔物を目視すると、自身の胸の鼓動が高鳴っているのも自覚する。これは全力疾走し続けたからだけではなく、初めて危険に対して逃げずに立ち向かうという高揚感と、失敗したら後がない緊張感が、心臓を強く脈打たせ、呼吸を深く速くさせるのだろう。


 腹を括ってからは頭が冴えているのか、こんな危機的状況にもかかわらず自分を俯瞰で見つつも周囲の状況だけはしっかりと把握できていた。

 その数瞬後、殺意をむき出しにしながら突っ込んでくるコボルド達がトラップにかかったのと同時、僕はスキルを発動した。


「【存在誤認】!」


 すると、今まで僕を追っていた魔物たちは一斉にトラップにかかったコボルド達へ向けて攻撃を仕掛け、瞬く間に肉塊へと変えた。


(よしっ!! 上手くいった!)


 そして、さらに追加でブラックウルフへと【存在誤認】のスキルをかけると、僕はそのまま魔物の群れから離れ混乱する魔物達を尻目に18階層に続く階段まで辿り着くことができたのだった。


「ハァ、ハァ、ハァ……。なんとか、()けた」


 18階層へ入ると周囲に魔物の姿は見えず、19階層からも魔物は追ってくる気配もない。次の階層への階段があるこの部屋は“セーフティーゾーン”と呼ばれており、魔物が立ち入らないエリアとされている。

 落ち着いたところで先ほどの事を思い返す。危機一髪ではあったけど、予想していた以上に上手く作戦がハマった。正直一か八かではあったけど……。


 僕が使った【存在誤認】のスキルは、今まで切れた尻尾を僕だと誤認させるために使っており、それ以外の用途は考える事すらしていなかった。しかし、阿吽さんからのアドバイスもあり、尻尾を切らなかったことで「自分の尻尾でなくとも別の個体を“キュルラリオだ”と誤認させる事ができるのではないか?」とスキルの別用途を思いつくことができた。

 思い立ってすぐ、ぶっつけ本番だったけど上手くいって本当に良かった……。


「フゥ……。今のうちにHPとMPを再確認しておこうかな」


 と何気なく確認したステータスだったが、僕は今までの人生で一番の驚きを襲う事となる。


「レ、レベルが3つも上がってる! それに……スキルレベルまで!?」


ついに本日、漫画第1巻の発売となります♪

手に取っていただけたら、私のテンションが爆上がりし、PC前でブレイクダンスしそうですw


次話は8/9(金)投稿予定です★

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