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第227話 覚悟

 

「……阿吽さんに、お願いがあります」


 それまで無言を貫いていたキュルラリオが突然口を開いた。

 何かを決意したような表情だが……、お願い?


「一応聞くだけ聞いとくわ。どんなお願いだ??」


「ぼ、僕の師匠になってください!」


 脈絡もなく突拍子もない事を言いだしたな。

 それに、これを受けて俺がメリットとなる事はまぁ無い。それはキュルラリオも含めたこの場に居る全員が同じことを考えているのだろう。断るのは簡単だが、キュルラリオのこの目……理由くらいは聞いてやってもいいか。


「僕は……強くなりたい! いきなりこんなことをお願いするのは不躾だと分かっていますが……」


「……なんで強くなりたいんだ?」


「僕は、今まで毎日色んな人に心配をかけて、守られてばかりいました。昨日だって……阿吽さんに助けられなければ逃げる事すらできなかった。でもそれでは駄目なんです! 上手く伝えられないですが……」


 ハイルに目配せをすると『あっちゃー、やっちまった』といった感情が口に出さなくても分かるほど呆れている。シエルの方は……あー、コイツ何にも考えていない顔してるわ。

 いずれにせよ、キュルラリオは【テキラナ】と懇意にしているが、所属はしていない。だからこそハイルも口出しはしていないし、しないということだろう。

 ってことは、これは俺の一存で決めていいって事だな。


「そうか。ちなみに、キュルラリオはどれくらいの覚悟を持ってこの話をしてるんだ?」


「覚悟……ですか?」


「俺に師事したからといっても結局やるのは自分自身だ。それに、俺達もそんな悠長にしている時間もない。敢えて隠さず伝えるが、時間を無駄にはできないんだ。中途半端な気持ちで言っているなら止めておいた方が良い」


「中途半端なんてっ!! 僕は本気です! それこそ、どんなキツく苦しい修行も受ける所存です!」


「その“本気具合”を知りたい。安全に強くなれることなんて無いのはここに居る誰もが知っているぞ? それに、何度危険な目に逢ったとしても、求めた強さを得られる保証なんてどこにもない」


「危険なのは百も承知です!」


「俺は教えるのが得意じゃないぞ?」


「それでも僕は阿吽さんの強さに憧れてしまったんです!」


 これは俺が受けるまで折れるつもりはないのだろう。その意志は言葉からも表情からも伝わってくる。コイツ、見た目と反して相当頑固な性格をしているな。

 ……だが、これまでに見てきたキュルラリオからは一つの懸念がある。それは、『逃げ癖』。


 ウィスロというダンジョンは、迷宮離脱石の存在が良くも悪くも攻略を他のダンジョンと比べて格段に安全にしている。もちろん安全に攻略するに越したことはない。だが、規格外の力を求めるのであれば、自分の限界を何度も超える必要が出てくる。これは、死にそうな程のピンチに陥った時にどんな思考・行動をするかで壁を越えられるかどうかが決まってくると言ってもいい。

 スキルで迷宮帰還ができる俺達もそうだが、シエルやハイルも引けない場面だけは、迷宮離脱石を使うという誘惑を跳ねのけて自分の我を貫いたからこそ、この若さでこれほどの強さや胆力を身につけることができたのだろう。


 それに比べ、キュルラリオは“驚いた時に尻尾が切れる”と言っていたが、恐らくそれは最低限のリスクで迷宮離脱石を使って逃走(・・)できる隙を作るというリスクヘッジから、無意識に近い形で行っている行為だと俺は考えている。もちろんそれが悪いというわけではないが、危険になった時に逃走を最優先に考えて動く奴はそこが成長の限界だ。事実、キュルラリオは最大限の安全マージンを取って初級ダンジョンにしか行っていないのが鑑定眼で見たレベルからも分かる。

 さて……どうしたもんか。


「阿吽様、わたくしからひとつ提案があります」


 俺が悩んでいると、シンクが一歩前へ出て口を開いた。


「うん? どんな提案だ?」


「はい。キュルラリオさんの仰っている、その“覚悟”を試してみるというのはどうでしょう?」


「……つまり、試験か?」


「その通りでございます。それであれば、それほど時間を掛けずともキュルラリオさんの覚悟が阿吽様にも証明できるかと」


 これは、結構優しいようで厳しい事を言っている。

 恐らくシンクはキュルラリオに諦めさせるための口実を作っているようなもので期待はしていないのだろう。ただ、なかなか悪くない。

 “強くなりたい”という気持ちは俺にもよく分かる。それこそゾンビになった時には思考のすべてが強さの渇望に支配されるほど強大な力に対しての渇望があった。大切なものができた今でも、その思いは全く色あせてはいない。


 だからこそ、この荒唐無稽なキュルラリオからのお願いも、キュルラリオの特性を理解しながらも無下にすることができずにいる。ならば、試験という形で明確な壁を設け、それを突破できるだけの意思とポテンシャルを証明する形をとれば、結果がどちらに転んでもスッキリはするだろう。


「よし! シンクの意見を採用しよう。ってことでキュルラリオは明日の朝、中級ダンジョン【狼の塔】に来てくれ。そこで覚悟と能力をみるテストを行う。数日間ダンジョン攻略を行うつもりで自分なりの準備をしてきてくれ。試験の内容と合否基準はその場で伝える。お前の覚悟を、見せてみろ」


「わ、わかりました! チャンスを頂きありがとうございます!」


 俺の返答を聞き、キュルラリオの表情に安堵と期待の感情が浮かび上がる。

 少し浮かれているその顔を見ながら、「明日はキュルラリオにとって最悪の一日になるだろうな」と考えている俺の心情は、キヌだけが正確に読み取っているのだった。


ギリギリ間に合わず、投稿が遅れてしまいました汗

すんません!


次話は8/2(金)投稿予定です♪

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