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第224話 シエルとハイル

 

――キィィィン!!


 武器が激しくぶつかり、蛇の塔4階層の薄暗い空間にチカチカと火花が散る。

 周囲に出現する魔物も思わず身を潜めるほどに苛烈な攻防が繰り広げられているが、まだ強化(バフ)スキルは使っておらず互いに様子見。両者とも力量を推し量っているような状態だ。


「ふぅん……なかなかやるね」


「お前もな」


 ウィスロに来て正解だったと思えるくらいには、この一連の攻守で相手の実力が高いのが理解できた。それに、まだまだ実力は隠しているだろうがコイツは“人間”と戦い慣れているように感じる。

 邂逅してすぐから鑑定眼のスキルを使ってみようとはしているが、相手の動きが速いだけでなく、鑑定している間に隙を突いて攻撃を仕掛けてきやがる。


 ダンジョン攻略がメインのウィスロという街に於いて、この若さでここまで対人戦に慣れているというのはどういうことなんだろうか。俺の思っていた以上にこの街では色々な(しがらみ)があり、陰謀が渦巻いているのかもしれない。それに、コイツの歩んできた人生にも興味が沸いてくるが、今は余計な事を考えず喧嘩に集中した方が良いだろう。


「……ちょっとギアを上げようかな」


 襲撃者がそう小さく呟いたかと思えば、逆手に持った刃付きトンファーでの連撃に加えフェイントと蹴りでの攻撃が混ざり出す。

 単純なスピードや身のこなし、攻撃速度だけ見たら圧倒的なAGI(敏捷)特化の近接ファイタータイプだ。しかも両手両足に装備した武具は攻守自在の形状。あまり見ない武具だが、コイツの戦闘スタイルとの相性は抜群のようだ。さらに魔力を流した白鵺丸と真っ向から打ち合える事を考えると高レアリティーの装備であることも予測できる。


 手数が多いだけでなく変則的なリズムの攻撃を一方的に押し付けられ、反撃のタイミングが見つかりにくい。


(……が、それも攻撃を避ける事や白鵺丸で受ける事を前提としていればだ。ここらで反撃をかましてやらんと、このイライラも治まらねぇしな!)


 相手の連撃に防御が遅れたフリをしてすかさず障壁を張る。すると、振り回した左足での蹴りを障壁が弾き返し明確な隙ができた。


「……っ!?」


「ようやく隙を見せたな。くたばれ」


 納刀した白鵺丸を相手の胴にむけて抜刀、一瞬後れて刀の切っ先から鮮血が舞った。

 だが、手ごたえが薄すぎる。衣服を切っただけのような感覚しか俺の手には伝わってこなかった。


「あのタイミングと体勢から咄嗟に避けるか。結構踏み込んだつもりだったんだけどな」


 俺のレベルは60台後半、ステータスはSTR(筋力)AGI(敏捷)INT(知力)に特化している。それだけでなく、種族が魔物由来であることを考えれば同レベルの人間よりもステータスは高い。強化(バフ)スキルを使っていなかったとしても、完全に体勢を崩したところから俺の攻撃を紙一重で避ける事ができるとなれば、相手は俺と同等かそれ以上の高レベル者である事はほぼ間違いないだろう。

 加えて、AGI特化型のスキルはほぼ確定し、恐らく所持しているであろう強化(バフ)スキルもAGI強化型の可能性が高い……。


「……危なかった。これは手を抜いてる場合じゃないね」


 そういうと空気がピンッと張り詰めたものに変わる。

 俺もすかさず【疾風迅雷】と攻撃型魔法障壁を発動、そして抜刀の構えを取った。


 それまでの苛烈な連撃の攻防とは打って変わって辺りに静寂が訪れる。

 そして、どちらともなく一歩目を踏み出そうとしたその時……、


 ――パンパンッ!


「はーい、二人ともそこまでやよー」


 3階層から上がってくる階段の方角から手を叩く音と共に、男の声が聞こえてきた。

 それと同時、それまで猛烈な殺気を放っていた相手はフッと力を抜くと、無防備にも俺に背を向けて声の主の方を向く。

 それに合わせ俺も階段の方へと視線を向けると、糸目の青年が話ながら近づいてくるところだった。


「阿吽さん、ごめんなー! コイツほんっと早とちりなんよ。シエルも武器仕舞って阿吽さんに謝りー!」


「ハイル……どういうこと?」


 今まで俺と戦っていた相手が“シエル”で、階段を上ってきた声の主が“ハイル”という名前なのだろう。この様子や雰囲気からすると、恐らく二人は同じパーティーやクランの仲間。

 ……というか、何でハイルは俺の名前知ってるんだ?


「ソコにおる阿吽さんは、暗殺クランに絡まれてたキュルを助けてくれたんよー! なのに、何をどうなったら二人が喧嘩する流れになってんの? いや……分かってるよ、どうせシエルが阿吽さんを暗殺クランの奴等と勘違いして攻撃したってトコやろ? ちょっと周り見れば分かるやん。もしかしてソコで気絶して転がってる黒ずくめの奴等が見えてなかったの? シエルの目は節穴なのかなぁ? ってか、相手が阿吽さんやなかったらシエルは大事な友人を助けてくれた恩人のこと斬り殺してたんよ? そのへんどう思ってんの?」


 やれやれといった雰囲気の中、穏やかな口調で一気に捲し立てるハイル。そして何を言われているのかをあまり理解できていない様子のシエル。

 ただ今の説明で俺は何となくどういうことなのかを理解できた。


「はぁー……、まぁ期待はしとらんけどな? シエルにはもう少し考えてから行動してほしいわ。どこの世界に、誰よりも先に特攻していくクランの(トップ)が居るんよ。後からケツ拭くこっちの身にもなって欲しいわ」


 それは俺にも心当たりがあるというか、何と言うか……。

 俺が言われているわけじゃないのに、自分が説教されているみたいで耳が痛い……。


 それでもキョトーンとしているシエルは大物なのかアホなのか……。数分叱られたシエルはこちらに振り向くと、「ごめんなさい」とぺこりと頭を下げて謝ってきた。

 素直に謝れるのは良いことだが、何か一気に拍子抜けした。というかもう完全に毒気が抜かれてしまっている。これがハイルの思惑なのだとしたら、かなり頭の切れるヤツってことになる。


「阿吽さん、今回は本当に申し訳ありませんでした。自己紹介させていただきますと、僕はクラン【テキラナ】のサブマスターであるハイルと申します。そんでこっちのアホはシエル……恥ずかしながらテキラナの頭張ってるモンですわ。混乱されていると思いますので経緯を説明させてもらいたいんですが、今はコイツ等をしょっ引かないかんのです。ホントなら今からうちのクランハウスへ来ていただいて、正式に謝罪させてもらうのが筋なんでしょうけど、まだ阿吽さんも俺達の事を信用できないでしょうし……明日にでもその場を設けさせてもらいたいいんですけど、それでもいいでしょうか?」


「あぁ、構わねぇよ。そん時は俺の仲間も連れて行っていいか?」


「もちろんです。では明日の午後に、二番街にあるテキラナのクランハウスへお越しください。冒険者ギルドに案内役を待たせておきますんで、まずはそっちに行ってもらえたらと思います」


「了解した。とりあえず明日いろいろ説明してくれるって事で良いんだな?」


「はい。もちろんです。……では、コイツら持って帰りますんで、そろそろ失礼しますね」


 そう言って黒ずくめの連中を何かの魔導具で捕縛すると、ハイルは軽くお辞儀をしシエルはヒラヒラと俺に手を振ってしながら離脱石で転移をしていった。

 シエルは戦闘中と普段のギャップがエグいな……。ハイルとの掛け合いを聞くに、かなり天然な感じの性格なのだろう。

 ただ、あの戦闘技術と戦闘勘は本物だった。


 ……ちょっと本気のシエルを相手してみたかったな。


次話は7/12(金)投稿予定です♪

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