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第212話 決意の瞳

 

 ~阿吽視点~


 ルザルクとフェルナンドが禁書庫へ向かった日、俺達【黒の霹靂】は幻影城のコアルームに居た。

 というのも、やはりルザルクの事が心配であったからだ。


 当初、ルザルクには最低でも1名護衛を付けることを提案していたのだが、ルザルクの「二人きりで禁書庫へ向かいたい」という強い希望に押し切られた。一応事前にキヌも同席しての面会を行い敵意がない事を読み取っては居たのだが、あれだけの事件(クーデター)を首謀したフェルナンドを、俺はどうしても信用できないでいた。


 キヌのスキルを疑っているわけではないのに、何故かソワソワしてしまうのは俺がそういう性格だからなのか、何かを見落としている気がしているからなのか……。

 ルザルクがこのコアルームに転移してこなければ何もなかったという事になるのだが……、嫌な予感というものは往々にして当たってしまうもの。数時間後に焦った様子のルザルクだけがコアルームへと転移してきた。

 だが、ルザルクの発した言葉は想像していた内容とは大きくかけ離れたものだった。


「阿吽! 兄さんが、危ないんだ! 早く助けに戻らないと!!」


「まてまて、落ち着けルザルク! 何があった!?」


「血濡れのジョセフが禁書庫に侵入してきたんだ! それで兄さんは僕を庇って大怪我をっ!! 早く助けにいかないとっ!!」


 その話で見落としていた事が一瞬にして思い出される。

 フェルナンドの策略を何とか対応するのに必死で記憶の奥に沈んでいた男、血濡れのジョセフ。ネルフィーとの戦闘後、そのまま王都を出たと思っていたが……それはとんだ勘違いだったようだ。


 しかもルザルクの言っている事が正確なのであれば、フェルナンドは俺の思っていたような人物ではなく、自分よりもルザルクを優先し、咄嗟に庇う事ができる兄だったという事。そして、そのフェルナンドが重傷を負った状態でジョセフと二人きりで対峙しているという事になる。


 であれば俺が取るべき行動はひとつ。すぐに禁書庫へフェルナンドを助けに行くことだ。

 ただそうなるとルザルクは十中八九付いていくと言い出すだろう。だが、禁書庫へ連れていくには言い方は悪いが正直足手まといとなりそうだ。それにルザルクはまだ動揺しており落ち着けてはいない。

 それは他のメンバーも同様の事を考えていたようだ。


「ん、私たちがルザルクを見てる。阿吽はすぐに助けに行ってあげて」


 キヌの言葉にシンクとドレイクも頷く。そしてネルフィーが言葉を重ねる。


「私は阿吽に同行しよう。ジョセフを取り逃したのは私の落ち度だしな」


 ジョセフと対峙するとなると、一度戦った事のあるネルフィーの同行は俺も考えていたことだ。それにルザルクの対応も他の三人がしてくれるなら心配はいらない。


「わかった。ルザルクの事は任せる」


 そう言ってアルラインダンジョンへと迷宮間転移を行い、全速力で王城へと向かう。王都の街中は2重バフを使ってAGI(敏捷値)を底上げし屋根伝いに移動。大通りも空舞で飛び越えて直線距離で駆け抜ける。そうしてルザルクが帰還転移してきてから10分程で禁書庫の前まで辿り着いた。

 そして扉のノブを回した瞬間、焦げ臭い匂いが鼻を突いた。


 一瞬躊躇するも、俺の手は勢いよく扉を開け放つ。するとそこには何かで吹っ飛ばされたように散乱する書籍があちこちで燃え上がり、部屋全体が橙色の炎で満たされていた。

 状況を見る限りでは何かがこの禁書庫で爆発したのだろう。


 そしてこの部屋の端では、全身に火傷を負ったフェルナンドが血溜まりの中で突っ伏していた。


「おい! フェルナンド!!」


 身体を揺さぶりながら声を掛けるも、フェルナンドからの返事はない。すぐさま鑑定をするが、フェルナンドは既に事切れた後だった。

 仰向けに体制を変えるとフェルナンドの首筋には鋭利な刃物で斬り付けられた跡が見えた。それは致命傷となった事が容易に想像できるほどの深い切り傷だ。


「阿吽、ジョセフの姿や気配はこの部屋の中から消えている……」


「……そうか」


「フェルナンド王子は?」


「間に合わなかったみたいだ……」


 喋りながら思わず噛みしめた口内は血の味がする。

 ネルフィーも平然を装っているが、その表情は悔しさが隠しきれていない。恐らく前回対峙した時にジョセフを逃がしてしまった事を後悔しているのだろう。

 だが、それはネルフィーが悪いわけではない。むしろあの場でのネルフィーの判断や行動は全て正しかった。でなければ、クーデターを食い止めることすら俺達には叶わなかったかもしれないのだから。


 不意に視線を移した先に見えたのは、何かを守ろうとしているようにガッチリと握られたフェルナンドの両手。その指を開けていくと、一つの指輪が握りこまれていた。


「この指輪は……?」


「阿吽、火の回りが早い。そろそろ私たちも脱出しよう」


「あぁ。だが、この禁書庫は……」


「恐らく魔導具で部屋自体には結界が張られている。書物は燃えてしまうだろうが、外部まで火の手が回る事はないだろう」


 確かにこの部屋の扉を開けるまで内部がこんな状態であるとは思いもしなかった。それがドアノブを回した瞬間に匂いが知覚できたのだから、結界はまだ問題なく作動していることになる。


「なら、帰還転移するか」


「フェルナンドはどうする?」


「死んだ生物は触れていれば一緒に帰還転移でダンジョン内に移動させられる。このまま連れて帰ってやろう」


「……わかった」


 そうして両手でフェルナンドを抱え幻影城へと帰還転移する。

 視界が切り替わった先では、待っていたルザルクが帰還してきた俺達を見てその目を見開いた。


「あ、阿吽……に、兄さんは……?」


「……すまん。間に合わなかった」


「っ!! くっ、……うぐっ……」


 俺の言葉を聞き終えると、ルザルクは悲痛な表情を隠すように顔を床へと向ける。


 今回のクーデターでは俺達が失ったものは無かったはずなのに、心にチクりと刺さるものがある。

 敵として出会い、つい数分前まで信用しきる事はできなかったが、最期は“兄”として(ルザルク)を守り、命を散らせた。

 そんなフェルナンドが打ってきた数々の策からは、目的のためならば情を切り離してでも決断しなければならない事を教えられた。それを同じように真似する事はできないだろうし、今後も俺は情を優先してしまうのだろう。


 ただ、真に選択を迫られた時……、その決断を後悔の無いものとするために、フェルナンドの事は忘れずに居たいと思える。

 それはアルト王国の次期国王であるルザルクも同様の思考に辿り着いたのだろう。


 顔を上げ目が合ったルザルクの瞳からは、頬に伝う一滴の涙とは反対に、強い決意を感じさせられた。


どうも! 幸運ピエロです★

第9章『王都クーデター編』もついに終盤!

残り数話の閑話なども挟んだ後、第10章『巨大迷宮都市ウィスロ編』へと続きます♪

今後も楽しんで頂けたら嬉しいっす★

次話は4/5に投稿予定です♪

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