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第202話 策励


~阿吽視点~


≪阿吽、フェルナンドに僕が王都に来たことがバレた! 闘技場の爆弾には、盗聴用の魔導具も仕掛けられていたんだ!≫


 突然ルザルクから入ってきた念話は、かなり悪い知らせだった。

 ルザルクが相当焦っている理由は分かるが、直接聞くまで俺の考えている事とルザルクの考えている事が同一だとは限らない。別であったとしたら、より(・・)悪い知らせとなるのだが……。


≪どういうことだ? 落ち着いて説明してくれ≫


≪あ、あぁ。……すまない。この盗聴用の魔導具は、1年前に僕が改良したものなんだ。従来の盗聴用魔導具はその受信範囲の狭さから近くに受信機がないといけなかったんだけど、それを改良して受信範囲をかなり広くしてある≫


≪つまり、王城に居るフェルナンドは闘技場で起きている事のほとんどを把握しているって事か?≫


≪これが闘技場の随所にしかけられていると仮定するなら……そういう事になるね≫


≪マジか……。でも、その仮定は正しいと考えておいた方が良さそうだな……≫


≪そうだね。というか、そうでなかったとしても僕とキヌさん達の会話が聞かれてしまった事に変わりはないよ≫


 思ったより状況は悪いと考えた方が良いな。

 状況を整理すると、盗聴用魔導具の件で新たにこちらが不利となった要素は2つ。1つ目はルザルクが王都に来ているのを知られてしまったという事。これによりフェルナンドが次の作戦段階に移るきっかけを作ってしまったわけだ。しかもルザルクがイブルディア帝国からアルラインに戻ってくることができる手段を、飛空艇以外に有している事までバレてしまった。


 そうなると、芋づる式に俺達も同様の手段を有していると知られてしまった可能性すらある。どのような方法なのか、どんな制限があるのかまでは知られていないと信じたいが……、キヌ達の会話を聞かれていたという事は、シンクがルザルクを迎えに行った事までは知られていると考えた方が良い……。


 正直これだけでも相当こちらがかなり不利となる要素なのだが、更に問題なのはもう一つの要素。

 それは、誰がどこに居るのかをリアルタイムで正確にフェルナンドに把握されている点だ。


 これは、ルザルクが王都に到着してから1時間ほどが経過していることを考えると、こちらの戦力が現時点でどのような配置となっているのか筒抜けになっているだけでなく、フェルナンドに今後の展開をシミュレーションする時間を与えてしまったわけだ。


 それに、王都に仕掛けられている2つの爆弾のうち1つはまだ見つかっておらず、闘技場の爆弾も完全に解体ができていないことまで把握されている……。


≪……これは、かなりヤバいぞ。こちらはフェルナンドの作戦も、クーデターの意図や目的もまだ分かっていないのに、こんなにも情報戦で負けているとなると……≫


≪うん。今すぐ仕掛けてきても、おかしくはないよね≫


 ルザルクとの念話でその結論を導き出した時、王都中にある音声拡張型魔導具からフェルナンドの声が流れ出した。


『私はフェルナンド・アルト。皆も知っての通り、この革命を主導している者だ。まずは、民衆には怖い想いをさせている事を謝罪しよう。申し訳ない……。だが、この革命を成功させたとき、今よりも皆の生活は格段に良くなる。それにこの国が、アルト王国が今よりも数段発展することを約束しよう』


 これは、相当マズい……。

 現状でこの放送を止める手段を俺達は持ち合わせていない。それに、何も知らされていない民衆は“情報”という甘い蜜を欲している。加えてフェルナンドからの謝罪と声明文(マニフェスト)の発信。フェルナンドが大義を持ってこのクーデターを起こしたとなれば、この放送を止める事で民衆が持っているモヤモヤとした負の感情が俺達に向く可能性すらある。

 そんな事を考えている間にもフェルナンドの演説は続いていく。


『この革命、皆がクーデターと言っている今回の争いを終わらせる手段は、もう1つしか残されていない。……第二王子ルザルク・アルト、私と勝負をしろ! どちらが“真の王”に相応しいか、二人で決着を付けようではないか! 私は玉座の間で待っている。……もし誰かを連れてくるなどという弱腰な事をしてみろ……。その代償は、分かっているだろう? それでは1時間後、玉座の間でな――』


 そう言うと音声拡張型魔導具からのフェルナンドの声は途切れた。

 ルザルクの呼び出し……これは完全に罠だ。トラップが仕掛けられまくっているボスエリアに裸で突貫しに行く自殺行為と何ら変わらない。

 それでもルザルクは、「一人で行く」と言うのだろう。アイツはそういうヤツだ……。


≪ルザルク、一応聞くが……≫


≪行くよ。それが罠であったとしてもね≫


≪ハァ……。そうだよな、お前はそういうヤツだよ……≫


≪ゴメン……≫


≪いや、良いよ。というか、そういうヤツだからこそ俺達はお前の事が好きなんだ。それに、何も考えていないわけではないんだろ?≫


≪あぁ。僕たちがフェルナンドに勝利する条件は明確だからね≫


≪爆弾の処理と、フェルナンドの無効化の両立……≫


≪うん。もちろん簡単ではないのは分かってる。でも爆弾の形状を実際に見る事ができたのと、1時間の猶予をもらえたのはこちらに有利となるはずだよ≫


≪残り1時間で俺達はもう一つの爆弾を見つけて処理しなきゃならねぇって事だろ? しかも移動時間を考えると、ルザルク抜きでそれをやらなきゃならねぇ≫


≪玉座の間までの移動は、僕の足だとおよそ45分かかる。だから、闘技場の爆弾は15分の猶予である程度まで解体を進めながら、どんな構造かは把握するよ。そこから先はネルフィーさんに頼むことになるけど、残りの作業は念話での指示でいけるはずだよ≫


≪フェルナンドの無効化はどうすんだ?≫


≪それは僕を信じてもらうしかないね……。でも、何とかする!≫


 ルザルクはそう言っているが、綱渡りな状況は変わらない。

 ……ただ、やるべきことや取れる手段は限られている。それに、今は1秒でも時間が惜しい。


≪分かった。フェルナンドの方はルザルクに任せる≫


 ここからは総力戦だ。俺達が取れるすべての手段でこの状況を打開するしかない。



次話は1/26(金)投稿予定です♪

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― 新着の感想 ―
[一言] これ、連れて来るなだから、先に王座の間に入ってメチャクチャにするのはダメなのかな? 敵対者の懐に無防備に入る王に民を守れるものか!……とか宣言して。 それで王都の前の平原で、どちらともなく遭…
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