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第180話 先行調査②


〜ネルフィー視点〜


 裏路地や屋根の上など、巡回しているフェルナンド派の兵士に気付かれないよう【隠密】のスキルを発動しながら闘技場付近にまで移動していると、通りかかった建物の中から微かな物音が聞こえてきた。


「うん? ここは……ただの民家じゃないな」


 一見すると他の建物とそれほど違いはないようにも思えるが、明らかにおかしい点が一つある。この建物には明り取り程度しか窓がないのだ。

 生活するには明らかに不便な造りであり、外から中を確認しにくくしているような建て方だ。


「中の気配は一つか。探ってみる価値はありそうだな」


 雨音に紛れて音を消し屋根へと跳び上がり、明り取りの窓から中を確認する。

 あいにくの天気ではあるが建物の中を確認できるだけの明るさは確保されており、その中で動く一つの影。


「あれは……マイケル?」


 序列戦で実況をしていたマイケルが建物内をウロウロと歩き回っている。その手にあるのは通信型魔導具。

 話し声が聞こえてこない事を考えると、今は誰かと通信しているという感じではなさそうだ。


 敵か、味方か……判断に困る。

 これまでの言動からすると【星覇】に対しては悪い印象を持っている感じはしない。だが、ここでの行動は明らかに不審なもの。


(とりあえず敵と仮定して動いた方が良さそうだな。それに敵であったとしても、このチャンスを逃す手はない)


 そう考え、樹属性魔法で窓の錠を外し、静かに窓から中に飛び降りてマイケルの背後を取り背中に短剣を突き付ける。


「動くな……」


「っ!? そ、その声は、ネルフィーさんですね!」


 予期せぬ返答に、今度は私が驚かされる番だった。

 声色はもちろん変えていたし、相手の死角を利用して近付いた。気取られるようなミスは冒してはいないと断言できる。それにもかかわらず、マイケルはたった一言聞いただけで私の正体を見破った。


「ネルフィーさんですよね!? あなた達を待っていたんです!」


 明らかに確信しているような言い回し。今マイケルは姿を見ずに背後に居る人物が私だと確証を持って識別している。


「どういうことだ? それに、なぜ声だけで私の事が判った?」


「それは、私のスキル【相対音感】と【音声識別】によるものです。一度聞いた声の主は多少声色を変えていたとしても判別がつきます」


 マイケルがそんなスキルを持っていたとは……。これは完全に慢心していた私のミスだ。

 だが、マイケルからは敵対の意思は全く感じない。両の手には通信型魔導具を持っており、武器を取り出す仕草や逃げようとする仕草が微塵もなかった。


「フゥ……わたしもまだまだ未熟だな」


 武器を下ろすと、マイケルがこちらに振り向く。


「ついてきてください! 今は時間が惜しいんです! 動きながら説明させていただきます!」


 少々呆気にとられてしまう会話の流れ。数秒前まで私が優位に立っていたはずが、今は完全にマイケルに主導権を握られている。

 ただ、どうしても敵だとは思えないし何かしらの重大な情報を持っている可能性がある。


 軽く頷くと、マイケルは部屋の端に向かって歩き、家具で隠してある地下への扉を開くとそのまま梯子(はしご)を下りていく。


「ここは、街の重要施設につながる地下通路です」


「なぜマイケルがこんな通路を知っている?」


「実は、私はアルト王国の諜報部隊に所属しています。序列戦の大会組織委員会は、所謂(いわゆる)隠れ蓑ですね」


 身のこなしを見る限りそれほど戦闘能力が高そうではないが、確かにマイケルのスキルは密偵向き、特に潜入捜査向きといえるものだ。もし私が同じ能力を持っていたなら、パッと考えただけでもいくつかの有用な使い方は思い浮かぶ。

 それに大会組織委員会の中でも“実況”という敢えて目立つ役割を担うことで『マイケル=実況者』という先入観を周囲に植え付けていたということか。


 そしてこの通路……建材の老朽具合からすると恐らくアルライン建設時に作られたもの。昔から密偵が使う特殊通路としての役割を担っているのだろう。

 ただ、それだけに懸念されることもある。


「この通路やマイケルの素性を知っている者がフェルナンド側にもいるのではないか?」


「この通路に関してはそうですが、私の素性は極一部しか知りません。ただ、ここに居るのが見つかればそれもバレてしまいますけどね……」


「ふむ。では、私たち以外にこの通路を使っている者は全て敵とみなして良いのだな?」


「そうですね。というか私の事を信じてくれるのですか?」


「まぁ、そうだな。マイケルは王国の諜報員なのだろう? それに、稀有なスキルを持っていることや序列戦の組織委員会に潜り込めることを鑑みると、おそらく国王直属の諜報部隊に配属されているのではないか?」


「……その通りです」


「ということは、今回反乱を起こしたフェルナンド派とは敵対関係にあるということだ。ならば、私たちの味方とも言い換える事ができると思ってな」


「ははっ……流石ですね。付け加えますと、レクリアやプレンヌヴェルトのルザルク派に情報を流していたのも私です。なので、バルバルさんから【黒の霹靂】が王都に向かったという情報も聞いていました」


「なるほど。だから “待っていた”と言っていたのか」


「そう言う事です」


 マイケルは味方だと断定して良いだろう。仮にフェルナンド派だとしたら、敵方に情報を渡すのはデメリットしかない。

 というか、言われるがままに移動しながら会話を続けているが、これはどこに向かっている通路なのだろう?


「マイケル、これは今どこへ向かっているのだ? 私は闘技場の方へ行こうとしていたのだが」


「行先はその闘技場です。というか、ネルフィーさんもその答えに行き着いたということは、やはり闘技場には何かありそうですね」


 会話を続けつつ、二人の足は暗がりの通路を進む。

 嫌な予感が少しずつ大きくなるのを感じながら——。


次話は8/18(金)投稿予定です♪

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