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第179話 先行調査①


~ネルフィー視点~


 迷宮帰還でアルラインダンジョンへと転移し、すぐさまコアルームからダンジョンの外へと出る。

 空は厚い雲に覆われ、小雨が降りしきっている。雨音でかすかな音もかき消されるこの天候は絶好の潜入日和と言えるだろう。


 これまでの人生、私は一人で行動することが多かった。街に入れば地形や潜入ルート、身を隠す場所を自然と探してしまうし、普段から足音や気配を殺して歩いてしまうのは幼少期からの癖のようなものだ。それは阿吽達と行動を共にしだしても変えられない程、この身に染み付いている。

 今回の潜入ルートも、これまでアルラインに来た際に見つけておいたルートだ。


 アルラインダンジョンを出てからは少し迂回して北側の城壁へと向かう。

 アルラインの北側には門が無く高い壁に囲まれているが、一部だけは城壁が壊れており飛び越えられる高さとなっていた。

 これはイブルディアの魔導飛空戦艇が侵攻してきた際に壊されたものだったが、復興の優先順位が低く未だに放置されている場所でもある。

 今回はそのお陰で楽に侵入できるのだから、何が功を奏すか本当に分からないものだ。


「さて……まずは民衆がどうなっているか探っていくとしようか」


 頭の中を整理しつつ何が阿吽の欲している情報かを精査する。

 【星覇】のクランマスターであり、我らのパーティーリーダーでもある阿吽の性格はこれだけ一緒に居る時間があれば自然と理解できる。

 なんやかんや言っても周囲の事や弱き者を放って置けない性格からすると、今回一番気になっているのは民衆たちの事なのだろう。もちろん国王の安否も気にしてはいるだろうが、それは“国王”として心配しているのではなく、“ルザルク(ダチ)の父親”だから心配しているというだけのこと。恐らく、その感情はそれ以上でもそれ以下でもないのだろうな。


 裏通りから侵入するも街中は妙なほど静まり返っている。

 建物の影から表通りを見てみると王国騎士団の装備を身につけた兵士が二人一組で警備している。だが、現状を考えればその兵士達はフェルナンド派の反乱軍であることは容易に想像がつく。


「バレない程度に誘いこんでから尋問するか……」


 近くに落ちていた小石を拾い、反対の通りに向かって投げ、物音を立てると近くを巡回していたす2人の兵士がその音に気付き裏路地へと入って行く。

 それを確認しつつ屋根伝いに兵士たちの後ろに回り込み、即座に一人の首を短剣で斬りつけ絶命させ、その流れのまま音を立てないようにもう一人の背後へと忍び寄り首元に刃を突き付けた。


「動くな……。そのままゆっくりと手を上げ、私の質問に答えろ」


「だ、誰だ?」


「お前に質問をする権利はない。死にたくなければ全ての質問に偽りなく答えることだ」


 そう言って拘束している兵士の視線を、動かなくなった仲間に誘導する。


「わ、わかった! 頼むから、殺さないでくれ……」


「現在のアルラインの状況、それと民衆や国王の安否はどうなっている?」


「アル、アルラインは……、俺達フェルナンド軍が占拠している。それと、民衆はあらかた闘技場に集め終わったところだ……」


「国王は?」


「そこまでは知らねぇよ……。俺達は街の巡回と民衆を闘技場に誘導する役割だ」


「では次の質問だ。フェルナンドは今どこにいる?」


「そ、それも知らねぇよ! 城に居るとは思うが……」


 やはり末端の兵士では知らされている情報はこんな程度か……。仕方ない、ここからは自分の足で情報を集めるしかないな。


「そうか、なら少し眠っていてくれ」


 短剣を持っていない左手に睡眠のエンチャントをかけ、手刀で兵士を昏倒させる。

 別に殺しても構わなかったが、自らが口にした約束を守らないというのは阿吽に叱られそうだと思い、眠らせる事にした。


「私も随分毒気を抜かれたものだな」


 そんな事を考えながらも不意に顔が綻んでいるのに気付き、自分も変わったものだとしみじみ思いながら、倒した2人の兵士を近くの小屋に放り込み隠蔽工作を行う。

 だが、今はそれほど悠長にしている時間はない。阿吽達が到着する1時間程度の時間でできる限りの情報収集を行い、そこから情報の精査を行う必要があるためだ。


 現状得られている情報から考えるとフェルナンドは相当頭がキレる。王都襲撃とプレンヌヴェルトの襲撃をほぼタイムラグなしで行えるほどの緻密な計画と情報統制。そして、それを最小限の人数で行うだけの状況把握能力と人心掌握術を持ち合わせていると考えていい。もし、時代が違えば賢王と呼ばれていた逸材かもしれない。


 ……ただ、一点引っかかることがある。


「なぜ闘技場に民衆を集める必要があるのだ? 保護するため……、それとも反撃を恐れて……?」


 裏路地から大通りを覗き込み巡回兵の行動パターンやルートと見極める。ここから王城と闘技場は真逆の方向。残りの時間を考えると、どちらか片方しか念入りに調査することはできないだろう。

 となれば優先すべきは……


「闘技場に向かうか。やはり何かが引っかかる。自身の直感を信じてみよう」


 胸騒ぎを鎮めつつ、大きく一度深呼吸をし気配を消して移動を再開する。

 この嫌な胸のザワつきが杞憂であることを願って。


次話は8/11(金)投稿予定です♪

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