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第178話 勝利条件


~阿吽視点~


≪主、命令通りすべての敵兵をゾンビの餌にしてやったぞ≫


≪そうか、よくやった≫


 念話でヤオウからの簡潔な報告を受けたのは、俺が命令を出してから30分と経過していない時だった。ヤオウの性格であれば全員を一瞬で消し飛ばすような魔法は使わないだろうとは考えていたが、思った以上にヤオウと敵兵とは力の差があったようだ。


 それとイルスからの報告では反乱軍の中に【嵐の雲脚】の奴等も居たらしい。それに関して、昔であれば思うところもあったが、今となってはどうでもいいことだ。

 ……ただ、なぜかプレンヌヴェルトを攻められてからずっと俺の感情は不安定なままだ。どこかイライラしているのを自覚している反面、それを客観的に捉えているだけの冷静さは保てている。今回の事で俺の中の何かが大きく変わった気もするが、それが俺にとってのマイナスな変化であるとはどうしても思う事ができない。


 恐らく、魔物になって初めて明確に何かを奪われる可能性があるという危機感に過剰反応してしまっているのだろう。


「阿吽、また考え過ぎてる……」


 降りしきる雨の中、キヌの一言でふと思考の海から現実に引き戻される。


「あ、あぁ。悪い癖が出てたな」


「ん。どうしたの?」


「いや、今回の事で俺の中で何かしらの変化が起きてる気がしてさ……ちょっと考えこんじまった」


「そっか。でも、私が進化した時に阿吽が教えてくれた。“変化は悪いことじゃない”って。それにキヌはキヌだって言ってくれたでしょ?」


「そうだったな。……うっし! 今はアルライン奪還の事を考えるとするか!」


 キヌの言葉でハッと我に返る。

 そして、両手で頬を叩き気持ちを切り替えるとネルフィーが口を開いた。


「その事なんだが、私から提案がある」


「お? どうしたネルフィー」


「今から私だけがアルラインダンジョンに転移し、先んじて諜報を行うというのはどうだろうか?」


「確かにな。今のネルフィーが本気で隠密行動したらゾアやノーフェイスクラスの奴でもない限り見つかる事はないだろう」


 このままドレイクに乗っていくとなると、あと1時間半ほど到着までに時間がかかる。その間だけでもネルフィーが諜報活動をしてくれていれば、かなり正確な状況が分かるはずだ。 


「恐らく今のアルラインはかなり厳重な警戒態勢となっているはずだ。それにこちらの持っている情報はあまりに断片的で明確なものが少なすぎる。敵地に乗り込むことを考えれば情報は多いに越したことはないだろう?」


「そうだな。危険な仕事だが……頼んでいいか?」


「承知した。重点的に調べる情報は……」


「あぁ、そのへんはネルフィーに任せる。ってか、あんまり無茶はすんなよ?」


「フッ、やはり阿吽は優しいな。……だが甘く見ないで欲しい。これでも私はSSランクパーティー【黒の霹靂】の斥候だ」


「そうだな。じゃあ情報収集は全面的にネルフィーに任せる。頼んだぞ」


「任せておけ」


 少しはにかんだ笑顔でそう言うと、ネルフィーの身体はフッと消え、アルラインダンジョンに転移していった。

 さて、俺としてもこれからアルラインに到着するまでに今ある情報を纏めておこう。



 まず現在の状況としては、王都アルラインはフェルナンド派の反乱軍に完全占拠されてしまっている状態であり、国王の安否は不明。また、住民たちがどのような状況に置かれているのかというのも不明だ。ただ、このあたりは到着までにネルフィーが情報を集めてきてくれるだろうから一旦置いておく事にしよう。

 次に、プレンヌヴェルトに攻め入ろうとした敵兵3500名は全て幻影城に転移させヤオウが殲滅している。この情報が正確にフェルナンドに入る事は状況的に見ても考えにくいが、敵勢力が魔導具での通信で情報共有を行っていると仮定した場合、プレンヌヴェルト侵攻側からの情報が不通となった事で敵方の作戦が失敗したという考察はされるはずだ。また、俺達がドレイクに乗って飛び立ったという情報は恐らく筒抜けになっていたと考えておいた方が良い。


 最後に、ルザルクは現在イブルディア帝国の帝都イブランドで会議中。今晩に会議が終わって帰ってくるにしても恐らくアルラインに到着するのは明朝が最速だろう。

 この内乱の終結はフェルナンドが死ぬかルザルクが勝利宣言をするというのが俺達の勝利条件となることを考えると、ルザルクが戻ってくるまでに俺達がある程度戦況を有利にしておく必要がある。そしてスパルズやステッドリウス伯爵がかき集めた兵が出来るだけ早くアルラインに到着するという流れが現状考えられるベターな作戦だ。


 と、ここまで考えてふと疑問が浮かんできた。


「ってかさ、フェルナンド側の勝利条件って何だ?」


「そうでございますね……自分以外の王族を全て亡き者にするというところでしょうか」


「ん? なんでそうなるんだ? こんなクーデターを起こして王になったとしても、不満を持ったり恨みを持った奴等がまた同じようにクーデターを起こしたらそれまでじゃねぇか」


「恐らくですが、それを鎮圧できる目星が立つほどフェルナンド派と呼ばれる派閥は強大であったのでしょう。10年以上も国政の第一勢力となっていたわけですし、潤沢な資金を貯め込んでいたといったところでしょうか」


「でも序列戦の後でフェルナンド派の貴族は領地や資産は没収されてたし、中には取り潰された家もあったんじゃねぇの? ……あっ! “財産隠し”ってヤツか!」


 このあたりはかなりブラックな部分だが、貴族の中には財産を隠すことで税収を抑えるような者も居ると聞いたことがある。それが何代にも続けて平気で行われたとしたら、その資金は莫大な物になる……。

 ただ、それは人間だった時に冒険者をしていた俺とは全く違う世界の事で、「悪い奴等は貴族にもいるんだなー」くらいの感覚で考えていた。

 さすがのルザルクも序列戦以降にこれだけ色んな事が立て続けに起きていたら、そこまで手が回っていなかったという事か……。まぁ、それは今考えても仕方ないことだし、所謂(いわゆる)“後の祭り”だ。


「ってことは、フェルナンドとしてもルザルクが王都に戻ってくるというのは想定内。むしろ都合が良いって事になるのか……」


 どこまでも渦中に巻き込まれるルザルクを不憫に思いつつ、ダチのために俺達ができる事は何なのかアルラインに到着するまでの間、再び思考の海に引きずり込まれていくのだった。



次話は8/4(金)投稿予定です♪

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