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第176話 夜色の風


〜ヤオウ視点〜


 風魔法を駆使し、再びフワリと宙に浮かぶと3000を超える敵兵が綺麗な隊列を成しているのがよく分かった。

 視界に入り切らない程の人間がものの数分間で、こうも纏まって綺麗な陣形を整えたのには、我も感嘆の息が漏れるというもの。

 揃いの鎧を着ていることもあり、一つの巨大な生物にも見える。

 うむ、実に良い。


 これから我は主の命に従い“全力”で殲滅を行わなければならない。であれば、相手もそれなりの強者でなくては困る。

 一人ひとりは吹けば飛ぶような脆弱な者たちであったとしても、これだけの数が居ればそれなりにまともな戦いにはなるかもしれないという期待もある。


 もう少し高度を上げると、整えられた陣形の後方でもう一つの固まった動きがあるのも確認できた。


「あれは……冒険者達か?」


 各々がバラバラの装備を身に纏い、4〜5人が一塊となっている。

 これまでダンジョンのモニターで見てきた人間も『冒険者』という職業の者たちであり、4〜5人で動くパーティーと呼ばれるチームが基本単位だと主は言っていた。


「ふむふむ。なるほど……個の強さで言えばあの最奥にいる4人が群を抜いているか」


 楽しみは最後に取っておくのもまた一興。まずは兵士達を片付けるとしよう。

 そう考えてまず頭に浮かんだのはキヌ殿が得意としている広範囲魔法。これまでクエレブレ殿との模擬戦では近距離戦ばかり行っていたが、進化した今の我なら一体どれくらいの魔法が放てるのか……自分でも興味がある。


 自身の属性である風魔法は使い勝手が非常に良い。それに、かなり応用が利きやすい最高の属性だと自負している。

 というのもこの『風』という属性は、この世のどこにでも存在する“空気”をコントロールする魔法と言い換える事ができるからだ。


「まずは敵の数を減らすところからやるとしようか。【ダウンバースト】」


 魔力を練り上げ、敵の上空を指差し遠隔操作で動かす。そしてその空気の塊を地面に向けて叩きつけるように動かした。


 すると、その周囲に居た敵兵はメキメキッと言う音と共に四肢が砕けながら、糸が切れた操り人形のように地面に張り付けられ、口から血や内臓を噴出しながら絶命していく。

 またその周囲に居た者たちは強烈な突風に煽られて吹き飛び、魔法を落とした部分だけが人が居ないドーナツのような形に陣形が変わり、中心部は血だまりの池のようになっている。


 ただ、これで減った敵の数はおよそ100程度。残りの人数を考えれば、もっと広範囲を一気に殲滅できるような手段を講じるのが良さそうだ。


「であれば、逆に持ち上げてみるか……【アップドラフト・トルネード】」


 今度は広範囲をカバーできるように範囲を広く設定。出力は落ちるが人間を持ち上げるなら十分であろう。

 魔法を発動すると、イメージした通りに兵士達は地面から徐々に浮き上がり風の渦に飲み込まれていく。


「うわぁぁあぁぁ!!」


「身動きがっ! ぬわっ!?」


 風の力というのは、人間の体重くらいならば軽々と持ち上げる。また、一度足が地から離れてしまえば必死に手足をバタつかせたところで焼け石に水……。もう抵抗するだけ無駄というもの。

 発動した魔法は徐々にその勢いを増していき、数秒もしないうちに兵士達は上空へと吹き飛ばされていく。さらに、装備していた武器も一緒に巻き上げられ、渦の中ではロングソードやハルバードなどが踊り狂う。

 そして効果範囲の兵士達をあらかた上空へと吹き飛ばした後に魔法を消してしまえば……


——ドカドカッ、ゴリッ、グチャ……


 あとは自然に落ちてきて硬い地面に叩きつけられるだけ。たとえ鎧を着こんでいても、ほとんどの者は叩きつけられた先で順番に朱色のシミと化していく。

 ただ、これでも生き残っている者も中にはいる。


 しかし、その兵士達は運が良いのか悪いのか……。この直後に起こる更なる地獄を体感しなければならないのだ。

 少しの時間をおいて上空に巻き上げられた大量の武器が豪雨のように降り注ぎ、生きている者、既に死んでいる者関係なくその身に風穴を開けていく。生者がミンチにされていくその光景は、想像以上に(むご)たらしい。ここに住まうゾンビたちにとっては食べやすくなるのだろうが……。


 それにしても敵兵は何をやっているのだろうか……。

 これだけ好き勝手に蹂躙されているというのに反撃してくる者が一人たりとも居ない。これでは相手任せに全力を出すという考え自体を変える必要が出てくるな。


「ともなれば、ここから肉弾戦に切り替えるとするか」


 たった2発の魔法で全体の8割も殲滅できてしまっている。残りの敵兵は目算で700程度と後方に控える冒険者達。併せても残っているのは800人程度()()()()()

 正直なところ、興醒(きょうざ)めも良いところだ。少しは歯ごたえのある者も居るのではないかと期待はしていたが……、後ろに控えている冒険者達もこの程度の魔法で呆けているようであれば底が知れる。


 それならばもう、強制的に自身の全力を出すしかない。


「【エアブースト】【ストームウェア】」


 2重の身体強化(バフ)に加えて、魔法障壁も発動。

 すると全身の毛が風で逆立ち、身体の周囲を透明な膜が覆う。

 こうなってしまえば、逆に手加減など出来ない。相手がどんな小物であったとしても、純粋なる暴力(パワー)で全て叩き潰してくれる。


 我の名は夜王(ヤオウ)

 主に付けて頂いたこの名を体現するように、この夜の戦場を支配する王がどういう存在か……、今からその証明をしてみせようではないか。



次話は7/21(金)投稿予定です♪

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