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第173話 奇才の策略


〜王都アルライン 王城〜


「フハハハハッ!! どうだ! 私が本気を出せば革命すら起こせるんだ!!」


 玉座に深く腰掛け高笑いをするフェルナンドと、その横で縛られ床に転がされている国王。この状況を(はた)から見れば、クーデターは成功し既に勝負は付いているように見える。


「フゥ……。いや、違うな。ここからが本番だ」


 だが、フェルナンドは(おご)っているわけではなかった。それどころか客観的に今の状況を把握し、これから起きるであろうことまでもある程度想定している。


 このフェルナンド・アルトという男、これまで世間からは無能という烙印を押され、貴族達には御しやすい人形としか見られていなかった。

 だが、その実“そう見えるように”自身のイメージをコントロールしていたのである。


 フェルナンドは無能ではない。むしろルザルクに匹敵する()()であった。

 幼少期から「王になる」という優先順位をひと時たりとも崩さず、アルト王国内の政治・経済だけでなく、国政に関わる者の人間性やパワーバランスを全て把握した上で、敢えて“無能”を()()()いた。そうすることで甘い汁を吸おうとする貴族たちが群がるように仕向けたのである。そして最終的にはフェルナンド派と呼ばれる一大勢力を築いていったのだ。

 要するに、“天才”と呼ばれるルザルクですら王位継承権を得る事ができない程の、国政に於ける『数の暴力』を確立したのである。


 それは一歩間違えば全てが崩れ落ちる綱渡りのような所業であったが、10年以上もそのバランスを保ち続けていたと言えば、その異常なまでの状況把握能力と判断力が垣間見えるものだ。

 唯一フェルナンドがミスを犯した点を挙げるとするならば、【黒の霹靂】というイレギュラーをルザルクより先に見つけ出す事ができなかった事だけである。


 そんなフェルナンドは現在、当然のように懸念していることがある。先日の褒賞授与式でSSランクとなった冒険者パーティー【黒の霹靂】のことだ。このクーデターが知れ渡った時、彼等が出張ってくるのは火を見るより明らか。


 圧倒的な武力と機動力。そして周囲を味方につけるカリスマ性を兼ね備えた【黒の霹靂】とその所属クランである【星覇】は、フェルナンドからすると今回の計画に於いて一番厄介な敵だ。

 彼等を何とかしなければ、真に“革命は成功した”とは言えない程に。


「まぁ、既に手は打ってあるがな。それに、奥の手が無いわけでもない……」


 玉座に座りながら足を組み直し、片肘をついて思案する。【雷帝】と呼ばれる男について。

 一見ぶっきらぼうでハチャメチャな行動をしているように見えて、その行動原理はある程度筋が通っている。

 その行動原理とは、仲間や大切な者を守ることを何よりも優先するという事。

 そこまで分かっているのならば、奴等をこの王都に来させないだけの事態を故意に引き起こしてやればいいのだ。阿吽が大切に思っているであろう場所、プレンヌヴェルトで。


「何を犠牲にしてでもこの革命を成功させてやる。もう後戻りなんて、出来やしない……」


 フェルナンドが考えているクーデター完遂までの道筋は3つの段階に分けられており、王都襲撃はまだその始まりに過ぎない。

 まず第一段階。ルザルクがイブルディアに訪問し、王都を留守にしている間に王城の中と外から同時に襲撃を仕掛ける。この段階でフェルナンドが打った策は、王国騎士団と同じ装備を反乱軍に付けさせることから始まる。そしてその見分け方を反乱軍のみに周知することで同士討ちを避けたのだ。

 これにより混乱した王国騎士団はろくな反撃もできず、フェルナンド率いる反乱軍はほぼ一晩の間に王城の陥落まで成し遂げてしまった。


 次に第二段階。これは阿吽達【黒の霹靂】をプレンヌヴェルトに足止めするという段階だ。あわよくばプレンヌヴェルトも陥落させる事ができれば一番良いのだが、そんな甘い幻想をフェルナンドは見てはいない。

 1日……たった1日だけでも阿吽達を足止めすることができれば、勝算は大きくフェルナンドに傾く。


 そして最後の第三段階。ルザルクが王都に戻ってきたタイミングで拘束、そして自分以外の王位継承者と国王を殺害し、見せしめに(はりつけ)にでもしてやればもうフェルナンドに歯向かう輩はいなくなるだろう。

 これを成し遂げるために、第二段階で阿吽達をプレンヌヴェルトに足止めさせておく必要があるのだ。ここまで予定通りに事が運べば、ルザルクはもう何の抵抗もすることができない。唯一懸念されるのはルザルクが王都へ戻ってこないという点だが……それも国王を生かしておく事で、そうなる確立を限りなくゼロに近づける事はできる。

 ギルド間で行われている魔導具での情報共有を()()()そのままにさせているのは、意図的に現況をルザルク派の貴族に流してやることで、ルザルクへも自然と情報が伝わり、急いで王都へ戻ってくるだけの理由付けをしてやるためだ。


 そこまで考えたフェルナンドは一度思考を打ち切り、自身の目の前に並ぶ反乱軍へと指示を伝える。


「早速だが、第二段階に進むとしよう。プレンヌヴェルト近郊に潜伏している我らの軍3400と【デイトナ】に属していた冒険者たちをプレンヌヴェルトに向けて侵攻させろ。手段は問わない……今こそ憎きルザルクと【星覇】たちに怒りの鉄槌を下してやれ!」


「「「「「うおぉぉぉぉぉーーー!!!!!」」」」」


 この反乱軍には序列戦以前に国政の覇権を握っていたフェルナンド派の貴族の他に、元デイトナの冒険者達も多く含まれている。【デイトナ】はそれまで長年序列1位であったこともあり、所属する冒険者達も多い。また、当然その中にはSランクのパーティーも多数含まれていたが、クランの強制解体以降は肩身の狭い思いを強いられていた。

 そして、その怒りの矛先が【星覇】に向けられるように裏で仕向けていたのも、実はフェルナンドの策略の一つである。


「さて、私も……やるべきことをやるとしよう」


 ゆっくりと玉座から立ち上がったフェルナンドは、隣で転がっている国王に一瞥(いちべつ)もくれず部屋を出ると、そのまま地下へと続く階段へと足を向けた。


 ——切り札(ジョーカー)を手札に加えるために。



2週続けてあとがきでの宣伝、ガチ目に失礼します!笑

書籍では、なろうで投稿させて頂いている話に加筆・修正を加えただけでなく、新たに追加した話も盛り込まれております! また、書籍の最後にはショートストーリーとしてドレイク視点での閑話を書かせていただきました♪


さらに、協力書店様や電子書籍、セブンネットなどで書籍を購入いただくと、先着順とはなりますが番外編のSSが付いてきます! そして、今回書かせていただいたSSは全4種類!


●WonderGOO限定 購入特典ショートストーリー

『受付嬢のお仕事~冒険者ギルドレクリア支部受付嬢 ミラ視点~』

ギルドの受付嬢が見た【黒の霹靂】の特異さと、中でも一番気になる人物、シンクの話。


●セブンネット限定 購入特典ショートストーリー

『バルバルの手記』

クラン【星覇】の仲間になったバルバルが見た阿吽の魅力と凄さ、そして危うさとは……


●協力書店購入特典ショートストーリー

『シンクの仲良し大作戦~シンク視点~』

キヌともっと仲良くなりたいシンクが考えた、とある休日の作戦とは……


●電子版特典ショートストーリー

『期待の大型新人~スパルズ視点~』

レクリアのギルドマスター・スパルズが見た阿吽の実力、そして【黒の霹靂】に抱く期待とは……


詳しくは公式HPにも載っておりますので一度見て頂けたら幸いです★

https://pashbooks.jp/info/danzon_tokuten/


ということで、テンション爆上がりのまま投稿もしっかり続けていくので、引き続き応援よろしくっす!!

次話は6/30(金)に投稿予定です♪


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― 新着の感想 ―
[気になる点] クランハウス(表向き)が王都にないのは問題だからって、契約済みのエルフが常駐してませんでしたっけ? クランハウス(真)の作成に注力してるにしろ、そっちに誰も居ない、と言うのは無いと思う…
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