第152話 階層管轄者
「う、裏ダンジョンっすか?」
「超難関ダンジョンを攻略したら、さらに難易度の高いダンジョンがあるって面白そうだと思わないか?」
「それは攻略する冒険者視点で考えてもワクワクするっすね! 宝箱も期待しちゃうっす!!」
「それは阿吽やドレイクだからだと思うぞ。普通の冒険者は命の危険を感じるようなところに嬉々として飛び込むような者は少数だろう」
「うーん、確かに言われてみれば……」
「では、冒険者達のやる気を引き出すような演出をしてみてはいかがでしょうか?」
「ほぉ? 具体的にシンクはどんなのが良いと思う?」
「そうですね……。“各階層を制覇すれば、レアリティの高い武具が得られる”というように、報酬が挑む前に分かっている。とかでしょうか」
おぉ!! これはなかなか良い意見なんじゃないか? 人の欲というのは凄まじい。命と天秤にかけて余りある報酬が確約されているなら、それだけでやる気になる者も多いだろう。
「それアリだな! さらに階層クリアごとに3つの中から1つ選べるとかにしたら、撤退したとしても次回のモチベーションに繋がりそうだ!」
「いや、そもそもそれ以前にプレンヌヴェルトダンジョンが普通の冒険者には攻略できない程に難易度が上がっているでござるが……」
「ソレはソレでいいんだよ。イルスも最近25階層のヒュドラを攻略しそうなパーティがいるって言ってただろ? そうなると、あと数か月もすれば現状の最高階層である30階まで到達する可能性もある」
「ん。それにイブルディア帝国のウィスロダンジョンに挑んでいる冒険者達はアルト王国の冒険者達よりレベルが高そう」
「そうなんだよな。他国にもプレンヌヴェルトダンジョンの噂は広がっている頃だ。その噂を聞いて他国からも冒険者達が来ることになるだろう。その冒険者達はダンジョンの攻略にも慣れているだろうし、レベルも相応に高いと考えた方が良い。それに、5年後に起きるであろう魔族との戦いがスフィン大陸に及んだ場合を考えても、高難易度にしておくに越したことはない」
「うむ。そもそも阿吽の考えている構想は、ウィスロダンジョンをも超える超高難易度ダンジョンを作るという事だったしのぉ」
「だな! ってことで、シンクの案を採用しつつ魔改造は自重せずにいこう!」
「あの、それで俺達が手伝うことって何なんっすか?」
「そういえばまだ言ってなかったな。多分フォレノワールは難易度を上げる関係上、階層の作成に相応の時間がかかると思う。だから、ここにいるメンバーにはフォレノワールの“各階層管轄者”としてダンジョンの作成を手伝って欲しいんだよ。1人1階層を受け持って自分の考える最高難易度のダンジョンを作り上げて欲しい。そうすれば、おのずと多種多様で高難易度なダンジョンに仕上がるだろ?」
「マジっすか!? めっちゃ楽しそうなんっすけど!!」
「おう、マジだ! それに、星覇のクラン員全員の居住区域の作成を考えると、この構想は星覇のみんなで意見を出し合いながらやっていくべきだとも思ってる。だから、2日後に星覇全員を集めてこれからの計画を伝えようと考えたんだ」
「良いのではないでしょうか。エルフ達は給仕係を行うのに動きやすい環境を作りたいでしょうし、ドワーフ達も鍛冶場など拘りもあるでしょう」
「だろ? ってことで、2日後に全員を集めてくれ。そこで各階層管轄者とそのサポート役を発表しようと思う」
「では、わらわから皆に伝えておくのじゃ」
こうして、大まかにはなるが今後の計画を中核メンバーに伝えた俺は、フォレノワールのコアルームへと行き、アルスと共に会議室フロアを改築し、全員が集まれるようなフロアを作成した。
◇ ◇ ◇ ◇
「みんな、集まってくれてありがとう! んじゃ、さっそくだけど第三回迷宮魔改造会議を開催しようと思う」
2日後、バカでかい円卓を囲み総勢30名を超えるクラン員が勢ぞろいした。アルス達ダンジョンコアはもちろんのこと、エルフやドワーフ、獣人たちだけでなくメアやチェリー、ヤオウなど人語を理解できるダンジョンモンスターも来てもらっている。
敢えて円卓にしたのは参加者が全員の顔を見る事ができ、全員がこの会議の主役であるということを知らせたかったからだ。
「今回集まってもらったのは他でもない。今後の星覇クランとしての活動方針を伝えて皆にも色々手伝ってもらおうと思ったからだ。質問は適宜受け付けるから、疑問に思ったことは都度手を上げて質問してくれていい。できれば全員の意見を聞きたいくらいだからな」
周囲を見渡すとみんな無言で頷いている。ちょっと緊張している表情が多い感じだな。
フッフッフ……じゃあさっそく、その表情を驚きに染めてやるとしよう!
「まず、今後の活動方針を伝える。一言で言うと、フォレノワールダンジョンとプレンヌヴェルトダンジョンを連結し、世界最難関ダンジョンを作成する。そんでもってテーマは、『幻影城』だ!」
「城っすか!?」
「お! 良い反応ありがとうドレイク。そうだ、城だ! ダンジョンの機能を使って外装を巨大な城に変更する」
みんなが唖然としている中で、バルバルが手を上げる。
「阿吽さん、質問良いですか? 何で城なんです? 作成に相応のダンジョンポイントもかかると思うのですが……」
「ん? だってロマンがあるだろ? それに、侵入者に対しての威圧感がすごいじゃん」
数名ちょっと呆れた顔をしているが、ロマンは大事だぞ! なんてったってテンションとモチベーションが爆上がりする!
というか男なら誰しもが自分の城を持ちたいと思った事があるだろう。俺も例に漏れずその願望を持つ者の一人だ。そしてそれを実現できるだけの能力とダンジョンポイントがあるのだから、やらないという選択肢はない!
「それで、幻影城という名は? なぜに“幻影”なのでしょうか?」
「あ、それな! フォレノワールダンジョンの外装を変更すれば、突然常闇の森に巨大な城が出現するわけだろ? しかも“見えているのに入る事ができない城”だ」
「なるほど、それは確かに幻影城と呼ぶにふさわしいですね!」
「しかもめちゃくちゃカッコいい名前っす!」
「本当に男という生き物はそういうのが好きなのだな。女である私もカッコいいとは思うが……」
「最高のネーミングじゃね?」
「ん。良いと思う」
「ですわね。さすが阿吽様でございます!」
「まぁ、そういうことで今後フォレノワールダンジョンは対外的には『幻影城』という呼び名を広めていこうと思う。んじゃあ早速だが、エリア制作担当の発表を行う。まずクラン員の居住エリアはエルフと獣人達に任せたい」
「「「お任せください」」」
うん。良い笑顔だ! やっぱり自分たちの拠点となる場所を自分で造れるってのはワクワクするもんだよな! 彼女たちの建築センスに関しては、一度フォレノワールの会議室を作ってもらった時に実証済みだ。これは期待して良いだろう。
「次に武器防具やアクセサリー制作のための工房エリアは、ドワーフ達に任せる」
「「「おぅ! 任せてくれ!」」」
ドワーフ達は今までにもフォレノワールにある工房で武器や防具を作ってもらっており、青レアの武具までは造れるようになっていた。それをプレンヌヴェルトの宝箱に入れたり、街の武具屋に売る事で貨幣の調達やダンジョンポイントの節約でかなり貢献してくれている。
ただ、彼らの目標は俺達【黒の霹靂】のメインウエポンを作成・改良することのようなので、今後も腕を磨いてほしい。それにはより良い工房も必要となるだろう。ってことで、ここは今まで節約に貢献してくれていた分ダンジョンポイントを大盤振る舞いし、今後の投資としよう。
「最後に、各階層の管轄者と補佐を発表する。今日以降は管轄者も俺が許可した範囲内でダンジョンポイントを使用できるようになる。そして、各階層の管轄者はコレだっ!」
そう言うと、準備されていた垂れ幕が上から降りてきた。
<階層管轄者および管轄補佐>
〇 1階層管轄者 ドレイク (管轄補佐 イルス)
〇 2階層管轄者 ネルフィー (管轄補佐 バルバル)
〇 3階層管轄者 シンク (管轄補佐 メア、チェリー)
〇 4階層管轄者 クエレブレ (管轄補佐 ヤオウ)
〇 5階層管轄者 キヌ (管轄補佐 ウルス)
〇 最上階層管轄者 阿吽 (管轄補佐 アルス)
次話は2/3(金)投稿予定です♪