第150話 王位継承権
アルト王国 王都アルライン城
〜フェルナンド第一王子視点〜
私は、アルト王国で第一王子として生まれた。これまでの人生は色々とあったが概ね順風満帆と言えただろう。将来は私が国王になる、それは約束された未来。そう信じて疑わなかった。
『第一王子』という肩書だけで寄ってくる貴族たちにも、裏では『世間知らずの無能』と罵られているのはもちろん知っていた。だが、他人の評価など私の心に影を落とす一因にすらならない。国王となれば私に遜る事しかできなくなるのだ。
私には二人の弟と一人の妹がいる。その中でも次男のルザルクは地頭が良く、学生時代の成績は歴代の皇族でも例を見ない程の好成績を修めただけでなく、限られた一部の者しかできない魔道具制作まで独学で習得した。さらに、周囲を自然と味方に付ける柔らかい雰囲気とカリスマ性、そして巧みな話術をも持ち合わせた、まさに天才と言える男。
明らかにルザルクの方が私よりも国王の資質を持ち合わせているのだろう。それは何年も前から噂されているし、自覚もしている。
しかし、そんな事はどうでもいい。私の方が数年産まれてくるのが早かったのだ。それだけで類稀なる才能も、資質も、努力も、私の将来を脅かすに足り得る事はない。
……そう思っていた。あの序列戦、そしてイブルディアの侵攻前までは。
今、私は全てを失った。
私を支持していた貴族たちの汚職や、目をかけていたブライドが魔族と密通していたことが明るみになり、もともと低かった私の評価が今では雀の涙ほども残ってはいない。それに対しルザルクは、魔導飛空戦艇という兵器を10隻も保有する程の軍事力を持つイブルディア帝国の侵攻に対し、鮮やかな手腕で被害を最小限に食い止めただけでなく、実質的な勝利をもたらした。
アルト王国内ではすでにルザルクが次期国王となる事が決まっているかのような風潮であり、現国王である父も次期国王はルザルクだと明言された。今回のスフィン7ヶ国協議会もルザルクは“国王代理”ではなく、“次期国王”として出席している。
——私の人生は、このままで良いのだろうか……?
思い描いていた未来が崩れ去り、修復はもはや不可能。
ただ、このままルザルクの下で無害な存在をアピールしていれば、皇族として豊かな生活を死ぬまで続けていくことは出来るのだろう。
与えられた部屋で暇を持て余し、豪華ではあるが味気の無い食事を食べ、決まった時間に糞をして寝る。そんな生活を続けていくのだ。何十年も……。
——果たして、本当にそれでいいのだろうか?
他者に『無能』と蔑まれ続けながらも知らぬふりをし、アホを演じて生きていくこと……。それは本当に“生きている”と言えるのだろうか?
断じて否だ! 私のプライドが、この燃え上がる憎悪が、嫉妬心が、そんな生活や評価を許容する事など出来るはずもない!
——ならばどうすれば良い、私がやるべきは何だ?
そんなもの一つしかないだろう。この国に“革命”を起こすのだ。
現状私に残されているものなど何もない。しかし、だからこそ武器足り得る! もうこれ以上何を失っても怖くなどないのだ。命すら惜しくはない!
私を支持していた貴族たちは軒並み没落している。奴等は一度手にした地位を他者に譲り渡し、資産が目減りしていくのに耐えられるような者たちではない。必ずもう一度栄光をつかみ取ろうと足掻くだろう。そこに付け込んでやればいい。
私に協力することで返り咲くチャンスがあるとなれば、必ず私の手を取ると断言できる。伊達に貴族共の傀儡を何年もやってきてはいない。奴らの考えている事など手に取るようにわかる。
ルザルクは、私の事など歯牙にもかけていないだろう……。それは油断している以前の問題。
単純に、見てすらいないのだ、この第一王子たる私を……!
私の人生、まだ何もしていない。何も成してはいない……。
このままで終わらせてなるものか! 死んだように生きていくのなんか、まっぴら御免だ! 甘く見るなよルザルク……、この私こそがアルト王国の国王にふさわしい!
もう手段は選ばない。どんな残虐で非道な方法を使ってでも国王になってやる。自分の命さえ賭けてやる。
そう、国王にさえなれば、後は何とでもなるのだ!
しかし今はアホなフリをして存在感を消し、力を蓄えよう……。誰にも気付かれることなく、全ての準備を整える必要がある。これは一世一代の大勝負、塵ほどの失敗も許されない。だが、その準備が整った時に革命は必ず成功する。
いずれ、世界は知るだろう。この『フェルナンド・アルト』こそが、アルト王国の頂点に立つ人物であるという事を!
今話で第7章完結! 次話から第8章へと入ります♪
次話は1/20(金)投稿予定です♪