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第144話 ノーフェイスの置き土産


〜阿吽視点〜


「くっそ、マジでやらかしたわ……全然見つからねぇ」


 ブラキルズを取り逃がした俺は、キヌやシンク、ドレイクに念話し手分けして行方を捜している。だが、一向にその足取りは掴めない。

 このまま見つからないとなれば、別の国でも今回と同じように首脳陣が洗脳され、戦争を引き起こす未来は容易に想像がつく。ブラキルズの目的はこのスフィン大陸の全土で混乱を起こし、人族同士で争わせることにより、軍や強者同士の戦闘を誘発すること。結果として5年後魔王が復活した際に人族が脅威とならないレベルにまで国力を落とす事なのだろう。分かっていれば対策を講じる事は可能だが、また裏でコソコソされるのは避けたい。

 どうしたもんかと悩んでいると、ネルフィーから念話が入ってきた。


≪こちらネルフィーだ。ルナ・イブルディア皇女殿下によって皇帝は討ち取られた。これから合流地点へ向かう≫


≪さすがだ! こっちは魔族を一人取り逃がした。すまんがネルフィーも捜索を手伝ってくれ≫


≪了解した。ルナ殿下を安全な場所に誘導した後にそちらへ…………ッ!?≫


 ん? 何だ? 急に念話が途切れたが……まさか、帝城にブラキルスが現れたのか?

 帝城の方を探しに行ったのはキヌだ。キヌやネルフィーならば後れを取る事はなさそうだが、俺もすぐに向かった方がいいだろう。

 そう考えて、帝城へと向けて全力で駆けていると、すぐにルナ皇女から念話が入ってきた。


≪阿吽さん! 今すぐ帝城に来てください!≫


 その声からは尋常ではない焦燥感が伝わってくる。


≪何があった!? 今向かっているからこのまま状況報告だけ頼む!≫


≪皇帝を討ち倒した直後、ノーフェイスがその場に現れました。彼が言うには、帝城の中庭にある噴水の下に隠し部屋があり、そこに何かがあるようです。ネルフィーさんは現在ノーフェイスと対峙しております≫


≪わかった! とりあえず隠し部屋の件は後回しだ。まずはネルフィーのところへ行こう!≫


 数分とかからず帝城の入口へと辿り着くと、ルナ皇女とキヌが待っていた。キヌも念話を聞き、先んじてルナ皇女と合流したのだろう。


「ネルフィーはどこだ!?」


「皇帝の自室です。案内しますのでついてきてください!」


 前を歩くルナ皇女は途中すれ違う使用人や衛兵に皇帝の自室へは入室しないよう、それでいて怪しまれないように様々な命令を飛ばしながら、移動する。

 すれ違う者の中には、国政を担っている貴族であろう人物も含まれていた。街中で突然Sランク魔獣が現れたり、俺とブラキルズの戦闘で多くの建物が破壊されている。普通に考えて災害級に帝都が破壊されているのだ。そりゃ皇帝の指示を仰ぐ必要も出てくるのだろう。ただ、これもルナ皇女が指示を出しているため、明日の朝くらいまでは状況を停滞させることはできそうだ。


 自室の中に皇帝の亡骸が置かれているという状況は、今の段階で第三者に知られると色々と面倒だ。明日の昼にはいくら隠してもこの事実を知る者も出てくるだろう事を考えると、タイムリミットは明日の朝まで。それまでにブラキルズとノーフェイスの問題を片付けるか、別の手段を講じる選択をしなければならない。


 本当は一秒でも早くネルフィーのところへと向かいたいが、ここで焦ってしまっては逆に混乱した状況に拍車をかけてしまう。

 焦る気持ちを抑えつつ、歩みを進める。

 そして皇帝の自室の扉を開けると、中には呆然としたネルフィーが座り込んでおり、ノーフェイスの姿は見当たらなかった。


「大丈夫か!? 何があった!?」


「阿吽……すまない。頭が混乱していて……」


「ネルフィーが無事ならそれでいい! 怪我はないか? 何かされたりしなかったか!?」


「あぁ。話をしただけだ。危害を加えられたりはしていない」


「良かった……。とりあえず、どうするか……」


 普段取り乱すことが無いネルフィーの今まで見た事もない憔悴した様子に戸惑ってしまう。状況を整理したいが情報が足りないし、ネルフィーが落ち着くまで時間は少しかかるだろう。

 すると、悩んでいる状況を察知し、キヌが言葉を発した。


「私がネルフィーを見てる。阿吽は中庭にある噴水の下を探索して」


 移動中にルナ皇女から聞いた話では、皇帝を仕留めた直後にノーフェイスが乱入、「帝城の中庭噴水の下にある隠し部屋に何かを残してある」というメッセージを伝えられたらしい。罠というにはいささか稚拙な気がするが、そこに何があるかの予測もつかない。

 ただ、ルナ皇女をその場に行かせるわけにいかない。皇帝亡き後、この帝国をまとめ上げる事ができるのはルナ皇女を置いて他に居ないだろう。となれば、今後のスフィン大陸の情勢を担う最重要人物の一人と言っても過言ではない。それに、ここに来るまでの間に要職に就いているであろう貴族も数人見かけた。ルナ皇女以外に帝国の貴族たちを抑えられる人物もこの場にはいない。

 そうなると、俺がやるべきはキヌの言う通り中庭の下に隠されているという部屋の探索だ。


「わかった。落ち着ける場所は……飛空艇内の寝室だな。ネルフィーとキヌは動けるようになったら先に飛空艇へ帰ってくれ。ネルフィー、すまんがもう少し頑張れるか?」


「あぁ、大丈夫だ。情けないところを見せてすまない。……後で、何があったかは全て話す」


「おう! とりあえずここから先のことは全部任せとけ!」


 少しでも安心させてやれるように、少し大げさに笑顔を作る。

 チラッとルナ皇女を見ると、こちらを見て無言で頷いている。自分のやるべきことが分かっているようだ。父である皇帝をその手で打倒して間もないことを考えれば、心中は色々な感情が入り乱れているだろうに……。本当に強い女性だな。


「ここから私は、皇族としての仕事をしてきます」


「あぁ、頼んだ。明日の朝まで何とか時間を稼いでくれ。俺は中庭に行ってくる」


「はい! 何があるか分かりません。お気をつけて」


 部屋の窓からベランダへと出て城や塔の屋根伝いに移動すると、すぐに中庭の噴水広場へと到着した。探知スキルを発動すると、確かにこの下に空間が広がっているのが分かる。

 ちょっと強引ではあるが、その噴水の横にある芝生の一部ごと地面を破壊すると、その下にはスキルで感じた通りの空間が広がっていた。


 警戒を怠らないように探知スキルを発動したままその部屋の中に飛び込むと、血生臭い嫌な匂いが鼻を突く。スキルに生物の反応は無いが、ノーフェイスは以前俺の探知を潜り抜けて潜伏していた事を考えると警戒を強めた方が良いだろう。


 ぼんやりと光る魔導具と、空けた穴から差し込む微かな光が部屋を薄暗い程度の光量にしてくれている。

 徐々に目が慣れてくると、部屋の隅に()()があるのに気付いた。匂いもそこから発生しているようだ。


「あれは? ……っ!! マジかよ……」


 思わず目を見開く。

 そこには、数刻前に俺が戦っていたブラキルズの亡骸が雑に放置されていた。その(むくろ)に頭部は無いが見間違うはずもない……、右腕と片翼を切断したのは間違いなく俺なのだ。


「訳分かんねぇな……。ただ、これで一番デカい問題は解決したか……」


 すぐさまルザルク達に連絡を取り、その後協議会に出席している首脳陣も含めて状況確認をすることになった。


 こうして、スフィン7ヶ国協議会初日の長い夜が終わりを迎えるのだった。


次話は12/23(金)に投稿予定です♪

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