第126話 先輩の大冒険②
〜とある元ゾンビ視点〜
ワイは元ゾンビ、名前はまだない……まぁ好きに呼んでくれたらええわ。今は業火の冥府騎士っちゅう厳つい種族のイケオジや。
って、そんなんどうでもええねん。
それよりも……ワイは今日、重大な事に気が付いたんや。
「この火山島、迷宮やん」ってな。
ダンジョンから脱出してすぐにまた別のダンジョンに来るとは思わへんかったわ。
なんで分かったかって? そりゃあ死んだ魔物が地面に吸収されていったからや。
誰に殺された魔物かって? そりゃワイに決まっとるがな!(ドヤァ!)
いやな、最初はビビッて逃げ回ってたんよ。しゃあないやん……この島の魔物めっちゃ強そうやもん!
“マグマみたいなウミウシ”とか“火だるまの猿”とか“髪が炎の蛇女”とか“ワイバーン”とか……
まさか勝てるなんて思わんやろ?
舐めたらあかんで! ワイ、元ゾンビぞ? 泣く子も大爆笑する最弱種族ぞ? 何回か進化したところで、そない強うなるなんて思わんやろ。
こんなレベル上がったんも、ゴーレム君が薙ぎ倒しまくった背中に乗ってただけやってん。それに今やったら防具はゴーレム君鎧があるけど、武器はあらへんしやな……
ってかそう考えると、ワイがここまで来れたんは全部ゴーレム君のお陰やん。何ならゴーレム君が本体なんちゃうんか? 万歳ゴーレム君! 尊敬ゴーレム君!
まぁ冗談は置いといて、何で勝てたかって完全に相性が良すぎたんや。
この島の魔物は基本的に炎で攻撃してくるんやけど、ワイは火属性に対しては極端に耐性があるみたいなんやわ。全くダメージが入らへんし、温いって感じるくらいや。
そりゃそうやんな。火龍のブレスでもギリ耐えれたうえに変な進化までしてるんやから。
で、ワイの攻撃手段は【ヘルバイト】と【フレアナックル】と【バーンスタンプ】くらいや。
技名? 知らんわ! 勝手に頭の中に浮かんできてしまうんよ!
一種の病気かもしれへんなぁ。
そんで、相手からの攻撃はくらわずにこっちは一方的にダメージを与えられると……え? ここ楽園なん?
そうと分かればもうこっちのもんや。レベル上げまくってワイバーン捕まえれるくらいになれば、何とか脱出できるやろ。
ボスを倒す? ムリムリ! ここのボス、あの火龍やで? さすがに喧嘩売る相手は選ぶっちゅうねん!
空から入って来たんなら、飛んで出ていくんが正解や。
そうと決まれば、まずは周りにおる奴等にケンカ売りまくってもっと自分を強化せなあかんな! “キレたナイフ”とはワイの事やっ!! おっちゃん頑張るでぇ!!
◇ ◇ ◇ ◇
はい、こちら火山島に居る元ゾンビです。
現在の気温は60℃くらいですわ。まぁ涼しい方ちゃいます?
火龍に燃やされてから2年くらい経ったけど、全く脱出できる気がせぇへん。
ん? ワイバーン? あれ……自殺行為やったわ。
いや、何回か背中に乗って飛ぶところまでは行けたんよ。そしたら急に暴れ出して、岩場に突っ込んだり、海に突っ込んだり、火龍の巣に突っ込んだり……軽く10回は死にかけたわ!
あ、でも良いこともあったんやで?
ダンジョンと言えば? そう、宝箱や!
2年も歩き回っとったら、そりゃ宝箱くらい何個も見つけますわ。ミミック君ちゃうで?
そこから出てきたんは、ほとんどが綺麗な容器に入った水とか薬草とかやったな。飲んだら体力が回復したからきっと身体にええモンなんやろ。知らんけど。
あと、一本だけごっつい武器が手に入ったわ。持ったら魔力吸われる代わりに刃身が炎を纏う矛や! カッコええし強そうなんやけど、この火山島やとあんま効果はないな。だって、相手も火属性やもん。そのまま切った方がダメージ入るわ。一応使ってるけどな。
そんなこんなで、2年もこの島におったらレベルなんかアホみたいに上がったんよ。今は69レベルやな。進化はせぇへんかったけど。
あ、せや……なんや自分にできる事いろいろ考えとったら、“ステータス”っちゅうもんが分かるようになった。いうても、よぉ分からん数字並べられてて意味不明やけどな。レベルとか種族とかはそれまでも感覚的に分かってたんやけど、称号とかスキルなんてモンまで分かるようなったわ。
この世の原理っちゅうか根本みたいなもんが、何となく垣間見えて不思議な気分や。
まさか100年腐れ死体やってたワイがやで? 数年でこんな変わるもんかいなって思うやろ。
そのきっかけは“先輩”って呼んでくれたあの人等やな……元気しとるやろか。おっちゃんは心配やで……喋ったことないけど!
話が逸れたな……でや、そのステータスの中に【騎乗調教】っちゅうスキルがあったんや。一定時間背中に乗ってると、その魔物と仲良うなれるってヤツやったわ。ワイバーンが暴れ出したんはこのスキルのせいやったんやな。
あと、ゴーレム君とかトレント君と仲良うなれたんは一定時間以上しがみ付いてたからやったと……
はよ言えや!
それ分かってたら10回も死にかけんで済んだやろ!
って、ワイは誰に怒っとんねん!
ハァ……まぁええわ。
ワイはポジティブゾンビや。そんだけ失敗したから分かった事やって考えよ。
で、そんなんやったらなんぼでもやりようあるやん? こんだけレベル上がって、無駄にこの島の生態にも詳しくなった今なら、ワイバーンでも捕まえる事ができそうやしな。
今この島でワイが勝てへんのはボスの火龍くらいや。
いや、無理やで? あんなバケモンに勝てるなんて思い上がる事は絶対無い! 火龍はんに比べたらワイなんか鼻クソや。デコピンされたら死ねるわ……もう死んでるけどな!
っちゅうことで、『ワイバーン捕獲大作戦』開始やぁ!
このええ感じに腐った頭脳で考えた作戦はこうや。
1.ワイバーンをタコ殴りにして瀕死にする。
2.瀕死のワイバーンを担いでワイが住んでる洞窟まで持っていく。
3.蔦を何本か組み合わせて作った丈夫な縄で、ワイバーンを岩に固定する。
4.ワイバーンの体力を薬草やら綺麗な水やらで回復させる。
5.乗る!
6.仲良し!!
どや! 完璧やろ! 褒めてくれてもええんやで?
よっしゃ、そうと決まれば早速ええ感じのワイバーンを探して……
お!? アイツ気合入っとるな! 他のワイバーンは緑色やけど、アイツだけ赤茶色や!
ええやん、ええやん! 気に入ったわ!
んならこっちに引き寄せてーっと、ちょっと待って!
タンマやタンマ! え? なにコイツ、めっちゃ強ない!?
アカン! そこはアカンでぇ! や、やめ……らめぇぇぇ!!!
ふぅ……取り乱してしまったわ。いきなり下半身食われそうになるなんて思わんやろ!
でも、ギリギリやったけどなんとかボコせたわ。んで、コイツを担いで洞窟に戻ってっと……
縄はあらかじめ作っといたでな、準備は完璧や。
んーっと、どこを縛ろう。 首? 翼? 足? まぁええわ、全部縛ったれ。
よしよし。ここまでは完璧やな。あとは自分とワイバーンを回復してっと……
いざ、騎乗!!
おーおー、暴れるねぇ! でも抵抗できへんやろ! おっちゃんの縄捌きを舐めたらあかんでぇ!
ぬおっ? 気合い入れて縄を作り過ぎたか!? な、長すぎた! 計算ミスや!!
アカンって! 洞窟内で飛ばんといて! 天井があんねん! 頭打つって!
「ンガフ、ンガフゥ、ンガガガガ……」
やめてぇ! 頭削れちゃうぅぅ!!
あれ? そういえばコレどんだけ時間かかるの?
はぁ、はぁ、はぁ……何とか、成功したみたいやな。ようやっと大人しぃなったわ。1時間くらいかかったか。
か……完璧やったやろ? 異論は認めへんで!
ワイの体力はミリやったけど、成功すれば何でもええねん!
にしても、このワイバーン他のヤツと比べてめっちゃ強いやん。
んーっと、あ……コイツの種族、【ラヴァワイバーン】ってなっとる……。変異個体か? 確かに初めて見る色やったし、他のと比べても大きいしな!
それに、テイムしたら種族名とか色々わかるようになるんやな。
『災い転じてラッキーやん』ってやつか!
ってことで仲良うなったし、名前付けたろ。種族名長いから呼びにくいしな!
せやけど、どないしよ……名前なんか付けたことないしな。
てかワイ自身に名前もないのにな……
まぁええわ。種族名を短くして『ラヴァン』や! これからよろしゅうな、ラヴァン!!
よし、なら準備できたらこの島脱出しましょか!!
◇ ◇ ◇ ◇
ついに、ついにや! この火山島から脱出できるんや!
長いようで短いようで……まぁゾンビでおった100年間より圧倒的に濃い2年間やったからな。なんや感慨深いわ。
よっしゃー! 行こか、ラヴァン!
おぉ!! 飛んどる、今度はしっかり背中に乗って飛んどるでぇ!!
やっぱ空飛ぶっちゅうんは気持ちええもんやな!
あー、やっと自由になった!
ある程度強くもなったやろ!
友達もできた!
……にしてもや、本番はこっからやな。
あのアウンって兄ちゃんたちに胸張って会えるような、本物の“ゾンビ先輩”にはまだまだ遠い!
ワイの冒険は、始まったばっかりやで!!
ゾンビ先輩だけ時系列が2年後になっています!笑
今話は次の章の終わりに閑話として入れる事も考えたんですが、2話連続の方がおもろそうやんとか思ってこんな感じにしました!
ということで、次話はキヌ視点の話になりますが、ちょいシリアスなんでノリの温度差で風邪ひかないようにしてくださいね!笑
次話は9/12(月)投稿予定です!




