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第113話 禅の帰郷①


〜禅視点〜


 アルラインでのイブルディア帝国との戦争、その後の非公式会合を終えてから1カ月が経過し、現在私は故郷である武京国に辿り着いていた。

 イブルディア帝国北東部から船に乗り、島国である武京国へと入国。この入国の際に手間取ることは予想できていた。そもそも武京国は他国と貿易はしているものの他国の人物を入国させることに関しては否定的であり、半鎖国的な状態であると言える。

 私の場合は武京国民であるためこれでも比較的手続きが簡単だった方だ。それに、14歳の時に武京国から出てアルト王国に向かった旅路の事を考えると、レベルやステータスも上がっており、ミーちゃんも居るため道中はかなり早く移動ができた。予定よりは時間に余裕が出来たと考えていいだろう。

 

 今回武京国に帰ってきた目的は大きく分けて3つ。

 1つ目はイブルディア帝国とアルト王国との戦争について武京国の政府機関である幕府、しかもその上層部へと話を持っていく事。ルザルク殿下からの書状もあるためそれを渡すだけであれば困難な事ではないが、実際にスフィン7ヶ国協議会での協力を得るためには直接交渉をする必要がある。

 できればこの国のトップである将軍と直接話がしたい。だが、これを実現しようとすると相当な時間がかかるだろう。


 2つ目は師匠である父から課せられている修行についての報告だ。未だ序列戦で優勝することは叶っていないが、『自分の武は何のためにあるのか』という一つの命題に対する答えは出ている。

 あと、1つ目の目的にも通ずるが父に事情を説明し助力を願う必要がある。

 そもそも私は5年という期間武京国から離れている。国内の情勢などの情報も全くない。それに父は代々続く水月家の当主であり、水月流の師範である。国の上層部へも顔が利くだろう。


 3つ目、これは阿吽からお願いされた事だが、阿吽の祖父である“百目鬼 大獄”について調べる事だ。

 できるだけ阿吽の情報は伏せて欲しいと言われているが、確信を得られそうな相手、私が信用できると判断した相手に関しては阿吽について話しても良いという許可は得ている。だが、阿吽の事を考えれば足がつかないよう慎重に動く必要がある。


「まずは、実家に帰る事からですね」


 水月家は港からさほど離れていないため、半日も歩けば到着した。

 5年ぶりに会う父とはどんな会話になるのか……時刻は夕方、とりの刻。嬉しさと不安が織り交ざる心境の中、水月家の門を叩いた。


「はい、どのようなご用件…………禅さま!?」


「ただいま戻りました。師範は道場でしょうか?」


「あ、はい! まだ道場にいらっしゃいます。もうすぐ稽古も終わる時間でございますが」


「では、そちらに行かせていただきます」


「わかりました。私は先に向かい、禅様のご帰宅をお伝えしてまいります」


「ありがとうございます」


 5年も経てば門下生でも知らない者もいるとは思っていたが、たまたま知っている者が対応してくれたのは都合がよかった。

 道場へと向かって歩いて行くと、父は道場から出てくるところだった。


「師匠、ただいま戻りました」


「禅、おかえりなさい。何か話がありそうな表情をしていますね。

 ですが、まずは食事にしましょう。その後にゆっくりと話をするとしましょうか」


「はい、ありがとうございます」


 やはり凄い……表情で色々と察せられたようだ。

 武の師匠としても、父としても、男としても、私はこの方を心から尊敬している。修行に出てから5年、昔では分からなかった父の凄みが、今ではその背中からひしひしと伝わってくる。

 多分、まだこの方には敵わないのだろう……自然とそんな事まで分かってしまった。




 現在、私は夕食を終え座敷で父と向かい合っている。

 やはり緊張する……

 何から話をするべきか悩んでいると父の方から話しかけてくださった。


「禅、何かあったのでしょう? 修行の期間はあと1年ありますし、あなたの挑んでいる序列戦の結果も知っております。

 まずは、なぜ帰ってきたのか教えて頂けますか?」


「はい。実は、序列戦後にイブルディア帝国がアルト王国へ戦争を仕掛けました。そして————」


 私はアルト王国で起きた戦争について、そこで体験した事を全て話し、その上でルザルク殿下からの密命を受けている事を伝えた。

 少し驚いた表情はしてはいたが、大きく顔に出さないのは流石さすがだ。


「ふむ……そういうことでしたか。それは幕府に報告せねばなりませんね……分かりました。少々時間はかかると思いますが、私も協力致しましょう」


「あ、ありがとうございます!」


「良いのですよ。私はあなたの師匠ですが、それ以前にあなたの父なのです。息子が一国の王子に信頼され、頼まれた仕事……私の助力が必要であるのならば手伝うのは当然です」


「父上……」


「久しぶりですね。“父上”と呼ばれるのは」


「も、申し訳ありません師匠」


「いいのですよ。それにしても、禅……良い目をするようになりましたね。

 5年前、私の質問した答えは見つかりましたか?」


「……はい。

 あの時の私は目に映る世界が狭く、自分の事やこの家の事しか考える事ができていませんでした……しかし武京を出て、全力を出し切った闘いの果てに気付いたことがあります」


「そうですか……それでは再び問いましょう。

 禅、あなたの剣は何を成すためのものですか?」


 一度(まぶた)を閉じ、そしてゆっくりと開く。

 目の前には憧れ続けた父が、真っ直ぐに私の目を見ている。


 …………伝えるんだ、私の垣間見たこの世のことわりを!


「私の剣は、武は、義は……モフモフのためにあります!!!」


「その通りで……え? モフモ……フ?」


 ん? 父が豆鉄砲を食らった表情をしている……

 まさか……違うのか?

 いや、この胸に灯った熱くたぎる炎は、決してまがい物ではない!

 誰が何と言おうと、私の辿り着いた答えは間違いであるはずがない!!

 ということは、“そういう事”なんだ!


「禅……その、モフモフというのは……」


「モフモフはモフモフですよ、師匠!」


「んん? え? えぇ……」


 そうか。モフモフを説明する必要があったのですね!

 であれば、ここは彼女の出番ですね!


「師匠、少し失礼します。【四霊獣召喚】(おいで、ミーちゃん)!」


 白く輝く光とともに、私の隣に白虎が召喚される。

 呼び出されたミーちゃんはお座りの姿勢で現れた。


 んー、お行儀が良いですねぇ!

 ミーちゃん最強! モフモフ最強っ!


「えっと、禅……そ、その巨大な白い虎は?」


「白虎のミーちゃん、私のパートナーです! 師匠、これがモフモフですよ!」


「あ、あぁ。それで、そのモフモフ……と、禅の剣や義にどういった関係が……?」


「私はこの5年間、文字通り死ぬ気で戦い続け、独りで己の武を磨いてまいりました。しかし、今年の序列戦で負けて気が付いたのです。自分のために戦っている私の武はここが限界だと。

 それに、誰かのため、何かのために戦っているあの人たちは本当に強かった。実力の底が見えなかった……

 私はそれに気が付いた時にわかったのです……私にとっては、その“何か”がモフモフなのだと!」


「……あながち間違っていないですね……独りでは辿り着ける“心”の強さには限界があります。

 武とはまさに『心・技・体』、その全てを鍛え上げていくものです。

 禅は、“誰か、何か”というのも明確になっているようですし……これからもっと視野を広げていけば良いのでしょうね。

 それに、まだこの国に戻る気はないのでしょう?」


「はい。私はまだまだ未熟です。それに成したい事、成さねばならない事があります。それを成し遂げるまで私はここへは戻れません」


「わかりました。では、それまで修行は継続と致します。

 禅の成したい事を、全力でやってきなさい」


 ……やはり、師匠には敵いませんね。

 私の垣間見た『この世の真理』はまだまだ入り口に過ぎなかったようです。

 師匠は知っているのでしょう。モフモフの、その先を……


次話は8/8(月)に投稿予定です。


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― 新着の感想 ―
師匠さんそりゃ驚くわw
[一言] 流石の師匠(父)も「モフモフのため」って答えには面食らったでしょうねぇ・・・。 お気の毒様ですーー;
[一言] 俺はまだ登り始めたばかりだからよ……この長い、モフモフ坂を……(坂に顔を押し付けながらキメ顔)
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