第111話 阿吽の本気
〜キヌ視点〜
進化した阿吽は身体が一回り大きくなって、角も今までより立派なものになってた。すごくカッコいい。それに比べて人化した時の私は、まだ小さい身体のまま。なぜか今まで進化してもそれは変わらなかったし、シンクに色々教えてもらったけど成長した人型の姿にはなれない。
狐の時は、凄く大きいのになぁ。
多分、人化で身体を成長させるのは不可能な事ではないんだと思うけど、思った以上に昔のトラウマが引きずっているのかもしれない……
もちろん、みんな受け入れてくれると思う。私が魔物だってことも知ってるし、シンクなんか人化で種族まで変えてるし。
今の関係性が居心地良くて、幸せ過ぎて、この幸せを壊したくないって気持ちがすごく強くなっている。それが原因……なのかな? それとも身体が小さくても困る事は今までなかったからかな?
うーん、分かんない。
そういえば、最近シンクは全く人化してないなぁ。
阿吽が言ってたけど、前回の進化で鬼人種に進化したみたい。ちょっと羨ましいなーとは思うけど私は鬼人種にはなれないだろうな。
とは言いつつ、次の進化に少し期待してたり……
まぁいいや。今はそんな事よりも、これから阿吽はアークキメラとソロで戦う。
もちろん阿吽が勝つのは信じて疑わないけど、アークキメラは凄く強かった。5人で戦っても撤退をしなきゃいけないくらい……
もし阿吽が危険になったら迷わず飛びだす覚悟はできてる。
「キヌ様……阿吽様は本当に大丈夫でしょうか……」
「大丈夫。それに、阿吽の本気で戦ってるところ見てみたくない?」
「兄貴の本気っすか? 確かに今まで兄貴が全力を出してるところ……見たことなかったっす……」
「序列戦の決勝も、私たちは見ることができなかったしな」
「キヌ様は阿吽様の全力を見たことがあるのですか?」
「ん。まだ冒険者登録する前だけど」
「マジっすか……その本気ってのを今回出すつもりってことっすよね」
「もちろん危なくなったら止めに入る。……でもできるだけ全力を出させてあげたい。それに今、私と阿吽の間にどれだけの力の差があるのかも知りたい」
「そうっすね! それは俺も知りたいっす! あ、そろそろ始まりそうっすよ」
阿吽が最初から2重でバフをかけアークキメラに攻撃を仕掛けていく。長期戦は分が悪いから短期決戦で勝負をつけるつもりなのは聞いてた。
いまのところは圧倒的に阿吽が優勢。進化してステータスが伸びた事と攻撃型魔法障壁を習得した事で防御と攻撃が一体化できているということが大きい。
でも阿吽の本気、こんなものじゃないはず……
「阿吽様! 危ないです!」
シンクが叫んだ瞬間アークキメラの身体から強い電撃が弾けるように流れ、阿吽もそれに巻き込まれている。
「もうヤバいんじゃないっすか!? 止めに入った方が……」
「……だめ」
「いや、兄貴今のでかなりダメージ食らってますよ!?」
「阿吽の表情、見える?」
「表情っすか? え……笑ってるっす」
「阿吽は本気で戦ってる時、笑うの。多分無意識に」
すると、阿吽の周囲を迸っていた黒雷が収束していき、髪が逆立っていく。
阿吽の身体がほのかに光っている様に見えるのは気のせいじゃないはず。何かのスキルを発動した……?
そう考えた直後、阿吽の姿が一瞬消え、次の瞬間にはアークキメラを殴りつけていた。
「ちょっ……今の見えたっすか!?」
「私は一瞬見失った……いきなり最高速で動いたということか」
「私も、見えなかった」
「やっべぇっすね……これがゾンビパイセンの伝えていた上級テクニック……」
それは多分違うんじゃないかなぁ。でも、あながち間違ってはいない?
……そう思うと、もしかしたらゾンビ先輩は本当に凄い魔物?
あ、そんなこと考えてる場合じゃなかった。
気が付くと阿吽はアークキメラの尻尾になってる蛇さんを根元から斬り落とし、ヤギさんの首も斬り落とそうとしているところだった。
集中して見れば、何とか阿吽の動きは目で追うことが出来る。そして遠くから見ているからこそ分かった。アークキメラはヤギさんの頭を犠牲にしてでも高火力の放電をもう一度阿吽にぶつけようとしてる。
本来なら、ここで間に入るべき、止めるべき。数パーセントでも阿吽に危険が及ぶのは看過できない。
でも、私は序列戦で阿吽に言った……「仲間を信じて」と。
「みんな、阿吽を信じて」
声に出さないと、決意が鈍ってしまいそうだった。
序列戦の時と今とでは全く状況が違う。そんなことは分かってる。
でも、阿吽がしたいことをさせてあげられるように、信じてサポートするのが相棒である私の役目。
阿吽はとっさに白鵺丸をマジックバッグに収納し、防御姿勢を取りながら後方に飛び退いた。
……間に合った。魔法障壁を貫通するほどの威力ではあったけど、防ぎ切った。状態異常もかかってはいなさそう。
ただ、HPがそんなに残ってはいないのは遠くからでも分かる。
アークキメラも全身血まみれなのに障壁を発動することができていない。この戦闘中何度も魔法障壁を張り直し、あれだけの大技を2回も放っていればMPもほとんど残っていないと思う。
……次が正真正銘、最後の攻防。
阿吽は何かアークキメラに向けて言葉を発すると、魔法を放ちながらアークキメラの上方に向かって高く飛び上がった。
まさか、これって……
≪みんな、全力の魔法障壁で自分を守って。阿吽が全力を出せるように≫
とっさに念話で指示を出す。
スタンピードの時に見た極大雷技巧、あの時からレベルは20近く上がり、2度の進化をしている阿吽の【涅哩底王】は確実にここまで影響を及ぼすはず。でもそれは、私たちの力を信じての事。
周りを見ると全員が防御障壁を張り、緊張した表情をしている。でも口元だけは緩んでおり、これから見る阿吽の最大火力に心躍っているのがよく分かった。……私もなんだけどね。
上空に居たはずの阿吽が、一瞬で地面に向けて拳を叩きつけている。その直後、夜の平原を縦に斬り裂くような落雷がアークキメラを襲った。
一瞬遅れて耳を劈く轟音が鳴り響くと共に、大きな揺れと爆風が私たちまで届く。でも直接的なダメージの効果範囲からは外れていたのと、4人の魔法障壁もあって無効化できている。
直撃を食らったアークキメラ、それに阿吽はどうなったんだろう。
大きなクレーターができていて、ここからは砂埃もあって確認はできない。
でも、阿吽との魔素的な繋がりは分かる。
≪阿吽、大丈夫?≫
≪おう! ギリギリだったけど、倒せたぞ! みんなは大丈夫だったか?≫
≪ん、こっちは全員大丈夫。いまからそっちに向かうね≫
阿吽の元気な声が聞こえ、私は胸を撫でおろす。
みんなにも今の念話は聞こえていたはずだけど、周囲を見渡すと阿吽の本気を目の当たりにしてまだ唖然としていた。
……ドレイク、口閉じるの忘れてるよ?
まぁでも仕方ないかな。
私も初めて見た時は、驚きすぎてしばらくボーっとしちゃってたし。
阿吽は「デメリットも大きい技だから使い勝手が悪い」って言ってたけど……
「みんな、阿吽のトコ行こ?」
「……あ、うっす!」
「あ、あぁ……すぐに向かおう」
「申し訳ございません。わたくしとしたことが……あまりの衝撃に、呆けておりました……」
それから気を持ち直したみんなと阿吽の所へ向かって行った。
私も……もっと、もっと強くならなきゃ!
次話は8/1(月)に投稿予定です♪
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