第108話 挑戦者
進化後、拠点へ戻ってからステータスやスキル確認をしていたが、部屋の窓には夕日が差し込んでくる時間となっていた。
「すまん、半日潰しちゃったな」
「ん。大丈夫、私たちも久しぶりに休めた」
「阿吽様、お身体の方はもう大丈夫ですか?」
「あぁ、完璧だ。今からでもダンジョンに潜れるくらいだけど、明日の朝からにするか?」
「そうっすね! それよりも、進化してどう変わったんっすか!? 新しいスキルとかありました?」
「あぁ、ステータスもスキルもすげぇ強化された! んでさ、ちょっと皆に相談したいことがあるんだけど良いか?」
「どうしたの?」
「沈黙の遺跡とモルフィアのダンジョンは、しばらく吸収しない事にしようと思ってる。理由は、後輩の育成の為だな。
メアとチェリーだけじゃなくて、これから冒険者として外で活動したい奴らってプレンヌヴェルトじゃあレベルが上げられないだろ? だから、中級者くらいまではモルフィア、上級者は沈黙の遺跡でレベル上げができるんじゃないかって考えたんだ」
「確かにそうっすね……俺達も今回このダンジョンがあったから効率的にレベルが上げられましたし、他の奴らも同じように躓くポイントだと思うっす」
「わたくしは阿吽様の決定に従います」
「キヌとネルフィーもいいか? 良ければそうしようと思うんだけど」
「ん、問題ない。攻略できるようになれば、いつでも吸収できる」
「私も賛成だ。後輩たちが沈黙の遺跡に潜る時にはトラップの位置を教えてからの方がいいとは思うが……」
「確かにその通りだな! その時はネルフィーに相談するように言っとくよ」
「了解した」
「もう一つ。これは完全に俺のわがままだから、遠慮なく意見を言って欲しい。
次の周回でアークキメラに再戦してみようと思ってるんだけど、その時は俺がタイマンで戦ってみるってのはダメか?」
「……マジっすか? そこまで強化されたんっす?」
「正直ステータスとかはまだ劣っていると思うけど、とにかく強力なスキルを獲得したんだ。それにクエレブレに教えてもらった魔法障壁もある。危険だと思ったら諦めるし、帰還転移もできる。あとは、魔族との戦闘の前に今の俺の全力をぶつけて、自分の可能性ってのを認識しておきたいんだ」
「俺は兄貴の気持ちも分かるし、良いと思うっす」
「危ないと思ったら躊躇せずヒーリングするし、間に入る……その条件なら」
「あぁ、もちろんそれで構わない」
「わたくしたちも自分の力を試してみたいというのはあります。ですが、コアを吸収しないのであれば次の周回からもアークキメラには挑めるので問題ありません」
「そうだな。私もキヌが言った条件であれば同意しよう」
「みんなありがとな! んじゃ明日の朝から攻略再開だ!」
翌日、予定通り朝食後から攻略を開始し2時間ほどでリッチを倒す事ができた。攻略速度はかなり上がっており、周回開始から比べると半分くらいの時間でここまで来られるようになった。
今回は俺がアークキメラとタイマンで戦うため、MPの温存のためにリッチは俺以外の4人攻略してもらった。リッチ戦に関しては、俺が居なくても全く問題ない。レベルアップによるステータスの向上もあるが、魔法障壁を習得したお陰で安全性はグッと増していた。
「だいたい2カ月ぶりの再戦だな」
「ん。頑張って」
「兄貴ならいけるっす!」
「大丈夫だとは思いますが、危ないと思ったらすぐに向かいます」
「おう、そうならんように気を付ける。さて……行くか」
ボス部屋の扉を開け、中へと入る。
ダンジョンの外は昼にもかかわらず、目に映る景色は空には満月が浮かび、草原が風で静かに揺らめいている。
遠方を見るとアークキメラがその巨体を起き上がらせ、こちらをジッと見つめていた。
そこからは俺だけが歩みを進め、10mほどまで距離を縮める。まだアークキメラはこちらに攻撃を仕掛けてくる素振りはないが、隙があるわけでもない。ただ、こちらから攻撃を仕掛ければすぐさま迎撃ができる体勢となっていた。
前回も思ったけど、こいつかなり知性がありそうだ。多分俺が転移前に喋った事も理解しているんだろうな。
「よぅ。約束通り帰ってきたぜ。それと今回は俺とのタイマンだ」
獅子の顔の目が細められ、値踏みされているような感覚に襲われる。
コイツ鑑定持ってんのか?
アークキメラのステータスは秘匿されている部分もあり、鑑定でスキルまでは見られない。レベルが足りないのか鑑定眼の熟練度が足りていないのか……
まぁいいや、そんな事より早く全力で戦いたい。
自然と顔がニヤけちまう……改めて思うと、俺って結構戦闘狂なのかもしれない。
いや、もうそんな事もどうでもいい。
向こうから仕掛けてきそうにないし、遠慮なく俺から行かせてもらうとするか。
俺は挑戦者なんだ。初っぱなから飛ばしていくぜ!
「【雷鼓】、【疾風迅雷】」
2重バフと同時に攻撃型魔法障壁も発動させる。
あれから周回時にも魔法障壁は使い続け、消費MPもかなり抑える事ができている。それに発動しながらでも自由に移動や攻撃が出来るようにもなった。
身体全体を雷のオーラが包み込み、黒紫の電流が迸る。
「っしゃぁ! 行っくぜぇぇ!!」
鞘から抜いた白鵺丸に魔力を流し、左足で地面を踏み込んでアークキメラの懐へと一瞬で潜り込んだ。
次話は7/23(土)に投稿予定です♪