第106話 周回効率
〜阿吽視点〜
再び『沈黙の遺跡』へと戻った俺達は、攻略を再開し4階層のセーフティーエリアまで戻ってきている。
1カ月間のクエレブレによる特訓期間を経て、俺達は大きく成長できた。
特に防御面は、今までと天と地ほどの変化を得られたのだが、それ以外にも色々と応用が利くということが分かったのも大きい。この魔法障壁という技術は、今後発想と努力次第で大きく変化が起きる可能性を秘めている。
現にネルフィーは【分身】というスキルを新たに獲得しており、スキルは素質だけでなく自分の行動や努力でも獲得できるということを証明してくれた。
スフィン7ヶ国協議会の1カ月前に再度集まることになっているため、これから俺達に残された強化期間は、3週間。
ルザルクからの連絡待ちという感じではあるが、短めに見積もっておいた方がレベルアップの見積もりも立てやすい。
「んじゃ、休憩しながらこれからの予定を考えるとしよう」
「うっす! 猶予期間は3週間でしたっけ?」
「そうだな。それまでに全員60レベルまで上げたいと考えているが、正直どれくらいの期間が必要かよく分からないんだよな……」
「連続で攻略することを考えたら、ボス部屋の前までを周回した方が効率は良さそう。リッチが大量のモンスターを召喚してくれるのも地味に嬉しい」
「確かにな。前回リッチを倒した後でダンジョンからの脱出用魔法陣も出現してたし、ソレでいこうか」
「そうなるとダンジョンの外に簡易的な拠点も必要でございますね。幸いこの辺りは森ですので木を切り倒せば木材は手に入ります。毎回アルラインから移動する事を考えますと早めに拠点を制作してしまっても良さそうです」
「だな! 毎回移動時間を取られるより、早めに拠点を作成した方が効率も上がる。それに、アルラインから飛んで行くのを何回も見られたら変に勘繰られそうだ。
ってことで、リッチを倒し終えたら今日は拠点の作成に時間を使おう」
休憩を終えた後、再びリッチを範囲魔法でシバき倒して魔法陣でダンジョンの外に転移すると、森の中へと出た。
ドレイクが空から現在地の確認を行ってくれたが、10分程歩けば遺跡に行くことができ、近くに川も流れている拠点としては好条件の場所だ。
「よし、じゃあここを周回攻略の拠点とする!」
「うっす! なら俺はこの周辺の木を魔法で切り倒してくるっす!」
「わたくしはドレイクが切り倒した木と土魔法で、拠点の土台と外装を作成します」
「ならば、私は数日分の食事用に動物を狩ってこよう」
「ん。水汲んでくる」
すぐに役割分担も決まり、どんどん作業が進んでいく。
プレンヌヴェルトの村で住居の建築関係を手伝っていた事もあり、ドレイクとシンクは拠点の建築も手慣れたものだ。
それを見ていると俺も建築意欲がメラメラと湧いてきて、気が付いたらマジックバッグに入れていた道具一式を使用し、台所と風呂を完成させていた。
ずっと使う拠点ではないが、3週間はここで生活する事になるのだから、色々と機能的にはあった方がいいだろう。
途中から狩りと水汲みを終えたキヌやネルフィーも建築作業に加わり、半日でログハウスのような外観ができ上がる。
その後、シンクとドレイクは晩飯の調理をし、キヌが火魔法で風呂に入れた水を温めている間、俺とネルフィーでログハウス周りに魔物避けのトラップを仕掛け拠点が完成した。
周回初日は拠点建築でほとんどの時間を使ってしまったが、毎日アルラインから移動することを考えれば移動時間のロスを大きく抑える事ができる。
そして現在、俺は晩飯を終え、ゆっくりと風呂に入りながら今後の計画について考ているところだ。
『沈黙の遺跡』に来る前の全員のレベルは、俺は54、キヌとネルフィーが50、シンクとドレイクが52。そしてリッチまでを2回攻略した後は、それぞれが1レベル上がっている。
この調子でレベルが上がれば、キヌとネルフィーが60レベルに上がるのに30周くらいで達成できるのではないだろうか。単純に計算すれば1日に3周でおつりがくるが、レベルが高くなれば得られる経験値が相対的に少なくなっていくことを考えると、いまの攻略速度ではギリギリといったところ。とにかく安全性を確保しつつ、周回速度を上げていく必要がある。
翌日から数日間は、とにかく出来るだけ周回ペースを上げる事と経験値効率の良いフロアを探す事を重視して攻略を行うこととした。
この数日で分かった事は多い。例えば階段の位置や通路型フロアの順路、それとトラップの位置や種類。これらは初回攻略時と変化はなく、今後も変化しないと考えて良さそうだ。これだけでだいぶん攻略速度は上がったと言える。
次に経験値効率。ぶっちゃけて言ってしまえば、1階層のゴーレム達と中ボス部屋のリッチや大量のスケルトン軍団以外はそこまで美味しいフロアはない。あと宝箱も2周目以降は全くと言っていいほど出現しなくなった。
これらが分かってからは、ゴーレムを全滅させた後に2〜4階フロアを最短ルートで駆け抜けつつゾンビ先輩に挨拶をし、リッチをボコり、魔法陣で外へ出るのを繰り返した。
もちろん1周当たりの取得経験値は多少下がるため、周回数は多くなってしまう。しかし、タイムリミットがある以上は、経験値効率を重視する以外の選択肢はない。
唯一予想外の事が起きたのは、再開してから7日目の2階層フロアでの出来事だ。
それは、いつも通り階段付近に居るゾンビ先輩へ挨拶をしている時。先輩は木に擬態しているトレントの背に噛み付くと、トレントに振り回されながらどこかへ行ってしまわれた……
先輩のことだから何か深い意味があったのだろうとそのままにしておいたのだが、次の日からはトレントの背に乗りフロア中を元気に駆け回る姿が見られるようになった。鑑定してみると種族も『ライダーゾンビ』へと変化している。
さすがゾンビ先輩だ。俺にはそんな特殊な進化方法は思いつかなかった……
まぁ、そんなこんなで周回を開始してから17日が経過したとき、俺は身体に電気が走るような衝撃を受けた。
「っ!! レベルが60に上がった。進化もしそうだ」
「大丈夫、あとはリッチだけ。すぐに倒す」
「わたくしは念のため、阿吽様の近くに居ます」
「んじゃ、サクッと倒してくるっす!」
進化前特有のフワフワとした浮遊感の中、リッチがダンジョンに吸収されるのを確認したのと同時に、全身の血液が熱くなっていくのを感じた。
呼吸を整えながら目を閉じ、全身の力を抜く。
すると朦朧とした意識の中、脳裏にメッセージが流れてきた。
≪特殊進化後のため進化先の選択は行えません。進化を開始します≫
・阿修羅
阿吽はこれで6度目の進化ですね♪
というか、前回が第33話のドレイクが仲間になった直後に『羅刹天』へ進化してたので、73話ぶりの進化です!笑
次話は7/15(金)に投稿予定です♪