第104話 特訓の成果①
〜クエレブレ視点〜
「何とも末恐ろしい弟子たちじゃて……」
思わず考えていた事を口に出してしまうくらい、儂は驚愕と歓喜に震えていた。
ドレイクが氷竜の試練に挑んでおる時、他の4人には魔法の基本を指南した。その時にも感じたのじゃが、この4人は魔法に関して圧倒的なセンスを持っておった。しかも全員が成長の限界にはまだまだ達していない。
ドレイクにしても氷竜の試練をたったの3週間で突破してきおった。儂の見立てでは2カ月はかかるじゃろうと考えておったし、儂が氷の魔核を得た時は4か月という期間がかかったのじゃが……
予言者が言っておった2000年後というこの時代に、このような者たちが5人も集まるというのは果たして偶然か運命か……
阿吽達だからこそ儂は話に乗って従属契約をし、世界の行く末を見てみたいという気持ちにもさせられたのかもしれぬ。
こやつらと出会う前までは一刻も早く戦友の所へと逝きたい、氷の魔核を受け継ぐ者が来れば儂は人知れずこの世を去ろう、と考えていたのじゃがのぉ。
じゃが、このダンジョンで住まうようになってから、儂は約2000年ぶりの青春を謳歌しておる。
現在が『スフィン暦1995年』じゃから、儂ももう2030歳になる。まさかこんな歳になっても「まだまだ死ねぬ!」という気持ちにさせられるとは思わんかったわぃ。それも【星覇】やダンジョンの成員が儂を直ぐに受け入れてくれ、存在意義を見出してくれたおかげじゃのぉ……本当に阿吽達には感謝せねばなるまいな。
そんな阿吽達でもやはり壁にはぶつかる。壁というのは自覚するからこそ乗り越えられるというもの。
じゃが、ほとんどの者はその壁にぶつかる頃には成長の余地を残しておらぬ。その役割を儂自身が担えないのは歯がゆいが、ヤオウであればその役割を十全に全うしてくれるじゃろう。そんな事を考えていた時に阿吽から呼び出されたのは驚いた。なんでもアークキメラという魔物が阿吽達の未熟さを教えてくれたようじゃ。
なんというタイミングの良さ……これも何か運命めいたものを感じる。この好機を逃すわけにはいかぬ。何としても阿吽達全員に魔法障壁を身に付けさせてやらねば。儂の知識の全てをもって根気強く指南してやろう。
そう思っておったのが、つい1カ月前の事じゃった————
「もう全員が魔法障壁を習得してしまったわぃ。本当に出来の良過ぎる弟子たちじゃよ」
「クエレブレの指導のおかげだ。クエレブレが居なきゃこの技術は習得できなかった」
「ん。師匠ありがと」
「フォッフォッフォ。まぁそういう事にさせてもらおうかのぉ。
さて、ならば特訓の最後に各々の成果を見させてもらう。一人ずつ障壁を張るのじゃ。
障壁を使えばどんな方法でも良い。儂の攻撃魔法を防ぐことができれば合格としよう」
「うっす! じゃあ俺からお願いしたいっす!!」
最初はドレイク。前に出て流れるような所作で障壁を張った。
うむ……全盛期の儂にはまだまだ及ばんが、良い氷の障壁じゃな。薄く全身を覆う青白い膜が輝いておる。
「ならば、儂も氷の魔法で行くとするかの」
氷の槍を生成、回転力を付与しドレイクの障壁へと飛ばす。すると魔法が障壁にぶつかったタイミングで不自然な方向へと弾かれた。
なるほど、氷だけでなく風の障壁も合わせて作りおったのか……こんな技術まだ教えておらんかったのに、大したもんじゃわい。
「合格じゃな。ドレイクは2つの属性を合わせて使うのがこの中でも一番上手い。その技術は、今後もおぬしを更なる成長へ導くことじゃろう。精進するのじゃよ」
「うっす! ありがとうございます!!」
「さて、次は……シンクじゃな」
「はい、よろしくお願い致します」
シンクは丁寧にお辞儀をすると障壁を発動した。身体に纏った障壁は均一に整い、その防御力の高さは見ただけでも分かるレベルじゃ。そして驚いたのは身体とは別に、その手に持つ大きな盾にも薄い障壁を張り巡らしてあることじゃった。
儂はドレイクの時と同様の魔法を放ち、盾に張ってある障壁に魔法がぶつかる。するとその直後、盾の障壁と魔法の両方が粉々に砕け散った。身に纏っている障壁や盾そのものには全くダメージを受けている気配がない。それは、硬度の違う障壁を同時に展開しているということ。
しかし分からぬ。儂の魔法は盾に張ってあった薄い障壁を軽く突破できる火力にしてあったはず……
「……シンクよ。今おぬしが何をしたのか、儂でも分からなんだ……何をしたのじゃ?」
「盾の方の障壁には、ほとんど魔力を割いておりません。あくまでタイミングを計るために張っておきました。この障壁に当たったタイミングで【ガードインパクト】を発動すれば、そのままカウンターが決まるように調整してあります。
まだ実践では出来るか分からないレベルでございますが……数回攻撃を受ければタイミングは掴めそうです」
「シンクもまた……天才じゃったか……」
魔法障壁をセンサー代わりにするという発想は聞いたこともない。
どんなタイミングでもカウンターを狙うという、半ば狂気じみた発想がなければ到底辿り着けない領域の思考。
さらに、もしそれが失敗したとしても、しっかりと自分の身体は障壁で防御できているというのも素晴らしい!
このパーティーは、シンクが崩れれば一気に戦況が悪くなるというのをちゃんと自覚し、『自分の役割』というものを本当の意味で理解した上で徹底している。まさにパーティーの要と言える存在じゃろう。
「シンクも合格じゃ! 次は、ネルフィーじゃな」
この時の儂は、ネルフィーの事を少し侮っていたようじゃ。
まさか、この短期間で“あの技術”にまで到達していようとは————
次話は7/9(土)に投稿予定です♪