第9話 略奪者の末路
〜アルト王国 王都アルライン〜
ここは王都酒場の一角、普段通りの喧騒の中、【赤銀の月】のマーダスと【嵐の雲脚】のブライドが酒を飲みながら話をしていた。
「ブライドさん、今回の依頼楽勝でしたよ。武器も新調できましたし、おいしい依頼でした」
「新しい武器というのはその魔剣フラムの事か。どこで手に入れた?」
「それは教えられませんよ。いくら依頼者のあなたでもね。そういえば……なんであんな雑魚、殺す必要があったんです?」
普段から無表情なブライドが、微かに顔をしかめる。
「……あいつは俺の秘密を知っている可能性があるからな。放っておいて面倒なことになりたくなかった」
「へぇ。【嵐の雲脚】の裏の顔……聞いておけばよかったな」
「知れば、お前も消すことになるぞ?」
「怖いですねぇ。聞いてませんから大丈夫ですよ」
「賢い選択だな。それよりもその魔剣……もう使ったのか?」
「いえ、これから冒険者ギルドの訓練所へ行って、使用感を確かめる予定ですよ。興味あります?」
「赤武器の魔剣ともなると、どんな能力があるのか気にはなる」
「一緒に来ますか? ウチのメンバーともこれから合流予定ですし」
「……同行しよう」
◇ ◇ ◇ ◇
〜冒険者ギルド 地下訓練所〜
マーダス達が地下の訓練所に到着すると、数名の冒険者が武器を振っている。
彼らの装備を横目で見つつ、「これから僕は魔剣の試し切りだ」と優越感に浸りながら中央付近でマーダスは立ち止まる。
「さっそく、魔力を流してみようか。加減が分からないから少しずつ流そうかな」
マーダスは魔剣に魔力を流しだす。
魔剣は魔力(MP)を流すことで本来の能力が発動する。その武器ごとに必要な魔力量は違うものの、必要量が多いほど強い能力であるとされていた。
「なかなか発動しないな。なら全力で流すか」
そしてMPが半分ほど減ったところで異変に気付いた。
「な、勝手に……吸われる! うわぁぁ」
そしてマーダスは、徐々に自分のものではない邪悪な感情に精神が汚染されていく。
「やめ、やめろ……うぐ、ハーッハッハ! ヒャーッハッハ!! 血ヲ、ミセロォォォ!!」
異変に気が付いた【赤銀の月】の二人が駆け寄る。
「ちょっとー、マーダス? どうしたの?」
「様子がおかしいですわよ? 大丈夫ですの? ぐぶぅ……」
癒術師カトリーヌの胸に魔剣が刺さるが、周囲に血が流れ落ちたりはしていない。
徐々にカトリーヌの身体から水分が抜けていくように、顔や身体が細くシワシワになっていき、床に倒れた。
「え? なんで……きゃぁ! アガッ やめて! 許して! やめあぐぁぁぁぁ!!」
さらに魔導師ステアの腹部に剣を刺し、マーダスは高笑う。徐々に赤黒くなっていく魔剣フラムに右手を侵食されながら。
「ギャーッハッハッハ! 血だぁー。うめぇェェぇ! もっと吸ワセろォォぉ!!」
シワくちゃになったステアを捨て置き、次々と周囲の冒険者を切り殺しながら、嗤う。
「アーッハッハッハッハ!! まだだぁ! まだ血が足りキュフッゥ……」
「やはりか。精神汚染されるタイプの魔剣……そんな気はしていた」
ブライドの手には赤く燃える剣、視線の先には頭を切り落とされ、絶望の表情を浮かべたマーダスと、その右腕に同化した魔剣フラム。
「無理やりにでも出所を聞いておくべきだった」
無表情のまま剣をマーダスに突き刺し、さらに魔力を剣に流す。剣は炎の強さを増し、マーダスを焼き尽くした。
魔剣フラムだけを残して……
「まったく、面倒なことになったな。手駒も失った。また新しいのを育てる……いや、コイツを使ってみるか」
この王都冒険者ギルドの地下で起きた事件は、【赤銀の月】マーダスの暴走として処理され、魔剣フラムの存在は Sランク冒険者『豪炎のブライド』によって隠匿される事となった。
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