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プロローグ

小山くんへ

 

 まずは、何も言わずにお別れすることを謝罪します。本当にごめんなさい。

 もしかしたら既に先生から聞いて知っていると思いますが、私は転校することになりました。私の祖父母は北海道で小さな旅館を経営しているのですが、数ヶ月前から祖母が入院してしまい、これを機に、両親が経営を引き継ぐことになったためです。

 本当は直接お別れを言おうと思っていたけど、結局最後まで言い出せなかったので、こうしてお手紙を書くことにしました。


 お別れの前に、まずは感謝を伝えさせてください。今年の夏は、たくさんの思い出をありがとう。水族館についてきてくれてありがとう。お祭りに連れて行ってくれてありがとう。秘密を教えてくれてありがとう。本当に、本当に、楽しかったし、嬉しかった。

 でも、私が一番お礼を言いたかったのは、昨年の一学期の終業式の時のことです。小山くんは多分憶えていないと思うけど、私には忘れられない思い出です。


 その日の放課後、私は担任の先生から頼まれて、教材室にある本を図書室に運んでいました。段ボール数箱分の本を運ぶのは結構大変で、私は一人で何度も図書室と教材室を往復しました。

 一箱目が空になった時、疲れてきた私は、横着をして少し多めに本を運ぼうとしましたが、階段でバランスを崩してしまいました。幸い、転ぶことはなかったけど、積んでいた本は何冊か落としてしまい、両手が塞がっていた私はどうやって拾うべきか途方に暮れていました。その時、すれ違い様に声を掛けてくれたのが小山くんでした。

 小山くんは落ちていた本を拾ってくれただけでなく、そのまま私の仕事を最後まで手伝ってくれました。小山くんはその間ずっと私に話しかけてくれていて、大変な仕事だったけど、お陰でとても楽しくこなすことができました。

終わった後、急いで部活に向かう姿に申し訳なく思ったけど、他の人が見て見ぬふりをして通り過ぎて行く中、声を掛けてくれた小山くんの優しさが、とてもありがたかったです。

 それ以来、小山くんは私の憧れで、初恋でした。だから、二年になってクラスが一緒になった時は本当に嬉しかった。私は自分から話しかける勇気はなかったけど、同じクラスにいるだけで幸せだと思っていました。

 北海道に転校が決まるまでは。そして、小山くんが加納さんに告白しているのを聞くまでは。


 あの時、私が小山くんを誘ったのは、一種の開き直りでした。欲が出たんです。どうせ失恋も転校も決まっているのなら、最後くらいわがままにふるまってみてもいいんじゃないかと思ったんです。

 自分でも最悪な誘い方だったことは自覚しています。でも、最悪でも、最低でも、嫌な子でも、変な子でもいいから、小山くんに私のことを憶えていて欲しかった。

 それが、最後にこんなに小山くんと親しくなれるなんて、思ってもみませんでした。小山くんからもらったメンダコストラップやマンボウぬいぐるみは、この先もきっと私の宝物です。本当にありがとう。


 小山くんの加納さんへの気持ち、悪く言ってしまってすみませんでした。小山くんの寛容さというか、懐の広さというか……心の狭い私とはあまりにも違いすぎて、自分が情けなくなってしまったんです。でも、そこが小山くんの素敵なところです。

 きっと、私と同じように小山くんの優しさを慕っている子は他にもたくさんいると思うし、これからもたくさん現れると思います。小山くんは素敵な人です。


 小山くんと出会えて、親しくなれて、本当に良かった。小山くんとの思い出を胸に、北海道でも頑張れます。本当にありがとう。大好きです。

 これからもお父様たちと仲良く元気にお過ごしください。小山くんの幸せを、遠くから願っています。さようなら。


花村夏歩 


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