第1話 突然の婚約破棄。
「悪役令嬢書いてっ!!」
家族から、リクエストをいただきました。
……悪役令嬢!?
未だ、よくわかってないんですが('◇')ゞ
とりあえず、某歴史上人物を参考に、書いていこう!!と思ってます。そのうち、「悪役令嬢」というカテゴリーから外れてしまうかもしれませんが、その場合、ゴメンあそばせ♡
ボチボチとお付き合いいただけると幸いです。
――婚約をなかったことにしてほしい。
………は!? 今、なんて言った⁉
――愛する人が出来たんだ。
………それで!?
――きみとの婚約をなかったことにしてほしい。
(ふっざけんなああぁぁぁぁっっ‼)
心の中で思いっきり叫ぶ。
ありえないでしょ。そんなの。
婚約して二年。すでに嫁ぎ先であるフィリツィエ大公国に入ってた私は、婚約者である、公子、ディオンの言葉に絶句した。
彼は、グランドツアーだのなんだの言ってこの二年、ずっと公国に戻ってきていなかった。
まあ、グランドツアー自体、普通にあることだし!? 世界を旅することで見聞を深めてくることは、将来的に公国を治めるためにも必要なことだし!? 婚約者ほっぽりだしでも、まあ、文句を言うつもりはなかった。
彼が帰国したら、結婚よね。
そう思って、ずっと準備してきた。
自分より8つも年上の彼。政略結婚でしかなかったけど、私なりに、気持ちを育んできた。
なかなか帰ってこれない彼に、せっせと手紙を出してたし。返事は、…滞ることもあったけど、ちゃんと届いてた。
公妃となるべく、必要なことは完璧に学んだ。フィリツィエの言葉は、故郷ルティアナとは違う。公妃となる者が、言葉を知らないではダメだ。だから、必死に覚えた。それに、フィリツィエは交易を中心に発展した公国だ。商業についても学んだし、交易相手の国の言葉も学び、地理も学習した。
彼を待つ間、私に出来るだけのことはやった。いつ彼が戻ってきてもいいように。彼を支える立派な公妃になれるように。
それを。
それをだ。
婚約を破棄してほしい⁉
好きな人が出来た!?
初めて会うなり、イキナリ言うことは、それかよ。
………はあ!? ふざけんなっ!! てかんじ。
私たちの結婚は、そんな感情だけでどうこうしていいシロモノではないでしょ⁉
フィリツィエとルティアナ、国家間で決められたことよ⁉
それを、それを…。
無責任すぎる公子の言い分に、次の言葉が出てこない。
公子としての責任をなんだと思ってるの⁉
それに、二年も待たされて、一方的に婚約破棄された私の立場は!?
女として問題あるんじゃないか。よほどの醜女か石女か。
きっとそんなウワサも立てられる。おそらく、この先、二度と私に求婚する男性は現れないだろう。
彼の、勝手な、一方的な理由による婚約破棄のせいで。
言いたいことなら、いっぱいある。
今だって、不満や文句が身体のなかに渦巻いてる。
だけど、言葉が出てこない。
私が黙っていると、公子はさらにこんなことまで言い出した。
――大丈夫だよ。私とは婚約破棄となるが、君は、そのままフィリツィエに留まってもらいたい。
………は!? 普通、婚約破棄となったら、国元に帰らなきゃ、でしょう!? 婚約破棄された私は、用済みでしょ⁉
――私は、大公にはならない。このままリューネル伯位にとどまるつもりだ。代わりに、大公位を弟のレオナルトに譲る。そしてエセル、君は、レオナルトの妻、フィリツィエ公妃になればいい。
………つまりは。
私と大公位をセットで弟に譲ると!?
そんなバカな話ってある⁉
婚約中に相手が亡くなったりしたら、弟ともう一度婚約ということは、政略上あり得ないことはないけど。だけど、まだ公子は存命でいらっしゃるし、譲られるような状況じゃない。
――大公になってしまうと、リリアーナと結婚出来ないから。
ディオン公子の恋人は、リリアーナというらしい。というか、庶民の出自なんだって。祖国の内戦によって、亡命してきた女性で、この二年、公子と一緒に過ごしていたらしい。
大公になってしまうと、貴賤結婚は許されないから、彼女のために大公位を捨て、一段下の爵位を継ぐと。そういうこと!?
完全に言葉を失ったまま公子を見ていたら、スッと傍らに次の婚約相手、レオナルト公子が現れた。
レオナルト公子のことを知らないわけじゃない。ここへ来て二年。私の話し相手にもなってくれた、同い年の青年。
兄に似た黒髪、黒色の瞳。だけど、受ける印象は全く違う。
柔らかくクセのある髪のディオンはやや軽薄にも感じるし、レオナルトはサラッとした真っすぐな髪で、生真面目な印象を受ける。
その彼が、奔放すぎる兄の言い分に、困ったような顔をして立っていた。
――二人とも、知らない間柄でもないだろうし、フィリツィエとルティアナの友好にも問題ないし。後は二人で話を進めてくれないか。
軽く言い残して、(勝手に)元婚約者となったディオン公子が去っていく。
(ちょっと待てぇぇぇっっ!!)
追いかけたい。追いかけてその首根っこ、ひっ捕まえて、文句をぶちまけたい。
だけど、私は手を伸ばすことすら出来ずに、その背中を見送る。
もっと取り乱したらいいのかもしれないけど、取り乱し方がわからない。
………………………。
……………。
………。
気まずい。
こういう時、何をどう話したらいいのかしら。
「よろしくお願いします」⁉ 「こんな仕打ちってあんまりですわ」⁉
どちらも違う気がする。
「エセル」
唐突に、レオナルトから名前を呼びかけられた。
「ああいう兄で、本当にすまない。それと。これからも、よろしく」
朴訥とした言葉。レオナルトだって、困ってるのだ。イキナリ大公位を譲られて。不用品のように私を押しつけられて。
眉間によったシワがそれを証明している。
「ええ。よろしくお願いいたしますわ。レオナルトさま」
完ぺきなまでの笑顔で答える。
まだまだ混乱してたけど、心を押し殺す。
笑え。笑うんだ。
でないと、あまりに自分がみじめで、涙がこぼれそうになる。