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愛ゆえに狂う  作者: ルノア
第一章 『Story Begins-物語の始まり-』
10/28

1-8.『鋼鉄の都市』

 鉄を打つ音が四方八方から沸き上がり、交差する。同時に運ばれてくるのは、石炭が燃える、むせかえるような高温多湿な臭い。夏の熱い日差しに顔を向ける草花は一切なく、代わりに立ち籠めるのは黒い煤煙(ばいえん)。この土地を知らぬものは皆、一様に耳を塞ぎ、鼻をつまみ、目を背けてしまう。


 だが狩人レニ・ストーンハートにとって、それらは心地良い響きであり、心落ち着く安らぎの香りでもあった。


 眼前に広がるのは、見渡す限りの鉄の山。資源豊かな鉱脈を背後に、四方に伸ばしたその体の広大さは半径二十キロにも及び、内包するのは数え切れぬほどの群衆。


 レニの向かう先、ゴラドーン帝国が誇るこの巨大都市こそ、”帝都アイアンウォール”である。


「うーん」決して美味とは言えない空気を存分に吸い込み、レニは馬上で大きく背を伸ばす。「ようやく、帰ってこれた」


 この地の住人であるレニは、数ヶ月の時を挟み、機会を得てようやく家路につくことができたのだった。


「何か月ぶりかな。しばらく狩り続きだったから、へとへとで、べとべとだ。早く風呂に入りたい」


 誰にともなくぼやいてみせる。


「招集がかかったから寄っただけだ。終わればまたすぐに街を出るぞ」


 気だるさを纏わせた返事を寄越した相棒が、カウボーイハットの下から薄く開いた瞳を覗かせた。任務中とは打って変わって、脱力感を帯びた瞼が重く幕を下ろそうとしている。


「へいへい。貧乏暇なしだね」


 レニは手をひらひらとだけ振って、後方に流れる相棒に返事した。


 そんな何気ない会話を見せた、石の大剣を背負う青年とカウボーイ。目を疑うような奇抜な格好の二人組に向けられる住人達からの荒んだ視線は当然とも言えるが、慣れたふたりはさほど気にも留めなかった。


 それらが、帝都の壁の外に住まう者達のものだからだ。


 この惑星ジオにおける文明の発展は、ゴラドーン帝国が頭ひとつ以上に抜きん出てはいるものの、その代償は相応に大きく、その中心ともなる帝都の環境は特に汚染が進んでいた。空気は黒く淀み、首を絞めつけられるかのような息苦しさもあれば、夜は星ひとつ見えることはない。


 しかしより良い生活を求め、帝都に夢を見た人間は数知れず。広大な敷地を有していながらも人口過多となった帝都からは、運に見捨てられた下層の人間達があふれ出し、壁の外に治安の悪いスラム街を作り上げている。その環境の劣悪さは語るまでもない。


 それでも人がここを離れようとしないのは、この都市がまた、”堕落の中心”だからなのであろう。


 刺すような冷ややかな視線のアーチを潜り抜けると、目の前に巨大な壁がそびえたつ。その名の由来ともなっている、都市全体を囲う鋼鉄の壁だ。その高さは十五メートル。厚さは五メートルにも及ぶ。鉄壁の無敵要塞。いまだ敵に破られたことの無い、無敗の番人である。


 峻厳な眼差しで見下ろす巨大な鉄門を通過すると、ほっとしたレニは馬の首に体を預けた。どんな場所であろうと、やはり我が家が一番落ち着くというのは、間違いではない。住めば都なのである。


「ほんと、変わらないね。この街は」


「いつ見ても汚れた街だよ、まったく」


 珍しく、忌々しげにブリンクは言い放った。


 余韻の残るような言い方をした相棒を見て、それが単に街の様子を呟いただけではないことにレニは気付いていた。しかし、親子といっても踏み入ってはいけない領域というものもわきまえている。だから、あえて聞き返しはしない。


 門をくぐり終えた時、どこからか怪鳥の叫びのようなものが湧き起こった。見れば山脈のように連なる鉄の建造物の奥で、真っ白な(もや)が噴きあがっている。


 ――”蒸気”だ。


 別名”蒸気の街(スチーム・シティ)”とも呼ばれるこの都市は、生活のほとんどをそれらに頼り、いまや無くして生きてはいけないとさえ言われるほど、蒸気が身近な存在ともなっていた。言わば、帝都の動力源だ。


 絶え間なく続く鉄の唸りは、街を動かす大小様々な歯車の噛み合わせ。街のありとあらゆる場所を鉄のパイプが駆け巡り、随所には忙しなく揺れ動く計測用のメーターがキノコのように生えている。


 ところが、活用はできても制御は完璧とも言えないのが現状で、こうして負荷に耐えられずに蒸気を漏らすところもあれば、最悪爆発に繋がることも、ここでは日常茶飯事と言えた。だから民家が燃えていようが、建物が崩壊しようが、もはや誰も気に留めることはない。


 外のスラムでは感じられる”他者への関心”も、壁の中に入れば”他者への無関心”へと様変わりする不思議な街だった。壁ひとつ越えれば、誰も他人に気を配る余裕など持ち合わせてはいないのだ。


 我が家に着いたふたりが馬を降りるのと、その馬が突如(いなな)きをあげて駆け出していったのは、ほぼ同時だった。


「わわっ」


 危うく馬の鞍に脚を取られるところだったが、間一髪で難を逃れたレニの耳に滑り込んできたのは、銃器の撃鉄が起きる物騒な音。


「……!」


 向けられる何者かの銃口。その先に、ブリンク。突然現れた謎の敵意がその後頭部に迫る。


 背後の存在をいち早く察知したブリンクは咄嗟に振り返り、頭を斜めに逸らした。

 こちらを向いた短銃の口の先に、レニの知らぬ男。


「ブリンク!」


 相棒の危機に、レニは叫んだ。


「来るな、レニ」


 慌てるレニとは対照的な、ずいぶんと落ち着いた返事が返ってくる。


 相手の男は狙いの外れた銃口を戻そうとするが、ブリンクの左手がそれを制した。すかさず反対の手が腰にかけた短銃”カストル”を引き抜き、その銃口を男の腰に突きつける。体同士が触れ合うか否かというほどの至近距離だ。


 その一切の無駄を省いた手際の良さ、光の如き素早さは並大抵の者には目に映すことも難しい。気付く間もなく、撃ち抜かれることだろう。


 しかしながら相手の男はこれに瞬時に順応し、向けられた銃を片手で抑えると、その弾道を自身の体から外してみせた。今し方、ブリンクが男に対してそうしたように。そして再び銃を向けようと試みる。


 そうしたふたりの攻防は、レニには追いつけないほどの凄まじさで繰り返された。まるでブリンクが鏡に映る自分を相手にでもしているかのような錯覚にさえ陥ってしまう。


 いつどちらかの銃が鉛玉を射出してもおかしくはない様子に、息を詰まらせ、ただ見届けるしかない自分にもどかしさを感じた。


 相手の男は一体何者なんだ。


 そうこうしているうちに、ふたりの戦いは突然の終結を迎える。


 場を制したのは、ブリンクだった。


 男の手から短銃を剥ぎ取ると、装填された弾を弾倉から吐き散らかせ、ただの鈍器と化した鉄の塊を相手に投げて返す。


「よぉ。やっぱアニキには敵わねぇな」


 男は降参だとばかりに両手をあげてみせた。


 その服装を見て、レニは驚く。絶対にふたりと見ないだろうと思っていた姿が、現に目の前に並んで立っていたからだ。


「冗談が過ぎるぞ、ベリル」


 機嫌を損ね、更に細くなった眼で睨みつけるブリンク。


 どうやら、ふたりは知り合いらしい。


「俺の実力を試せる相手がこの世にゃ、そういねぇんだ。しょうがないだろ?」日によく焼けた肌に、白い歯が浮いて見える。「アニキが戻るって聞いたから、嬉しくなって、ついな。わりぃ」


 ベリルと呼ばれた男は、顔立ちや背格好こそブリンクとは異なる体格をしていたが、彼の服装はブリンクのカウボーイ姿を模倣したかのようにそっくりなものだった。


 しかし、ふたりの間にはセンスという大きな違いがあり、見ていて恥ずかしくなってしまうようなブリンクのものに比べて、ベリルのそれは”良い意味で”街中で浮き出るような個性があった。カウボーイの衣装だけに胡坐をかかず、モダンな服装も取り入れ、両方の良い部分を組み合わせていることが大きな要因であるに違いない。


「いい加減アニキと呼ぶのはやめろ」


「そう言うなって。俺にとってアニキは特別な存在なんだからよ」散乱した弾を拾いながら、ベリルはへっへと笑った。「で? アニキも召集受けたから帰ってきたんだろ?」


「……ああ。家に寄ったらすぐに行く。お前は?」


 アニキという言葉にどうやらため息をついたブリンクに、ベリルは悪びれた様子も見せずに肩を竦める。


「まだ時間はあるんでね。一杯ひっかけながら、女のケツでも眺めてくることにするかな」


 短銃を腰のホルスターに納めたベリルは赤い羽のついたカウボーイハットを深く被り、にやりと口の端を上げた。


 そして「じゃっ」と片手をひらひらさせて場を去ろうとする彼を、ブリンクは静かながらも力強い声で止めた。


「おい、ベリル」


「へ?」


 振り返ったベリルの顔に、白々しい疑問符が浮かんだ。


「二頭、ここに繋いでおけよ」


 二本の指を立てたブリンクは、先ほど逃げていった馬のことを言っている。


 後頭部をポリポリと掻くと、「抜け目ねぇや」とベリルは小さく呟き、帝都の歓楽街へと消えていった。


「レニ、あいつをどう思う」


「え?」急な質問に、レニは戸惑った。「うーん。いきなり過ぎて何が何だかよく分からないんだけど……。知り合い?」


 質問の意図も分からない、と首を傾げて見せると、ブリンクはベリルが踏んでいた地面を見つめながら答えた。


「あいつ……、ベリル・シーカーには気をつけろ。金次第でどうとでも動くような奴だ」


 思うところがあるのか、しかしブリンクはそれ以上多くを語らない。


 レニはただ、気を付けろ、との父の言葉におもむろに頷いたのだった。




 ハンターズと言えば、ゴラドーンでは屈指の大組織であった。正式名称は”狩人の集い(ハンターズ・リーグ)”。初めこそ創始者を中心とした十名の雇われ人の集まりだったが、近年の喰人蟲(マンイーター)事情を踏まえると、人々の間に広く知れ渡るのにはそう時間はかからなかった。いまや帝都の中心である居住区に巨大な本部施設を構えられるほどの華やかな成長を遂げている。


 招集を受けたレニとブリンクがここに久しぶりの凱旋を果たすと、目が眩むような真っ白なロビーが彼らを出迎えた。


 白一色で統一された壁と床。凛とした観葉植物や華やかな色の家具類が部屋をさらに明るくし、体内に流れ込む空気もまるで青空の下にいるかのような清々しさがある。清潔感に溢れる本部は帝都アイアンウォールの中にあって、まるで異国の地に足を踏み入れたのかと錯覚するほどの不思議な建物であった。


 これは全て創始者であるホワイトの意向によるもので、自他共に認める綺麗好き―あるいは潔癖症―の彼が”白”をパーソナルカラーとしているからである。ホワイトという名前は、実は別名ではなく、改名による現在の本名であるという事実があるほど、彼の白への愛は病的だ。


 そんなハンターズの本部だが、その需要もあり、年中混雑に見舞われている。ロビーに溢れる人の波は、働くハンターが半分、依頼者が半分といったところで、依頼受付のカウンターなどはてんやわんやの大騒動を起こしていた。


 これを見てレニがいつも抱く感情は、少し複雑だ。


「みんながこれだけ頑張って狩り続けてるってのに、喰人蟲の被害は一向に減らないよね」


「そうだな。だが、そうは言っても仕事が減れば、俺たちも食いっぱぐれる」


 ブリンクは淡々と答える。


「でもさ、何のために俺達はこの仕事続けてるのかな、って気にならない?」


「……」


 その問いに父はしばし息子の瞳を見つめ、そして考え込むかのような沈黙を挟んだ。


 そこへ、たまたま通りかかったハンターのひとりが声をかけてくる。


「あらぁ、レニちゃん? レニちゃんじゃないの! しばらくぶりじゃなぁい」


「うっ……」


 レニはこの声の主が苦手だった。


 野太い男性の声で、女性のような口調。そんな独特な喋り方をする人物を、レニはひとりしか知らない。


「イ、イリーンさん…」


 本部の奥に伸びた影の中から、歩み寄ってくるひとりの男。野原に咲く薄赤い花の色を模した甲冑を身に纏い、近づいてくるその姿に、レニは無意識のうちに総毛立っていた。


 騎士然とした格好とは裏腹に、その歩みはどこか女性的でしなやかさがある。


「うふっ」


 その男、イリーンはとても中性的でつかみどころがない。男でありながら、同性にも興味があるのか、執拗に体を触ってくることがあるので、レニにとってはある種の災厄であった。大の男が別の男にべたべたと触られて気分が良いはずもない。


「どこへオデカケだったのかしら? しばらく見なかったわね」


 そんなレニの気持ちなどお構いなしに、まずは両手で握手を求めるイリーン。


「お、お久しぶりです…」握手をしたかと思えば、今度は抱きしめようと着こんでいる甲冑を押し付けて来るのだから、レニはたまらず目を瞑った。「うぐっ……苦しい……。こ、ここ何ヶ月かは外で仕事をしていたので…」


「あらあら、それは大変だったわね」


 もはやいままでの任務の苦労よりも、いまのこの状況のほうがレニにはよほど”大変”なことだった。


 とはいえ、彼の容姿に限っては男の立場から見ても憧れてしまうほどの優美さがあるのもまた事実で、歪みひとつない端正な顔立ちに、風にそよぐ金色(こんじき)の毛髪。口ひとつ閉じていれば、女性の渦に巻き込まれること間違いなしの人物でもある。


 なかなかの美青年で若々しく、はじめレニは自分よりも十くらいしか違わないかとも思っていたのだが、実はこれでブリンクと同い年なのだという。ふたり並んで見てみれば、その差は歴然。何らかの魔術で若返っているのではないか、との怪しげな噂もあるほどであった。


「ま、残念だけど、アタシもこれからオシゴトなの。でも、久しぶりに会えて良かったわ。うふふ」


 イリーンがレニの頬を両手で優しく撫でると、近づく彼の顔にレニは凍り付くしかなかった。


「イリーン。お前も招集を受けたんじゃないのか?」


 本部を去ろうとするイリーンを、ブリンクが止めた。


「受けたわよ。でもアタシ、古巣の人間とは馬が合わないの。言われた仕事はなんでもヤるけど、今日の話し合いはあなた達だけで好きにやっててもらえないかしら」


「古巣? シルヴェント卿でも来てるのか」


 ブリンクは帽子のつばを持ち上げ、目を少し大きく開いてみせた。


「そういうこと。だ・か・ら、あとは任せるわネ」


 そう言って踵を返したイリーンの後ろ姿は、彼の口調からは想像もできないほどに、とても勇ましいものであった。全身を包む鎧が周りの白を受けて煌びやかに輝き、背負った対の双剣がその力強さを静かに物語っている。彼が苦手なレニさえも、その存在に関して言えば、間違いなく憧れを感じている。背中で語る、人としての強さ。そんな大きな存在感を、彼からは感じるのだ。


 そして、イリーンは手を振り、愉快そうに甲冑を鳴らしながらロビーを去っていく。去り際に強烈な投げキッスをひとつ。受けたブリンクが悪寒を感じたかのように身震いをした。


「いつ見ても恐ろしいな。あんなオネエがうちで三番目の実力者なんだから、世の中よく分からんもんだ」


 既にイリーンは本部を後にしていて姿も見えなかったが、ブリンクは何故か小さくレニに(ささや)いたのだった。


「は、はは……」


 へたりこみたくなる気持ちを抑え、なんとか気持ちを奮い立たせるレニ。


 そこへ……。


「レ・ニ・さ・まぁ!」


 嵐の後の更なる嵐。名前を呼ばれて振り返るまでのわずかな間に、その可愛らしい声はレニの懐へと飛び込んでいた。


「エ、エリィさん……」


「こんなところでお会いできるなんてぇ、これって運命? それとも神さまのご配慮?」


 きつく抱きついてきた少女は、目を星にしながら上目遣いでレニを見つめる。


 小さな体に小柄な顔。年はレニとさほど変わらない。ボーイッシュな服装に、ツインテールの似合う彼女は周りの視線など気にするでもなく、レニの胸にその頬を何度も何度も擦り付けてきた。


「しばらくお会いできてなかったから、エリィすごく寂しかったぁ」


「ちょ、ちょっとエリィさん。落ち着いて」


 彼女の猛攻に困惑するレニは、ブリンクに援護を求める目線を送ったが、返ってきたのはにやにやとした薄笑いだけ。


「よっ。エリィ。久しぶりだな」


 その状況をしばらく堪能した後に、ようやく助け船が出てくる。


「はっ! お父さま!」ブリンクの声に、エリィはレニから手を離すと顔を上げ、姿勢を正した。「お久しぶりでございます。お元気でしたか?」


 急に真顔に戻ったエリィは、片膝を軽く曲げ、もう片方の足を後ろに引くと、まるで童話の中のお姫様がするような可憐なお辞儀をしてみせた。


「ああ、こっちはなんともなかった。お前も元気そうだな」言って、エリィの頭をぽんぽんと撫でる。「イリーンが行ってしまったってことは、エリィも招集には不参加か?」


「いえいえ……。それなのですが、聞いていただけます? あのおっさんったら、エリィに全部任せるって言ってどっか行っちゃったんですよ! これって、あんまりじゃありませんか?」


「そうか、それは貧乏くじを引いたな。変な相棒を持つと苦労するもんだ」


 その相棒をチラリと見やって苦笑してみせたブリンク。


「な、なんだよ」


 その意図を感じ、レニは思わずむっとする。


 ふたりのやり取りを見て、エリィは「あっ」と声を漏らした口に手を当てた。


「取り乱しちゃって、ごめんなさい。あの……お父さまもこれからですよね? 良かったらお供させてくださいませんか」


 そしてちゃっかりとレニの腕に抱きついてくる。


「ああ、いいよ」


 歪んだにやけが止まらない顔を手で隠し、おちょくるような視線を送るブリンクに、レニは内心恥ずかしさと怒りの入り混じった熱を感じていた。


 いつ頃からかは覚えていないが、何かをきっかけにエリィという少女はレニのことをすこぶる気に入ってしまったようだった。非の打ちどころのない容姿で、レニとしても好意を持たれることに関しては、案外まんざらでもない。だが、若干押しの強いところには、女性の扱いに疎いレニも終始圧倒されっぱなしだった。


「もう。さっさと行こうよ」


 そんな様子をいつも楽しそうに眺めているのがブリンクだ。何がおかしいのか、レニにはさっぱり分からなかったから、顔を歪めて感情を表現することしか反抗の手段は思いつかなかった。


「何怒ってんだよ」


 噴き出しそうな様子のブリンクを見て高まる熱を覚えたレニは、そんな父など無視して本部の奥へと進んでいくのだった。


「いやん。レニさま、強引!」


 至高の喜びを顔全体に塗りたくったツインテールの少女を引きずりながら。

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― 新着の感想 ―
[一言] 濃そうな面々! だけど、それだけに不穏な空気も感じる…… レニはもてるなぁ( ´艸`)
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