P-1.『ジオ』
星は生き物である。
創造神に造られた小さな球体は、永遠に広がる宇宙という子宮の中で、気が遠くなるほど長い年月を経て育つ。
暗く孤独な世界で心臓が鼓動を始めると、まず命の海に包まれる。それからまた途方もない時間をかけて、終わりのない海に陸が浮き、山が形作られ、川が流れ、植物を育てる。
そうした神秘的な過程を経験して、やっと一人前の惑星へと成長するのだ。
大きくなった星は、やがて人という子をもうけることになる。子を背や腹や肩に乗せ、暖かい優しさと凍えるような厳しさを持って育てていく。子供の成長を熱く喜び、時に起きる過ちに涙を流し、そして愛情あふれる物語と新たな実りを大切に見守ってきた。子らもそんな星を母なる大地として尊く思うものだ。
しかしながら、そうではない惑星がこの宇宙にはただひとつだけある。
何千億とある星の中で、無限の悪意に満ち溢れている<ジオ>と名付けられた星だ。
星に育てられた三つの種族は、いつの時からか互いを傷つけあって生きてきた。永遠の時を戦に費やし、人類はそうして疲労を積み重ねてきたのだ。
最終的に、彼らの永きに渡る戦争は一時の休息をようやく得ることができたのだが、後には大地を赤く染め上げる無数の血溜まりと深い傷痕を残すこととなった。
ジオは独特な性質を持った星だ。
人の愚かさを糧とし、人の不幸を愛し、生き血をすすり、生を貪りつくす。混沌とした邪悪が地上に漂うと、それを至上の喜びとした。
人間達にとって、この星のもとに産まれ落ちたことこそが人生最大の不運とも言えよう。
そんな星を止める術など、そこに住まう人間にはあるはずもない。
彼らは廻る運命の中で、振り落とされぬよう必死にしがみつく。一人、また一人と近しい者の命を強大な悪の手が奪っていこうとも、人はこの地獄をただただ懸命に生き抜いていくしかないのだ。肩を叩かれ、自分の順番が来るその時まで。
これはそんな惑星ジオに生きる人々の、人生の物語である。