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第4話 vs 病弱令嬢 120回目の婚約破棄

 病弱令嬢ことノート・クーゲルシュライバー様と騎士団の副団長であるレヨン様に協力してほしい、とクーゲルシュライバー家の執事、ベン様が依頼をしてきたのは、119回目の婚約破棄を終えた時のことでした。

 ノート・クーゲルシュライバー様は、クーゲルシュライバー家の長女で、透き通るような銀髪に赤い目をしております。儚げな美人として社交界デビューの頃は話題となりましたが、やがて本当に重い病にかかってしまったらしく、しばらく社交の場に姿を見せておりません。学園には体調のいいときに顔を出しているようで、何度か見かけたことがあります。

 ノート様が騎士団の副団長であるレヨン様と想い合っていることは貴族の間でも有名でした。

 そもそもレヨン様が副団長まで上り詰めたのは、出世してノート様の病を治すためだと聞いています。

 病気の治療に使う万能薬はとても高価ですし、ほとんど手に入りません。伝手がなければ材料を買うことも難しいでしょう。

 婚約者のことを想って副団長まで上り詰めたレヨン様が、万能薬を手に入れるため、原料となる魔獣を狩りに行くお話は、吟遊詩人が「病弱令嬢と騎士」シリーズとして歌にもしているほどです。この歌が流行ったことでノート様は病弱令嬢と呼ばれております。

 ノート様のご病気は薬で症状を抑えることはできておりますが、万能薬の入手までは至っていないそうです。

 万能薬の原料となるのは、残すところ黒龍の牙のみとなっています。レヨン様は龍種との戦闘経験も豊富で、「ドラゴンスレイヤー」の「称号」を持っていますが、黒龍は強敵です。

 近々黒龍を狩りに行くレヨン様が亡くなる可能性が減るのであれば、と執事のベン様を通してノート様から「称号」取得の依頼がありました。

 私もノート様のために黒龍と対峙するレヨン様に「称号」をつけてあげたいと思いますし、できれば(弱)のついていないほうの「称号」を付けてあげたいところです。

 けれど、ノート様は病弱令嬢と揶揄されるだけあり、お庭でお茶をかけて風邪でも引かれたら命にかかわるような気がいたします。階段から落とすなんてもってのほかですし、持ち物を隠すような嫌がらせをしてうっかり薬をなくしてしまっては困ります。


 ビブリオを呼んで執事のベン様とレヨン様、ノート様を含めて方法を協議いたします。嫌がらせを受ける本人を交えて打ち合わせをするのもどうかと思いますが。

 協議の結果、ヴェルトラウトハイト辺境伯領でとれる苦くて健康に良い薬草をおかゆにして無理やり食べされる、無理をしない程度に運動させる、などの案が出ました。それで行きましょう。


 おかゆを作り、ビブリオの指示で状態異常回復薬の原料の一つであるアオハル草や、体力回復薬の原料の一つであるレン草をすりつぶして入れていきます。ビブリオは錬金術系の「称号」を調べるために錬金術も店が持てるほどの腕前ですので、副作用や食べ合わせに気を付ける必要もないでしょう。

 ビブリオは錬金術の調合で慣れているのか平気な顔で味見を終えました。私も味見をしてみましたが、確かに苦いですね。病気の治療でなければ食べたくはない味です。


 ベッドで休んでいたノート様におかゆを持っていきます。

 悪役令嬢っぽい食べさせ方はどうしたら良いのでしょうか。悪役っぽい台詞を言いながら食べさせれば良いでしょうか。


「苦いおかゆを作ってきましたの。あなたにはこれがお似合いですわ!」


 スプーンをゆっくりと口に近づけていきます。ノート様が口に含みます。もぐもぐと口を動かして、苦そうな顔をします。飲み込み終わったら再度スプーンにおかゆを入れて口に近づけていきます。


「おかゆはまだまだありますのよ! どんどん食べていただきますわ!」


 悪役令嬢というよりただのおせっかいな人なのではないかと思いつつ、ノート様におかゆを食べさせる作業を終えました。


 おかゆを食べ終えて消化が終わったと思われるころ、ノート様の顔色が少し良くなったようでしたので、他の嫌がらせも試しておきます。おかゆを食べさせただけでは、(弱)がついていない「称号」がきちんと得られるかはわかりませんので、できることはしておいた方が良いでしょう。


 ノート様をベッドから起こし、端に座らせた状態になってもらいます。この状態で立ち上がったり座ったりを繰り返して、体力をつけていただきましょう。悪役令嬢っぽい訓練のさせ方はどうしたら良いのでしょうか。マッチョな方への声かけを真似すれば嫌味っぽくなるでしょうか。父が騎士の皆様を訓練する際の掛け声を真似してみましょう。

 両手をつかんで起立の補助をしながら声をかけていきます。


「あなたの下腿三頭筋も喜んでいますわ! さあ、もう一回行きましょう!」


 ノート様が微妙な表情をしていますが、気にせずもう一度です。

「キレています! 臀部の筋肉がキレていますよ!」


 どんどんいきましょう。


「肩にでっかい愛を乗っけているのですか!」

「カーフが成長していますわ!」

「一緒に新時代を迎えましょう!」

 ……。


 ノート様に疲労が見え始めるくらいで運動は終了です。ビブリオとレヨン様はなんとも言えない表情でこちらを見てきます。掛け声に文句があるなら父に言ってくださいまし。


 ビブリオとレヨン様を部屋から追い出し、ノート様お付きのメイドの方々とノート様の汗を拭いて着替えを完了させます。風邪をひいてはいけませんからね。


 さて、これでとりあえず思いついた安全そうな嫌がらせが完了しましたので、レヨン様に婚約破棄をしていただきましょう。


「サナ嬢、ノート嬢への嫌がらせを確認させてもらった。そんな人とは思わなかった、婚約破棄をさせてもらおう!」

 あとはビブリオの鑑定を待つばかりです。

 ……。


 結果が出たようですね。問題なく(弱)のついていない「称号」が得られたようです。フロルス様の判定、ゆるすぎはしませんか。まあ、結果オーライです。

「称号」を得たことを報告したノート様とレヨン様から感謝の言葉をもらいましたが、本番はこれからですからね。


****


 無事に「称号」を得たレヨン様が黒龍を圧倒したのはその数日後のことでした。無事に材料がそろったレヨン様から材料を受け取って、ビブリオが万能薬を作り終えたのが昨日のことです。というかビブリオは本当に何でもできますわね……。


 本日はノート様に万能薬を手渡す日です。不安そうな表情のレヨン様(と私、ビブリオ)が見守るなか、万能薬を摂取したノート様の表情がみるみるよくなっていきます。

 万能薬では体力までは戻りませんので、まだ運動ができるようにはなりませんが、これで病は完治したようです。

 喜ぶノート様とレヨン様からお礼を言われながら、悪役令嬢も悪くないなと思ったものでした。


 お礼に黒龍の余った素材を頂けるそうですが、私には使い道がありませんので、ビブリオにあげることにしました。

 ビブリオは鱗を使えば最高の指輪ができるな、そろそろ婚約破棄の依頼も落ち着いてきたし、プレゼントとしては申し分ないよな、などとぶつぶつ言っていましたが、いつもの発作だと思いますので、放っておきます。


 副団長が出てきたくらいですし、私もそろそろ悪役令嬢生活が終わるかと思っていたのですが、そうは問屋が卸しませんでした。副団長であるレヨン様の話を聞いたのか、泣く子も黙る騎士団長ブレイブファントム様から依頼が来たのはその翌日のことでした。


続く


次回、突然のバトルシフト。サナ死す! 婚約破棄スタンバイ! ですわ!

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