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第3話 vs 婚約破棄RTAを強いる令嬢達 17~66回目の婚約破棄

 どうしてこうなったのでしょう。

 目の前には騎士団および学園の騎士科に所属する騎士見習いの方々、そしてその恋人の方々、50組100名が学園の演習場に集まっておられます。


 ビブリオと「称号(S)収集(S)レア(R)もの大好き団()」の方々が「称号」の話を社交界、および学園の学生たちに噂として流して数日経ちました。

 同時に私が悪役令嬢役をやるということも噂として流したようです。

 近いうちに魔獣の大規模討伐が予定されているそうで、「称号」があれば強くなり、死の可能性を下げられるなら、と、騎士団及び騎士見習いの恋人たちに顔を合わせる度に悪役令嬢になってもらえないかと頼まれました。

 何度も別の方から頼まれて説明するのも煩わしかったですし、一人一人個別に対応するのは難しいので、ビブリオに責任を取らせて管理を任せました。この日にまとめて対応する、と決めてあとはスケジュールの調整と、名簿の作成、場所の確保などを丸投げです。

 100人分のスケジュール調整や演習場の確保などを終えたビブリオは死んだ目をしていましたが、自業自得と言えるので仕方ありません。


 それにしても50組もの人が一斉に婚約破棄するなんて、この国は大丈夫なのでしょうか。

 そもそも悪役令嬢としての噂を消すのが目的だったはずですが、50人と婚約して婚約破棄される私は結局相当な悪女として噂になってしまうような……。本末転倒では……?

 ですが、集まってしまったものは仕方ありません。気を取り直して対応していきましょう。50人ですからね、さすがに時間がかかることが予想されます。

 さあ、スーパー婚約破棄タイムの始まりです!


 まずは騎士科のサンジ様と恋人のヤツハ様からです。

 サンジ様と口頭で婚約を取り交わしてから、ヤツハ様にあらかじめ用意しておいた紅茶をぶっかけます。

 このために皆様には汚れてもいい服装で来るように言ってありますので、遠慮する必要はありません。

 バシャ!

「きゃっ」

 ヤツハ様はかわいらしい悲鳴をあげますね。

 これを見たサンジ様が嫌がらせを理由に婚約破棄をすれば完了です。

「サナ様、婚約破棄をさせてもらいます!」

 騎士科は平民も通うことができるため、平民出身のサンジ様は私に敬語で婚約破棄を述べてきます。ビブリオが鑑定魔法を使って「称号」を確認します。問題なく取得できているようですね。

 いつの間にか現れた専属メイドのメルトが、タオルをヤツハ様に渡しています。紅茶をタオルで拭き終えて、一仕事終えた顔のヤツハ様はサンジ様と仲睦まじい様子で語り合っていられます。


 あとはこの繰り返しですわね。

 いつの間にか時計を持ったSSR団のツバイ様が脇に立っていました。

「1回目のタイムは5分30秒です」

 ツバイ様は計測係のようです。それ、必要ですか……?


 次に参りましょう。

 騎士のブン様、恋人のメイ様の番です。

 婚約します。

 メイ様に紅茶をぶっかけます。

 バシャ!

「サナ嬢、婚約破棄をさせてもらう!」

 はい、婚約破棄完了です。

 ビブリオが称号を確認します。

 ツバイ様が計測したタイムを報告します。

「2回目のタイムは5分6秒です」

 次!


 騎士のドゥドゥ様と恋人のステラ様。

 婚約、紅茶バシャ、婚約破棄、「称号」を確認して完了です。タイムは4分12秒だそうです。やかましいですね。


 騎士見習いのバン様とデン様、って貴方たちは男性では?

 平民だと最近は同性でも結婚できるのですか、それは知りませんでした。

 この場合どちらと婚約破棄すればよいのでしょうか。デン様ですね、かしこまりました。

 ところでデン様はなぜ上半身裸なのでしょうか。屈強な肉体をさらけ出す趣味の方なのでしょうか。その恰好では、紅茶をかける程度だと嫌がらせにならなそうなのですが、いかがいたしましょうか。紅茶を入れているカップをぶつけてもいいですが、カップを割ってしまうと次の方から紅茶をかける方法が使えなくなってしまいます。

 そうですね……。演習場の入り口は下り階段になっていますし、そちらに移動してもらい、階段から突き落とすことにいたしましょう。けがをしたらビブリオに回復魔法をかけてもらってください。


「そいっ!」

 私はデン様を突き落とします。

「ふぎゃ!」

 デン様が突き落とされてかわいらしい悲鳴をあげます。

「サナさん、なんてことを! 婚約破棄をさせてもらう!」

 けが一つ負っているようには見えませんが……。これも日頃の鍛錬のおかげでしょうね。

 婚約破棄完了です。

 手を取って起こすのを助けたあと仲睦まじいバン様とデン様の様子を見て、何かに目覚めそうな気になりながら次に移ります。


 ノボ様とリベット様。

 こちらは男女のカップルですので紅茶バシャで対応します。

 婚約、紅茶、婚約破棄、確認して完了です。タイムなんて知りませんわ!

 次!


 エバ様とクゥ様、貴方たちはともに女性騎士では?

 平民だと最近は同性でも結婚できるのですか、って先ほど聞きましたね。

 最近の騎士団は寛容なのですね。

「サナさん、婚約破棄をさせてもらう!」

 先ほどは気にしませんでしたが、同姓婚の場合は効果あるのでしょうか。

 ビブリオが問題ないと言っているからには、「称号」はきちんと得られているようですね。

 これで完了です。次に参りましょう。


 マーボー様、ジョー様、ゼガ様、タリー様、ケーマ様、……、と婚約破棄を進めていきます。


 婚約破棄が累計30回に達した頃、称号の確認をしたビブリオが私にも鑑定魔法を使ったようで、「当て馬」の「称号」を得たことを知らされました。「勇者」か「聖女」の「称号」を持つ方と対人戦を行う場合、自己強化魔法の効果が2割落ちる代わりに、戦闘中は常時不死身効果が発揮されるようです。アンデッド化するということでしょうか。こわいですわ。あ、違うのですか、では問題ありません。


 婚約破棄は続きます。


 キャシー様、シノ様、トモ様、ハイマツ様、レット様、エトー様、ダイゴ様、ララ様、……。


 これで50組終わったようですね。最後は死んだ目になりながら作業進めるガールになりつつ、効率よく終えられました。

 最後の婚約破棄が終わったときに、ツバイ様が1分2秒、ベストレコードです、と言ってきましたので、少しイラッと来ました。とりあえずビブリオにローキックをしておきます。


 一仕事終えた私たちは、令嬢方(一部男性も含みますが)からお礼として、入手困難なお菓子などの贈呈品を頂きました。開花堂のスポンジケーキや、うますぎることで有名なスベスベカニマンジュウなどですね。

 騎士団の皆様から、今後も依頼があるようなことを言われたので、ビブリオに丸投げしておきます。


 騎士団の皆様が解散し、落ち着いたところでビブリオが私に鑑定魔法を使いました。

 50組の婚約破棄を終えたことで、私はさらに「究極の利他主義」なる「称号」を得たようです。他人の「称号」獲得への協力が50回に達した時に得られると記載されていました。他人に身体強化魔法をかける際に効果が3倍になるそうです。その代わり、他人に身体魔法をかけている間は自分の身体強化魔法の効果が半減するそうなので、一長一短に思えます。悪役令嬢らしくない「称号」と効果ですね。

 珍しい「称号」を見られて喜んだビブリオとツバイ様が肩を組んでスキップしながら演習場を回っていますが、無視をして帰りましょう。


 この日以降、月に一回ほど騎士団の方々が集まって婚約破棄を繰り返す姿が見かけられることになりました。

 もちろん相手は私です。

 この国の騎士団の行く末が心配になりますが、そもそも現世利益を目的にフロルス教を信仰している方が多いことを考えると、問題ないのかもしれません。

 贈答品が思いつかなかったのか、直接金銭のやり取りをする方も出てきて、もはや悪役令嬢とは職業なのではないかと思い始めました。

 今度自己紹介の時には、私は悪役令嬢でお小遣い稼ぎをしています、とでも言おうかしら……。冷静になると意味が分かりませんね、却下です。


 婚約破棄が100回を超えたころには、もう目をつむっても婚約破棄ができる気がしてきました。そのような能力は欲しくなかったですわ……。


 そうして、婚約破棄生活(意味不明)がマンネリ化してきた私たちに変化が訪れたのは、119回目の婚約破棄を終えて、演習場から帰ろうとした日のことでした。

 病弱令嬢ことノート・クーゲルシュライバー様と、騎士団の副団長であるレヨン様に協力してほしい、とクーゲルシュライバー家の執事、ベン様が依頼をしてきたのです。


続く


スベスベマンジュウガニという蟹は実在しますが、毒があるので食べてはいけませんわ。


11/25

誤字報告ありがとうございます。修正しました。

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