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第2話 vs 検証ガチ勢 2回目~16回目の婚約破棄

軽くBL、GLの表現がありますので、お気を付けください。

 気絶したビブリオを紳士寮前の広場まで引きずってきたところで、専属メイドのメルトに持ってきてもらったブランデーを顔にだばだばとかけて起こします。

 メルトは私の専属メイドですが、もともとヴェルトラウトハイト辺境伯家の暗躍部隊「影」の出身で、大体いつでもどこでも呼べば出てくる便利なメイドです。プライバシーなんてものはありませんわね……。


「さて、ビブリオ、起きたみたいだけど、今回の発作はどういうことかしら?」

「発作って言い方はアレだけど……。ヨテスが婚約破棄した時に、ヨテスに『真の愛を得た』って『称号』が現れたんだ」

 この称号狂いは人が婚約破棄されているときに何をしているのでしょう……。それにしても「真の愛を得た」って「称号」とは何とも皮肉なものですわね。

 ビブリオが言うことには、婚約破棄して本当に愛した人と結ばれるときに得られる「称号」で、得られると絶大な効果を発揮するらしいですね。


 ブランデーでびしゃびしゃの顔を輝かせながら、ビブリオは説明をしていきます。

「習得条件がちょっとあいまいだけど、『ヒロインキャラを守るための戦闘で能力が3割増し』って記載だったから、これは誰でも欲しがるんじゃないかなと思ってさ。ヒロインキャラって表現はよくわからないけど、婚約破棄後に結ばれた人ってことだよね、たぶん」

 フロルス・ソフト様が付ける「称号」にはたまによくわからない単語が混じります。


 ちょっとクセのある金髪が濡れて水浴びしたゴールデンレトリバーみたいね、なんて思いながら聞き流していると、ビブリオがぶつぶつと呟きます。

「悪役として婚約破棄される人が必要なら、誰でもできるわけではないし、得られる効果が非常に高い。悪役として断罪された悪評をひっくり返すにはちょうどいいな……。ふふふ……。サナに婚約者がいなくなってチャンスではあるけど、サナの汚名返上は必要だからな……」

 ビブリオの碧眼があやしく光り、またいつもの発作が始まったか……、私はあきれて見ています。


 やがて考えがまとまったらしく、メルトからタオルを受け取って顔をふいたビブリオは私に問いかけます。

「サナ、明日か明後日、もう10回くらい婚約破棄されてみない?」

「はぁ?」

 頭は大丈夫でしょうか。掌底が強すぎましたか……?


 ****


 翌日、ビブリオが作った同好会「称号収集レアもの大好き団」(通称SSR団)の面々が集会を開き、私もそれに巻き込まれました。

「さて、事前に話した通り、今日はレア称号の検証をしたいと思う。まずはツバイ、サナとの婚約用紙に記入をしてくれ」


 ちょっと何を言っているかわかりませんわね……。

 掌底を放とうと構えを取った瞬間、焦ったビブリオは説明をしていきます。

「待って! これはサナのためでもあるから!」

 構えを解いて、続けてみろ、と視線を送ります。

「サナは昨日悪役として婚約破棄されたところをパーティの参加者に見られている。サナが本当に悪いわけではないのは、テレサ嬢が説明して噂を流してくれたみたいだけど、悪印象は拭いきれないだろう。

 それから、『真の愛を得た』という『称号』についてだけど、状況が限られるものの、効果がドラゴンスレイヤーなんかより高いわけだ。騎士団なんかみんな欲しがるだろう。この状況を利用して、『称号』を与えるために、わざと婚約破棄を公衆の面前で受けた、とそういう印象を付けたらどうかと思ったわけだ。なんならどんどん悪役令嬢の役をやって婚約破棄をしていけば、効果の高い『称号』を与えるために悪役プレイをしてくれるありがたい人として印象をつけられるんじゃないかな。

 『称号』の検証がしたいなんて、これっぽっちも思ってなんか……、いやちょっと思っているけど……。痛って! 脛をけらないで!」


 つまり、これから『称号』を与えるために悪役になったと印象を付ければ、悪い印象の婚約破棄ではなくなるってことですわね……。ビブリオにしては考えているように思えますわ。


「ただ、称号の取得条件があいまいだから、SSR団で検証が必要だと思ってさ……。サナ、協力してくれないかな」

 脛をさすりながらビブリオは問いかけてきます。涙目になっているビブリオはやっぱり犬っぽいな、と思いながら私は顎に手を当てて今後について考えます。

 婚約破棄自体はもうしてしまいましたし、悪役令嬢が傷物になったと思って面倒な貴族からちょっかいをかけてくる可能性と、婚約破棄をたくさんする変な令嬢として面倒な貴族がちょっかいをかけてくる可能性を考えて、頭の中で天秤に乗せます。ビブリオの情熱を考えるとここで断っても毎日のように検証を迫ってくる可能性もありますし、ヴェルトラウトハイト辺境伯家の家訓は「国家のための経験値となる」なので家訓にも沿っていますし、などと脳内の天秤に重りを乗せていろいろと思考はいたしましたが、最終的には1回も10回も変わらないからいいか、と思って承諾してしまいました。

 後から思い返すと、100回以上もやるとは思っていなかったこの時の自分を恨みたい気持ちはちょっとありますが……。


「わかりました、検証に付き合いましょう」


 やったああああレア称号の検証だああああ、と叫びながら、手をつないで輪になりながらぐるぐると回って踊っているSSR団の皆様に引きながら、この後の段取りを確認していきます。

 ツバイ様と婚約した旨を書面で残し、ビブリオがフロルス教会の司祭として書面の許可を出し、複数人の人に見られながら、悪役として断罪され、婚約破棄をされる、これを何回か繰り返して条件を検証していきます。

 こんなこともあろうかとビブリオは司祭の資格を取ってあったそうですが、一体彼はどこを目指しているのでしょうね……?


 さて、お待ちかね(?)の検証タイムです。

「サナ嬢、婚約破棄をさせてもらう!」

 ツバイ様から2名の目撃者がいる状況で婚約破棄をされますが、「称号」は得られませんでした。


「サナ嬢、婚約破棄をさせてもらう!」

 ドライ様から3名の目撃者がいる状況で婚約破棄をされます。ビブリオが確認したところ、ドライ様は「真の愛を得た(弱)」を獲得しました。(弱)とは一体……?


「サナ嬢、婚約破棄!」

 フィア様から4名の目撃者がいる状況で婚約破棄をされます。フィア様も「真の愛を得た(弱)」を獲得しました。


 この調子でいくと(弱)のある「称号」しかつかなそうですね。何が弱いのかはわかりませんが……。実際に嫌がらせが必要なのではないかと思い、フンフ様の想い人に水をぶっかけてから、2名の目撃者がいる状況で婚約破棄をされます。

「サナ嬢、婚約破棄!」

「称号」は得られませんでした。


 ゼクス様の想い人に水をぶっかけてから、3名の目撃者がいる状況で婚約破棄をされます。

「サ棄!」

「称号」は……、「真の愛を得た」が得られたようですわね。というかサ棄って原型を失っていますが一体これでいいのでしょうか……?


 ジーベン様の想い人に水をぶっかけてから、3名の目撃者がいる状況で婚約破棄をされます。

「サ!」

 検証は続きます。



 15回ほど検証した結果、一回以上の嫌がらせをして3人以上の証人の前で婚約破棄をすると、例の「称号」が得られることが判明しました。口頭での婚約宣言でも可能でしたので、効果の割にはお手軽であるとは言えます。嫌がらせせずに3人の証人の前で婚約破棄すると(弱)つきの「称号」が得られます。効果は「ヒロインキャラを守るための戦闘で能力が1割増し」です。

 ビブリオをはじめとしたSSR団の方々がほくほくとした満足げな表情でいるのに対し、茶番に付き合った私は精神がやられています。

 この時の私は、まあ、これで検証も終わりましたし、この話を噂として広めれば終わりですわね、と甘い考えでおりました。


 翌日以降、噂を聞いた騎士団や騎士見習いとその想い人の方々から婚約破棄の依頼が次々と来るまでは……。


続く


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