危険
喘息で必要なのはストレスを溜めないことだ。
じゃあどうすれば弥恵にストレスを溜めないでもらえるか。
それが、このパーティだ。
豪勢な食事を作り、部屋を暗くしてサプライズで楽しく過ごしてもらおうとしたのに。
弥恵は、お風呂から上がると笑顔で倒れた。
そこからはおれたちは必死で弥恵を起こした。
何が原因で倒れたのかも一切わからない。
最後の「よかった」と言ったのは一体どんな意味があったんだ?
わからない。
考えてもわからない。
そして、弥恵はまた喘息とみられる症状を引き起こした。
「お兄ちゃん!なんとかして!」
「わかってるって!水汲んで来てくれ!」
俺は玄関のすぐ側にあるバケツを指差して言う。
三葉は頷きバケツを持って走って家から出て行く。
「何かないのか弥恵を救う方法は!
しっかりしろ!しっかりしてくれ!」
三葉が水を汲む終わるまで俺はただそんな言葉しか言えなかった。
だがいつまで経っても三葉が帰ってこない。
「何やってんだあいつ!」
俺は弥恵をそのままにしておくのは危険だと思ったがすぐ済むと思い、外へ飛び出した。
「おーい!三葉、どこにいる!」
俺は清流沿いを走って行くと三葉が抱え込んでいるのを見つけた。
「何やってんだ!早くしないと弥恵が大変なことになるぞ!」
「もう大変でしょ!」
「もっと酷いことになるかもしれないだろ!弥恵を見捨てるのか!」
「そんな訳ないじゃん!でも私は、あんな弥恵の笑顔見たらわかんないよ!」
三葉は涙を流していた。その涙は清流と共に流れて行く。
「俺にもわかんないさ。でも救えなかったらなんであんなところで笑ったのかもわからないまま終わってしまうのは嫌だろ!知りたいだろ!弥恵が何を思って笑顔だったのか。じゃあ助けて聞くしか方法は無いんだよ!」
「私、弥恵のところに戻ってる。水お願い。」
「三葉は走って弥恵の元へ向かった。」
「ったく。」
俺も急いで水を汲み弥恵の元へ向かった。
「お兄ちゃん早く!」
「わかってるよ!そう急かすな。」
俺はバケツからコップに水を移して弥恵の口元に運ぶ。
すると、
「ゲッホゲッホ」
弥恵が咳をすると同時に、
「お、お兄ちゃん。」
震えた声で三葉がそう言う。
俺も身体が震えている。
弥恵の口元には鮮血が付着している。
息をするのも苦しそうで、時々また口から血を吐き出す。
「嫌だよ。弥恵、いかないで。まだ沢山話したいことあるのに。」
今までは大きな声で話していた三葉が弥恵の血液や苦しそうな息遣いを聞いて、声にもならないような微かな息で喋っているような小さくなった。
「弥恵、お願い。俺たちを置いていかないでくれ。」
そして俺も三葉と同じような声に次第になっていった。
水を飲ませても意味がない。
ただ弥恵が衰弱して行く姿を見ることしかできない。
薬があるわけでもない。
どんな病気なのかもわからない。
俺たちに治療できるわけがない。
俺たち2人は弥恵が良くなるように祈っているだけだった。
弥恵のそばを離れずに何時間も側にいて、部屋の明かりが暗くなっても誰も弥恵からは離れようとはせず、一睡もすることができなかった。
迎えた朝も弥恵は苦しそうに、いるだけ。
時々水を飲ませても効果はなかった。
だが弥恵が口から血を吐き出すことはなくなり回復傾向に見え始めた。
俺は朝の仕事をすっぽかして朝ごはんを軽く作った。
昨日の食べてない飯を温め直しただけだが、それでもこんな状況なのに美味しいと感じてしまった。
三葉もそうだったのか涙を流していた。
そして、もう夕方。
俺たちが眠くなり始めたその時、
「はぁー。」
深いため息と共に弥恵が目を覚ました。
「「弥恵‼︎」」
俺たちは今は危険だと感じ抱き着きはしなかったが、涙は流していた。
「心配かけてすまないねー。」
「弥恵が助かったならそれでいいよ。」
「2人ともお風呂に入ってきたらどう?服が水浸しよ。」
俺たちの服は涙や汗などでびしょ濡れだった。
「そうだな。じゃあ俺から入るな。」
俺はその場を後にする。
脱衣所に行き、割れた鏡で自分を見つめる。
目には隈ができておりどれだけの疲労が溜まっていたのかを物語っている。
「次、三葉入れよ。」
「わかった。」
三葉はこの部屋から出て行った。
「業。お前に話したいことがある。」
寝込んだままこちらを見る弥恵は真剣な顔をしている。
「わかった。」
そう言い俺は弥恵のそばに座る。
「私は、お前たちに隠していることが沢山ある。まずそこを謝らせてほしい。」
「謝れても、隠していたことって言っても隠すべきだから隠していたんだろ。だったら謝る必要なんてねぇよ。」
「頼もしいねぇ。でもこれからする話はよく聞きなさい。まずは業達の家族のこと。業の家族は今も生きている。」
「えっ。」
「そのー、あの人達は旅に出たのさ。」
「どうして、旅に出たの?」
「どうしてもこの土地を離れなくちゃならなかったから。そこに業達を連れて行くわけにはいかないから、私のところに預けて行ったんだよ。
次に私は、病気を抱えている。
『喘息』って言う病気で治る兆しは見えて回復中だったのだけど終わってしまったちょっとずつ悪化していたんだよ。それに肺がんも患っていたから多分、悪玉が飛んでガンが再発してきているんだと思う。
私ももうそろそろなのかもしれない。」
「そんなこと言うなよ。」
静かにそう言った。
「でも事実なんだよ。病気もあって老人って末期なんだよ。だから最後に聞いてほしいことがある。」
弥恵は少し間をおいて
「“正義を貫いて”」
その言葉の意味はわからない。
何を言っているのか“正義を貫いて”それにどんな意味を弥恵は込めたのか。
「わかった。」
俺はそう答えた。
「ありがとう。でもまだしばらくはお世話になるかもしれないからよろしく頼むよ。業。」
「あぁ。任しとけ!」
俺は夕飯作りに勤しんだ。
「いっただっきまーす!」
今日の夕方まで、何も話さなかったはずなのにもうこの有様だ。
弥恵がいるとやっぱり和む。
「どうしただろう。超質素なご飯なのに美味しく感じる。」
「おい、三葉もう一度言ってみろ!」
「超豪華なご飯だなー。美味しー。」
「あからさまに棒読みで言うなよ。じゃあこれから、夕飯と朝飯は三葉が作れよ!よろしく。」
「ごめんなさい!お兄ちゃん!超美味しいです。質素なのに質素っぽくないところとか。」
「三葉、それは褒めてないよ。むしろディスってるよ。」
「じゃあ、明日から。」
「お願い!謝るからー。美味しいから!お願い許して!」
「ああっお前肩を掴んだ揺らすな!お茶碗が落ちる!」
「じゃあ許して!」
「もう、わかったよ!許すから。」
「ありがとう、おにぃちゃん!」
「その呼び方やめろ。気持ち悪い。」
「そう言われるとやりたくなっちゃうよ。おにぃちゃん!」
「フフフフ。仲が良いねぇ。」
「弥恵、これは喧嘩だぞ。」
「そうよ!」
「あんた達はそうかもしれないが、他の人が見たらじゃれ合ってるようにしか見えないよ。」
俺たちは次第に距離を置く。
「あら、続けてもらっても結構なのよ。」
すると、三葉が弥恵の耳元で何かを囁く。
「あら、そう。」
「おい。何話してんだ?」
「業、世の中には知らなくていいこともたくさんあるんだから野暮なことは聞かない方が良いよ。」
「そう言われると、余計に気になる。」
「お兄ちゃんは黙ってて良いの!」
「はぁ、そうか。」
そのあと俺たちは楽しく夜を過ごした。
「どんなに質素でも私は楽しければそれでいいわ。」
「それは、俺への当て付けか?」
「そんなことないよ。」
「私もだよ。こんな生活がずっと続けばいいのにって思ってるよ。」
「あぁ。俺もそう願っているさ。」
危うい展開ばっかりですが、そろそろ黒炎の話に移っていくと思います。
まぁ黒炎の話ってどんな話なのかと言われると、ネタバレになるので詳しく言えませんが、慶三が関わってきますね。
次回は、secretです。
次回をお待ちください。
(まだ決まっていないわけではありませんよ!)
それでは読んで下さりありがとうございました。