病気
俺は、元自治会館だったところへ向かう。
そこは、いつも物々交換をしており今日も畑で採れた野菜を持ってきた。
「おじちゃん、その鶏肉とこれを交換してくれないか?」
俺は近くで養鶏場を営んでいたおじさんに話しかけた。
「あぁ。いいとも。そういえば最近弥恵を見ていないが何かあったんか?」
鶏肉を水で軽く濯ぎ袋に入れながらおじさんが聞いていた。
「最近、どうも咳き込んだり『ゼイ、ゼイ』音を鳴らしているんだよ。だからいつも三葉が弥恵の面倒を見て俺がこう言ったことをしているんだよ。」
「そうかい。でもそれは、風邪とかではなさそうじゃな。話を聞く限り何か病気で、呼吸器系病気かのー。」
「ん?おじちゃんわかんのか?」
「こんなことになる前息子がおって、生まれつき病弱だったのでのー医者へ診てもらったんじゃよ。すると、病気だってことがわかってのー。その病気が確か、『喘息』だったかのー。息子はいつも熱はないのに咳や呼吸が荒かっておったからのー。じゃが、ある日突然咳き込みや息遣いが荒くなっての、昔あった“救急車”で病院まで運んでもらったんじゃよ。すると、すぐさま入院らしくて1年以上病気と闘ってあったんじゃが、ちょうどその時あの国が崩壊してしまってのー。息子はそのまま死んでしまったんじゃよ。」
今おじさんは至って普通だ袋に鶏肉を入れて手渡してくる。
俺はそれを受け取ると、
「家族がなくなって悲しくないのか?」
「もう、吹っ切れたわい。初めは悲しくて養鶏なんてしてられんかったが、婆さんが『くよくよしてたら今日を生きることもできませんよ。隆の分も今日を生きなくちゃならないだから』と言われてのー。婆さんのいう通りだって思ってのー。だから今日もこうして物々交換に来てあるんじゃよ。」
「おじちゃんもたくましいな。じゃあありがとうおじちゃん。」
俺はその場から去る。
「あぁ。またな業」
俺は家に帰り朝食を作る。
そして、おじさんが言ったことを考えていた。
『喘息』『息子の分も今日を生きる』
この2つが俺の頭の中でグルグル回っている。
だがまずは弥恵からだ。
「おーい。朝食が出来たから三葉取りに来てくんねーか。」
大声でいうと、
相手も大声で、
「お兄ちゃんが運んできてー。私、面倒なことは嫌い。」
何様だよ!
と大声で言いたかったが、弥恵の面倒を見ているんだ。と思って仕方なく重い朝食を運んできた。
「ほい。持ってきたぞ。」
「お兄ちゃんありがとう。」
「ありがとうね。」
弥恵もそう言う。
「いやいや。お礼なんて別にいいよ。育ててくれたんだし。」
「ねぇ、じゃあ私もお礼言わなくていい?」
「お前はちゃんと言え。」
「ねぇ、ちょっと酷くない?」
「じゃあ食べよっか。」
「ちょっと無視しないで。」
「いただきます。」
「ねぇってば!」
「もう。別にいいだろ、ちょっとくらい無視したって。」
「いやよ。私1人が1番怖いの。」
「まだ1人が怖いのか?」
「そうよ!」
ドヤ顔されても。
「まぁいいじゃないか。人には好き嫌いなんてものが沢山あることだし。」
弥恵が身体を起こしてそう言う。
「まぁそうだな。」
「ねぇ、やっぱり私の扱い酷くない?」
俺はスチール鍋の蓋を開ける。
「すごいじゃん。どこで手に入れたの?」
三葉がそう聞く。
「近くの清流から水を引いて水田を作って弥恵が昔研究してた米の元の品種を育ててたんだよ。」
今日の朝食は雑炊だ。
雑炊と言っても特に具は入っておらず今朝交換した鶏肉の一部や野菜がメインだ。
「お兄ちゃんは中々サバイバルに向いてるね。」
「毎日がサバイバルだろ。だけど前の黒炎のことなんて知らないが。」
「昔は、豊かで全てが順風満帆だったよ。私が子供の頃に『ハイブリッドEXO』という端末が開発されてねー。今までのスマホがコンパクトにそして画面はデカくなったんだよ。何も無いはずの風景にエクゾを起動すると突然何もないはずの場所に画面が浮き出てくるんだよ。その画面をタッチしたりすると画面が切り替わったりして便利な時代だったよ。」
そして、三葉が
「へぇー。そうなんだ。ところで“スマホ”って何?」
と言った。
朝食を食べ終え食器を片付けた後いつもなら畑仕事に行くはずだが、今日は変更して弥恵の元へ行った。
その理由は、
「弥恵。この家に“医学書”ってある?」
おじさんから聞いた『喘息』について調べるためだ。
「医学書ねぇー。本はあまりこの辺りにはないかな。全部エクゾで買ってたから。」
「じゃあエクゾはないのか?」
「エクゾなら充電切れだよ。それにインターネットにも繋がっていないからやれることは限られてくるよ。電気なんてとうの昔に黒炎から消えたよ。」
「電気?インターネット?」
俺の頭の中は混乱状態だ。
「わかんないか。昔はそういうのがあったんだよ。」
「弥恵の話聞いててもわかんないことの方が多いな。」
「昔は子供の頃からそんな言葉を言っていたのに。時代が違うか退化しているのか。」
「どっちもだな。」
俺はそう答えた。
「じゃあ俺は、養鶏のおじさんのところに行ってくる。」
「何か用があるのかい?」
「うん。まぁちょっと。」
「そうかい。行ってらっしゃい。」
「行ってきます。」
俺は、公民館の近くの養鶏場へ行った。
弥恵の病気が明るみになってきました。
何の病気かはまだわかりませんが、病気であることは確実だと思います。
ちなみに時代背景的には、現在よりも進んだ近未来が弥恵が若かった時で、業がいる時代は遥か先の時代です。
弥恵が若かった頃を100年後とすると、その60年くらい先が業のいる今です。
次回は養鶏場を営んでいたおじさんのお宅へお邪魔してお話を聞くという回です。
どんなお話なのかは、また次回。
それでは読んで頂きありがとうございました。