プロローグ
遡ること10年、コオスでは魔法文明が発達していた。
空気中の魔素を取り込みその生み出すエネルギーによって動作する魔法機器は世界に技術革新をもたらし、インターネットなどの技術を除けば地球とそれほど変わらない文明を築いていた。
新しい技術の発明や現象の解明などの研究所が乱立し、その中の一つに魔素の作用の研究所があった。
ウィズロード・ビュトス・アイタスはその一員として日々研究活動を行っていた。
当時貴族は高い教育を受け、自身の領地の経営に進む道を除けば自身の専門分野の研究所に配属されて技術革新を国にもたらす道へと進むことが奨励されていた。
そこで功績を得たものは新たに叙爵されて多くの名誉と富を手にすることができるため、貴族の次男以下の子息達はこぞって研究者の道を志していた。
ウィズロードも同じくアイタス家という侯爵家の3男であったために栄光を夢見て研究に打ち込んでいた。
ウィズロードは当時存在したカルパ王国の最高教育機関である王立学院を首席で卒業した後、研究所でも一番魔素の解明に近い研究者として期待されていた。
日夜研究に明け暮れて実験を繰り返し、少しでもその正体を暴く手がかりをつかもうと努力を続けていた。
しかし邪神の降臨によってウィズロードの環境は一変する。
ある日、いつもと同じように実験を繰り返していたウィズロードは普段とは違うデータが混じっていることに気が付いた。
何か大発見をしたのではと喜び解析してみるもあまりにかけ離れたデータであったため、何が原因なのか突き止めることはできなかった。
仕方なく他の研究員に聞いてみようと腰を上げたところで同僚が勢いよく飛び込んできた。
「ウィズロード、大変だ!神殿に神託が下りて邪神がこの世界に侵略してきたと伝えてきたらしいぞ!邪神はこの世界の魔素を汚染して従来の魔法を使わせないようにしてしまうらしい!俺たちの今までしてきた研究もすべて台無しにされてしまうかもしれない!」
その言葉を聞いた瞬間ウィズロードは同僚に詰め寄り、さっき見つけたデータを説明し、もしかしたらそれが邪神によるものなのではないかと推測を話した。
同僚は目を輝かせ、邪神に汚染された魔素が何か違う効果をもたらしているらしいことに着目して、自分たちの研究が台無しにされるどころかもしかしたら邪神によってもたらされたデータとの比較によって魔素の構造を解明できるかもしれないと意気込んだ。
瞬く間に話が広まり、研究所を挙げてこのデータの比較の分析に取り組もうと意気込んだところに新たなニュースが飛び込んできた。
「女神様が邪神を世界の脅威とみなして倒すため勇者を召喚させるらしい!さらに邪神の侵攻によって魔法機器が使えなくなり、生活ができなくなり機能しなくなっている都市が出てきているらしいぞ!ここが利用できなくなるのも時間の問題だ!」
この一報は研究所に衝撃をもたらした。
居住地が機能しなくなる前に退避地区として建設された都市へ移動しようとする者と大発見ができるチャンスだと考え、より熱心に研究に打ち込む者に分かれて研究所内は混乱を重ねた。
ウィズロードは研究を続ける選択肢を取り、研究所内に残留した。
そしてふとした思い付きから勇者がなぜ邪神と戦えるのかという疑問を抱き、魔素の観点から探ろうと勇者が生活した付近の魔素を手に入れてデータを取ってみた。
その結果信じられないデータを手に入れ、思いもよらず魔素の構造と邪神と勇者の魔素にもたらす作用を知ってしまう。
それが全ての始まりだった。