勇者はチートを手に入れた!
意識が戻り周囲を見回す。
どうやら聖堂の中のようなところに自分はいるらしい。
ステンドグラスから光が差し込み、いかにも神聖な雰囲気が創出されている。
自分はその聖堂の奥の祭壇の前に召喚されたようだ。
「おお!ついに我らの国にも勇者様が現れて下さったぞ!」
「これでようやく我らも邪神に怯える日々から解放されるのか…!」
何やら自分の目の前にいる聖職者らしき人達が涙を流しながら叫んでいる。
何を言ってるのかも聞き取れるし、意思疎通に悩むことはなさそうだ。
きっとあの女神がそういう体にしてくれたのだろう。
しかし声を掛けないとこの人達の興奮は収まりそうもないな…
「あの、すいません…」
「おお!これは失礼致しました!勇者様、此度はこの世界を救うため召喚に応えて下さりありがとうございます!まずは色々と説明のため王の下へと案内いたしますのでこちらへどうぞ!」
どうやらスムーズに進みそうだ。
後を付いて行き謁見の間らしき所へと案内される。
豪華な広間の先の派手な装飾が施された玉座にいかにもな恰好をした壮年の男が腰掛けていた。
その男は僕を見ると立ち上がり、こちらへと歩いてきた。
「これはこれは勇者殿、よくぞこの世界、この国へとおいで下さった!余がこの国、ベニヤミン王国の王、ウォルター・ベニヤミンである!」
「僕は石狩優太と言います。女神様に呼ばれ、この世界へ邪神を討伐しに来ました。」
「そうか、優太殿。この世界は邪神によって魔素が汚染され、今まであった魔法文明が途絶えてしまった。さらにこのままでは世界が滅んでしまうと女神様から神託があったのだ。我々には立ち向かう術はないらしく君たちを呼び出し戦ってもらうしか道がないようだ。簡単なことではないのは承知しているがどうかよろしく頼む。もちろん戦後の礼は弾もう。」
よしよし、良い感じの待遇で迎えてくれそうだ。
よくある王が黒幕みたいな展開ではなさそうだし、礼がどのようなものかは分からないが、女神がいることがわかっている世界でそうそう勇者をないがしろにするような真似はしないだろう。
それより気になることは女神が話していたチート能力のことだが…
「ところで女神様から授かった能力はここで分かると言われたのですが、どうしたらわかるのでしょうか?」
「ふむ、恐らくこの世界に来て初めて勇者殿の肉体は定着すると聞いておる。何か今までの感覚と違うものは感じないか?」
そう言われて身体の内側へと意識を向けてみる。
体が軽く感じる上に生前よりはるかに力も出せそうな気がするな。
後はこの得体のしれない感覚だが…
「体の中から良く分からないものを感じます。なんかこう、循環しているような…」
「やはり、魔素が汚染されつつあるこの世界で勇者が魔素を使用できるという話は本当だったか。おい!あれを持ってこい!」
王様が宰相らしき人に声をかけると何やら水晶みたいなものを持ってきた。
「これは?」
「うむ、これは12か国に一つずつしかない写し身の水晶と言ってな、注ぎ込んだ持ち主の魔素を分析してその持ち主の状態を意識させる道具なのだ。」
「どのように使うのですか?」
「体内で循環している魔素を水晶に注ぎ込んでみるのだ。魔素を感じ取っているおぬしならできるはずだ。」
なるほど、この得体のしれない感覚を水晶に通して注ぎ込むようにイメージしてみる。
すると吸い取られる感覚と共に水晶は光り、脳内に自然と自分の能力の正体が浮かんできた。
美的認識:精神操作
なるほど相手の精神、特に好悪といった思考に影響を及ぼすことができそうだ。
それにしてもなぜアフロディーテと名前がついてるのだろうか?
確かギリシャ神話に出てくる神の名前だったはずだが…
それに精神操作系の能力って邪神に効くイメージがあまりないのだがあまり強そうな能力じゃないな。
何より悪役っぽい。
どちらにせよあまり大っぴらに言っていい能力ではなさそうだな。
適当に流しておこう。
「自分の能力が分かりました。これなら上手く立ち回れそうです。ただ、能力だけに頼るのではなく武術なども磨いておきたいのですが、修行できる場所に心当たりはありませんか?」
「ふむ、それならひとまずうちの近衛騎士団で訓練すると良い。強者がそろっている故基本の勉強くらいにはなるであろう。その間によさげなところに当たりをつけておこう。」
「ありがとうございます。」
「そうだ、それと娘を紹介しておこう。こやつも武術をたしなんでいてな、時折城を抜け出しては修行してくる困ったやつだ。ほら挨拶しなさい。」
後ろに控えていた女の子が前に進み出てくる。
とても美しく、年は20手前だろうか。
星空のような藍色の目は美しい金髪ととても良くマッチしていた。しかし王様と全く似ていない。
「初めまして勇者様。私はこの国の第2王女、ルミナ・ベンヤミンと申します。以降よろしくお願いいたします。」
王女が言葉を発した瞬間、その透き通った声が僕の心をも突き抜けていくのを感じた。