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お姉さまの背中にGが居る!?~来栖 真理子の章~【2】

 踏切警報機の音が響き渡る踏切前は、学生だけでなくサラリーマンや主婦の方も見られるようになってきた。

 それにより、徐々に人同士の距離間が狭くなっていった。そんな中、突き刺さるような視線を感じてしまう。

 再度、手鏡で後ろの様子を確認すると、そこには私の背中をいつも以上に凝視する鈴絵の姿があった。


(ああ、なんて激しく鋭く情熱的な視線なのでしょう! これだけで私……いってしまいそうですわ!)


 手鏡越しではあるけれど、これほどまでの視線を感じたことは、今までの人生で一度もありません! ……じっくり焦らす予定ではいたのですが、あまり焦らして我慢させるのは鈴絵にとってもよろしくありませんよね……? け、けっして、私自身が我慢できないという訳ではありませんことよ。


 しかし、やはり私から声を掛けるというのは、今後の関係においてあまり宜しくないかもしれない。主に主従関係としてですが……。でも、あまり下級生が率先して、先輩となる私が受け身的な行動にでるのも如何なものでしょうか?


 うーん、どうしましょう……、困りましたわ……。

 

 そんなことを考えている私の心情を知ってか知らずか、鈴絵の気配が徐々に近づいてくるのを感じた。まぁ、鈴絵ったら、見た目はちょっと頼りなく臆病な(だが、そこがいい!)性格かと思っていたのですが、意外に積極的な娘だったのですね。


 それでは、ここは鈴絵に期待しましょう!

 私は、鈴絵が私に声を掛けるのを待ち続ける事にした。


「……」


「…………」


「………………?」


 しかし、突き刺さるような視線は未だに感じるものの、鈴絵からのアクションは無いままだった。


 一体どうしたのかしら?

 やはり気になってしまった私は、こっそり手鏡で鈴絵の様子を確認する。するとそこには、真剣な表情で私に手を伸ばそうと健気に頑張る鈴絵の姿が写し出されていた。


(そうよ、勇気をもって! 鈴絵、頑張るのよ! あなたのお姉さまはすぐそこよ!)


 私はそんな鈴絵の姿に感動し、鈴絵が私に触れるのを応援しながら、もう少し我慢して待ち続ける事にした。踏切警報機の音が未だに鳴り響くこの場所で、ついに運命の瞬間が訪れる。


「(ひゃん……!?)」


 鈴絵の指先が、私の背中をなぞる様に振り下ろされるのを感じる。ああ、すごい! 少しさすられただけなのに、こんなに感じてしまうなんて……!

 私は、いまにも鈴絵をすぐにハグしたくなる衝動に駆られてしまう。


 ……は!? いけない……いけない……。

 ここで欲望のまま動いてしまったら、今までの計画が水の泡になってしまいますわ。ここは冷静に、学園の先輩として誠実に振舞わなければいけませんわね。

 私は、鈴絵に気が付かなかったフリをして、ごく自然にゆっくりと振り向くことにした。


「……あら? 貴方は……」


「……コ、コンニチワ……クルス……センパ……イ……」


 私は、鈴絵にこの気持ちを悟られないように、微笑みを絶やさず平常心で会話を続ける。


「はい、ごきげんよう、……あの、もしかして。私に何か御用かしら?」


「イ……イエ、セナカニ……ゴミガツイテイマシタノデ……」


 ……はふぅ……! なんて純粋で思いやりのある娘なんでしょう!

 鈴絵と監禁調教百合えっちしたいという、少しだけ邪な考えを持っていた自分をほんのちょっぴり恥ずかしいと自己嫌悪してしまう。

 でも、いまさら後には引けないので、気を取り直して鈴絵と話を続けることにした。


「まぁ、それを取っていただいけたのですか、ありがとうございます、河野さん」


「イエ……ドウイタシマシテ……」


 少し緊張しているような言葉遣い。それに、何やらすごく苦しそうな位、恥ずかしがっている様子だった。……もしかして、私と話すことにかなり緊張しているのではないでしょうか?


 出来るだけ友好的に会話しているつもりでしたが、鈴絵から見たらまだ話しにくい相手という認識なのでしょうか? そう思うと、少しだけ悲しくなってしまう……。


「せ……せんぱいは、良くこの踏切で……お見かけしますけど……」


 そんなことを考えている私に気を利かせてくれたのか、鈴絵が話題を振ってくれた。

 良い受け答えが無いか少し考えたが、あまり話を盛ってもしょうがないので差し障りの無い範囲内で、正直に鈴絵に話すことにした。


「ふふ、私ね、この踏切で待っている時間が好きなの。今日の事を色々考える事ができるっていうか……。だから、時間がある時はいつも待っているんだけど……おかしいかな?」


「い、いえ……! そんなことありません……! とても、いいと思います……」


 そういうと、鈴絵は恥ずかしそうに顔を伏せてしまう。うーん……、反応がイマイチよね。もう少し仲良く話すことはできないでしょうか……?

 

 そう思った私は、こんなこともあろうかと、準備していた女子と仲良くする【ある趣味】の話をすることにした。


「あ、そうだ! 実は私、今、手相を見るのを趣味にしているんだけど、良かったら河野さんの手相を見てあげたいんだけどいいかな? まだ踏切開くのに時間が掛かるし……」


「え……!? ええ……」


 占いといえば、女子の大好きなもの。そして私の選んだ占いの種類は、手相占い。

これなら、ごく自然に警戒されることもなく、相手の手を触れることのできるとい画期的な方法なのですわ!


 私の申し出に、恥ずかしがりながらもおずおずと左手を差し出してくる。

 私は、それを優しく両手で包み込むように握る。鈴絵の左手は、ほのかに熱を帯び、まるで赤ちゃんのような肌触りで、思わず何度も揉んでしまう。


 ぷに、ぷに、ぷに、ぷに。


 鈴絵は少し頬を赤くしながら、虚ろな表情をしていた。

 ああ、いけない、ここは占いに集中しませんと……。実際、鈴絵の手相にも興味があったので、私は覚えた範囲内で鈴絵の手相を確認することにした。


(……うん? 感情線に線が横切っている……。これはたしか……女難の相……だったわよね……)


 彼女の左手の手相には、くっきりと女難の相が現れていた。私が素行調査した限りでは、鈴絵の周囲で危険な女性の影はなかったと思います。つまり、これはこれはこれから起こると思われる女難の相なのでしょう。

 ええ、これは占っておいて良かったわ! 私は、胸を撫でおろし安堵する。これから女難の相手が現れるのであれば、私が守ってあげれば解決ですから! 安心してくださいね。


 私は、鈴絵に余計な心配かけないように、今回はポジティブな占い結果を伝える事にした。


「うふふ、左手は潜在的なポテンシャルを表しているのだけれど、河野さんはそういった力がまだまだ眠っているみたいよ? すごいわね!」


「はい……ありがとうございます……」


 嬉しそうな鈴絵の表情。少しだけ緊張がほぐれたような気がする。私は、緊張がもっとほぐれる様にと手相占いを続けることにする。


「じゃあ、こんどは右手を見せて欲しいんだけど、いいかな?」


「は……はい!?」


 突然、鈴絵が驚いた表情で声を上げた――!

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