十二月二十六日。火曜日。
十二月二十六日。火曜日。
起きたらすでに午後五時を廻つてゐた。僕は蒲團から飛び起きて襖を開けるや否や、梅やの音のする廚へ向かつた。廚にはやはり梅やが居て、僕に氣付くなり
「おはやうさん。やつと起きましたか」
と疲れた聲で言つた。
「だうして今まで起こしてくれなかつた」
と聞いた。梅やは少し驚いた表情を見せたが、すぐに大根を入れる途中だつた糠の方へ向き直つた。
「わたしや何度も起こしに行つたよ。その度に起こすなつて言つたのは學ちやんぢやないか。わたしや知らんよ」
「そんなこと言つた覺へ無いよ」
「いいへ、言ひました。わたしや朝の七時に一度、その一時間後に一度、正午に一度、學ちやんの室に入つて蒲團を剥ぎました。それでもまるで起きやしない。體を搖すつても大聲出しても、嫌そうな顔して起こすな起こすなつて言つて起きやしない。もうまつたく嫌になつちまうよ。こつちの方が氣が狗つちやうよ。はあ。飯もろくに食わないで、一日中蒲團に入つてたら體を壞しますよ」
僕は思ひ出さうとしたが、思ひ出せたのは昨日の梅やの飯が糞不味かつたといふことだけであつた。梅やが嘘をついてゐるやうには見えなかつたし、嘘をつく理由も思ひつかなかつたから、梅やが言つてゐることは本當なんだらうと思つた。
一日無駄にしたことを悔んでゐた時、僕は突然昨日の事を思ひ出した。きつとけふ僕が起きれなかつたことと昨日雷に撃たれたこととの間には何らかの關係性が在るに違ひない。
色々と考へてゐたら腹立たしくなつてきたので、飯を食つて氣を紛らすことにした。あまり腹は減つてゐなかつたが、よく思へば昨日の晩から半日ほど飯を食つてゐないことになる。僕は昨日の晩飯を思ひ出したせいで食慾が無かつたが、流石に飯を食はないといけないと思つた。
けふの晩飯は食へた物だつた。晩飯を食ひ終へ僕は梅やにけふは何日かと聞いた。
「二十六日ですよ」
僕はそれを知つて慌てた。實は二十八日には國へ歸ることを前々から計畫してゐた。旣にその旨の手紙は兩親の元へ屆いてゐるはずだ。二十八日に向うへ着くには明日の朝發たなければならない。さつき梅やにこのことを言つたら、やはり「なんでそんな大事なことをもつと早くに敎へてくれないんだい。急に言はれても困りますよ。まつたく、しつかりしてちようだい」と叱られた。僕は「正月に歸省するのはいつものことだらう。それくらゐは言はなくたつてわかるだらう。何もそんなに困るはずはない」と言つて自室へ戻り襖を閉めた。
今見ると時計の針はもう夜の七時を廻つてゐる。明日の朝省線に乘つて國へ歸る。久し振りに會ふ兩親の顔を思ひ浮かべると勉强も手がつかない。よし、けふはもう本を讀んで寢やう。けふ僕は十分寢たと言ふより寢過ぎたのだが、昨日あんな事もあつたんだから明日の爲にも寢た方が好いだらう。そんな事を考へてゐるうちに、何だか眠くなつてきた。おやすみ。