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01:株式会社プラネット・テイラー カスタマーサービス部第5係


 ―― 人類が始まりの星、地球からその外へと生存圏を伸ばして、今年でちょうど1500年。

 そして今……時代は大宇宙開拓時代! 企業から個人まで、シップさえあればどなたでも開拓者に!!



「ちょ、ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ! エネルギーが! エネルギー消費がちょっとぉ!!!??」



 ―― この広大な宇宙で開拓者なんて危険なんじゃ? そんな事はありません! 現在、開拓者をご希望される方には、最寄りのステーションにて支援団体に登録されている企業から自衛のためのシールドや対デブリ用近距離レーザータレット、更には海賊戦に機動艦隊でも使用されている高出力のロングレンジエネルギーカノンまでも! 兵器だけではございません! 新開発のエンジンや追加ブースター、探知センサーまでもが格安でお求めいただけますし、同時に船体、車両、医療、生命各種特別保険のご用意も――



「ちょっとぉぉぉぉぉっ! 新型とかいうエンジンの出力安定してねぇし積んだばかりのタレットもセンサーも電力食いまくってんじゃねぇか!! 企業のアホ共、試作品ばっかよこしやがって、コイツは実験船(テスト・シップ)じゃねぇんだぞ!」



 ―― ……いざ開拓者になっても、何をすればいいか分からない? ご安心ください。そのような方達をサポートするのが我々、プラネット・テイラー社でございます! 開拓者を募集している企業のご紹介から必要な人員、そしてもちろん物資に資材、機材、なんっでもご用意を――



「あれだ! やっぱ開拓事業に関わる企業なんざほとんど詐欺師同然のクソッタレどもばっかだ! 学習した! 俺今度こそ学習した! おい、リーゼ! さっさとガンポッドとリンクしろ! このメテオ群さっさと抜けて安全なエリアまで離脱しねぇとステーションに着く前に俺たち揃って宇宙の藻屑――」

「ちょっとーーっ!!! CMの撮影中だって言いましたよね!?」


 ふよふよと宙に浮遊しているカメラから目線を離して、ジャンプスーツに身を包んでいる女性型アンドロイド――ガイノイドが、どこにでもあるごく普通の宙間輸送船(カーゴシップ)を必死に操縦している男に向けて、不満たらたらの顔で声を張り上げる。

 

「ふっざけんな命かかってんだ! んなこと気にしてられるか!!!」


 声をかけられた若い男――こちらはベルトで操縦席に身体をしっかり固定したまま、操縦桿を握りしめて必死の表情で外の様子を映し出しているディスプレイと睨めっこをしていた。

 宙間輸送船(カーゴシップ)にしてはかなりゆとりのあるフライトデッキには、何か巨大な物が近くをかすめていく不吉な音が響いている。


「さっきから船体の傍スレスレを隕石がヒュンヒュン通り過ぎて行く音が俺の胃をキリキリキリキリ…………ちょっと待てぃ、なんで音が聞こえてくるんだ!?」

「あ、それですね。ティトス・インダストリアから無料で頂いたセンサーです。大幅な改造が必要だったんですが、なんとこれ、船体から一定範囲をセンサーでサーチして、三次元音響でリアルに伝えてくれるという新型なんです! ちょっとコクピット周りの配線弄る必要ある上に、消費電力がちょーーーーっと跳ね上がりますけど、その分より直感的な操船が――」

「エネルギー食いまくってんのはそれかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


 一体何の意味があるのか、握りしめた拳を真上に突き出し、男が絶叫する。


「なんですか、こんなメテオシャワーなんてババッと片付けてカッコよくササッとスタイリッシュに離脱してくださいよ。いい宣伝になれば顧客も入社希望者もわんさか! ひょっとしたらウチにも増員が来てコンビからチームに格上げ――」

「お前ホントにぶち壊すぞこのポンコツガイノイドが! いいからさっさと銃座に付けっ!!」





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





 2017年にアラブ首長国連邦が宣言したMARS2117(火星移住)計画の部分的成功を皮切りに、関連する研究や技術の深化が始まり、その後100年の内に、宇宙開発計画は爆発的な進歩を見せた。

 コロニー計画から始まった地球外での居住地開発は、火星、月の地下居住プラントなどといった開拓へと進んでいき、ついには太陽系からの移住、他の惑星へ直接足を踏み入れて調査する段階までへと移り変わっていった。


 それから実に10世紀。様々な困難、事件、事故、そして争いを繰り返しながら、人類は太陽系外へとその居住圏を広げたのだった。


――と、惑星開発コンサルティング企業『プラネット・テイラー社』のパンフレット。最初のページに書かれている。

 正直、それから更に時間が流れているためさらに5世紀は経ったのだが……。


「人がキチンと住んでる星なんていくつあんだよ。結局、現地研究員以外はほとんどステーションかコロニー住まいじゃねぇか」


 汗だくになった額をタオルで拭い、オレンジジュースが入ったドリンクパックを口にくわえたまま、先ほどまで必死で操船していた男は不機嫌そうにパンフレットをサイドデスクの上に放り投げる。


「どれだけ新しい惑星系を見つけた所で、拠点になるステーションの建設だけで最低10年……いや、確実に資材運搬とかシステムエラーによる組み直しなんかに時間取られて20年、最悪一世紀から二世紀かかることだってあるっつーのに……」


 放り投げたパンフレットの裏に書かれている勤め先――プラネット・テイラー社のロゴを詐欺師を見る目その物でジトーっと男は睨む。

 その男の胸には、全く同じロゴマークが入ったネームプレートが付けられており、『プラネット・テイラー・カスタマーサポート部第5班リーダー:クルト=ゼイフリード』と書かれている。


「でも、先日いくつかの星が居住者を募集開始したらしいですよ? 同時にテラフォーミングも始めていくと言う事で、本社からエンジニアが向かうらしいです」

「……それでも、その星が普通に住めるようになるには何世代もの積み重ねが必要だ。実質、テラフォーミング――惑星改造に成功した所なんて5つもあればいいほうだろ」


 クルトが面倒くさそうな発言に、リーゼというガイノイドは曖昧な笑いで誤魔化す。


「まぁ、その積み重ねのお手伝いをしていくのが私達じゃないですか。テラフォーミングが完了した所は少なくても、成果が出ていると言う星ならば結構ありますし、現にお仕事は絶えないじゃないですか」

「回してもらえる人手は絶望的に少ないけどな!」


 緊急操縦による緊張でこった肩を軽く揉みほぐしながら、クルトは、所属している支社から通信で送られた仕事の書類を、手にしたタブレットに表示させる。


「とりあえず、危機は脱した。後はステーションにたどり着いてから補給受けてから、次の仕事場までさっさと飛ばさにゃ……えーと、次の仕事は――」

「今回は、UK領域の3Eエリアでのお仕事になりますね」

「UK……イギリスの? 3Eエリアって聞いたことねーぞ」

「UK第三実験宙域――まぁ、文字通りほとんど人が住んでいない、完全な実験用の宙域でした」

「何の実験だ? 軍?」

「いえ……熱核融合を利用した人造太陽の精製、及びその安定・耐久性の実験となっています。太陽型天体が一切ない宙域における開発を目的とした研究と言う事でして……自前のメインステーションと中型コロニー3機で長くやっているそうです」

「……採算取れんのか? それ?」


 以前に読んだ本で、人造太陽計画は何世紀か前に何度か実験されたが、太陽そのものではなく太陽光に近いを作りだす方向にシフトしたというのを思い出し、クルトは眉をひそめる。


「研究ってそういうものでしょう?」

「……まぁ、それもそうか。で?」


「人造太陽の精製実験には成功していたようですが、それの安定性と、本来の太陽と同じように作用するかをこの二世紀近く、米国と共同で実験していたそうです。人工的な大気・空気への影響、実験コロニーに持ち込んだ植物や動物への影響、ここ50年は人への影響を……。かなり機密度は高かったようですね。その結果を見て、計画を一段階進める事になったようです」

「……本格的に惑星系を1から作るつもりか」


 なんとなく思い当たる節があったクルトがそう言うと、リーゼはなぜか嬉しそうに頷いて肯定した。


「まぁ、既存の星は基礎調査に時間を取られますからね。地球型の星なんて発見した時には、現地環境への影響を恐れて実地調査に莫大な時間と予算かけますし……」

「そして開拓者から突き上げが来るんだ。『いつになったらあの星イジらせてくれるんだ?』ってな。あーやだやだ」


 適当にタブレットの情報を斜め読みしたクルトは、興味無さそうにタブレットをやや乱暴にまたサイド

デスクの上に置いて軽く伸びをする。


「仕事の依頼は、イギリス政府が用意した小惑星の基礎開発補助……本社が入札してたのか」

「はい、そのためステーションにて支社経由で送られた機材や資材を受け取り搬入してからの出発になりますね」

「…………そうか」


 リーゼのその言葉を、クルトは頭の中で2,3度『咀嚼(そしゃく)』する。


「そうか、じゃあちっと時間がかかるわけだ」

「そうですね。多分、超高速艇で隣のステーションから色々運ばれるので……2,3週間ほどでしょうか?」

「ほうほう。ほほーう」


 そして、それが意味する所を理解すると、頭を抱えながらゆっくりと立ちあがる。そして――



「おかしいおかしいとは思ってたが、やっぱり航路無視してルート短縮する必要性なんざどこにもなかったじゃねぇかクソアマァァァァァァッ!!!」

「あああああああああああっ!!?!? 待ってウェイトジャストモーメントプリーーズッ!!」


 それなりに筋肉の付いているクルトと、数ヶ月前に人工筋肉パッケージを良質品と交換したリーゼが真正面から取っ組み合い、互いが握り合っている手から『ギチギチギチ』という理解したくない音が鳴り響く。

 

「だってだって、広報部のエミリーさんが『アンタ達ならまたワケ分かんないことに巻き込まれるんだからとびっきりの映像用意してきなさい』なんて言うんですよ!? そんな期待されたら答えるのがアンドロイドの誇り――」

「それ期待じゃねぇから!!!」


 バッと組み手を振りほどき、両手をわななかせながらクルトが叫ぶ。対してリーゼは、ガイノイドにしては珍しく感情を露わにして身ぶり手ぶりを交えて全力で弁明する。


「それに、次寄るグローマサム・ステーションで行われる各企業の新型シップパーツの販売会の開始まで一週間を切ってるんですよ!? 急いで行かないと良い商品が全部他の人に買われて無くなっちゃいます――」

「その結果がメテオシャワーの洗礼かクソアマ! よーしわかった、次のステーションで違うアンドロイド募集してお前と入れ替えてやる!」


 もっとも、それが効果的であるかどうかはまったく関係ないことだったりする。


「いやーーーっ! それだけは止めてください! 人格、人権が認められたアンドロイドといっても、人の経営する一般企業への就職はまだまだ大変なんですよ!?」

「知ったことかーーーーっ!!!」


 総合宇宙開発コンサルタント企業、プラネット・テイラー。

 その中で最も忙しく、最も人手が足りないという部署――通話でメールであるいは直接顧客の元に出向き、事業のコンサルトを手伝うカスタマーサポート部。

 その中で最も人が少なく、だが最も騒がしいチームと噂されている一人と一体。CS部第5班のコンビは、宙間輸送船(カーゴシップ)のフライトデッキで、彼らを知る者ならば必ず一度は見たことがある醜い争いを延々と繰り広げていた。


 今日も、宇宙は平和である。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





「あの二人に任せてよろしかったのでしょうか?」


 この数世紀の間に多く作られた国際宇宙ステーション。その中の一つのビジネスエリアに設置されている大規模事務所こそ、総合宇宙開発コンサルタント企業、『プラネット・テイラー』のクルト達が所属している支社である。


「ん~? まぁ、こういう妙な依頼はクルトに投げときゃいいのさ。というか、アイツ以外には任せられん」

「…………」

「どうかしたかい?」


 蒼い髪を肩辺りで整えている、クールビューティーという言葉が実に似合う秘書が、優男に尋ねる。


「支社長は、クルトさんを高く評価していらっしゃるのですね」

「やっかいな雰囲気の仕事の時は重宝するのさ、あ~ゆ~のはさ」


 優男――支社長は生あくびを隠そうともせず、わざわざプリントアウトした書類に目を通しながらそう答える。


「不思議だよねぇ。元軍人とかそういう訳じゃない普通の人間なのに、厄介事の解決率はウチの支社で間違いなく一番」


 その分、多く面倒な事に巻き込まれる回数が多いと言う事なのだが、秘書は薄く頬笑みを浮かべて何も言わなかった。

 わざわざ元凶にそれを言った所で仕方のない事だ。

 秘書の女はそう判断した。


「とはいえ今回の件、もし依頼内容が『額面通りでなかった場合』……クルトさんとはいえ少々面倒な事になりませんか?」

「ん、そこも大丈夫。手は打ってある。社員に隠し事はあっても、使い捨てる様な真似はしないさ」


 飲み友達なら尚更ね? と言いながら紙をめくり、該当の書類に目を通しながらコーヒーを少し啜る。


「彼なら上手くやっていけるさ。彼女達ともね」



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