ジャンケンに井戸はいらない~それでも俺は井戸を出す~
午前の授業の終わりを告げるチャイムがなり、教師が教室を出ていくのを見送る。
その後、唯一の親友の田中に決闘を申し込む。
「なあ田中、ジャンケンやらないか?」
田中は返事をしない。
ただのしかば……いいや田中は授業中以外はすぐ寝る奴だったはずだ。
昨日は井戸というジャンケンの必勝法を知ってしまったために寝れなかったから天然が発動してしまった。
俺は田中の耳もとまでいき、大きく息を吸い込む。
そして俺はもう一度、田中に決闘を申し込む。
「なぁ!たなかぁ!おれとぉー!ジャンケンやらないかぁ!」
「うっせーんだよ!なんだよ、突然。」
どうやら田中は少し切れているようだ。
だが、なんだと聞かれたらこう答えるしかないな。
「俺の名前は佐藤大貴。唯一の親友田中に決闘を申し込む。俺とジャンケンやらないか?」
「はぁ?名前なんて聞いてねぇよ。つーか決闘ってなんだよ?ジャンケンをやるやらないとかじゃなく、なんでジャンケンをやりたくなったのかの理由を聞いてんだよ。こっちは。」
色々突っ込まれた気がしたが、親友は否定されなかったので俺は少し安堵した。
理由は唯一の親友が放課後すぐ家に帰るから、俺もすぐに家に帰り、ずっと家でネットサーフィンをしてた時にたまたま井戸という必勝法を見つけ、ジャンケンをやりたくなったんだと説明した。
そしたら、俺に悲しそうな目を向けてまあいいかと言ってくれた。
持つべきものは唯一の親友だぜと思っていると、ルールはどうするんだと聞かれる。
「ルールは井戸ありで、負けた方がジュースおごりってのはどうだ?」
「おういいぜ。お前みたいな馬鹿に負ける気しねぇし。」
俺はいつも全教科赤点ギリギリだが、一度も赤点を取ったことがない。
「なんで俺が馬鹿なんだよ。理由言えよ。」
「ジャンケンには井戸は必要ないからだ。」
俺が昨日丸一日かけて調べた記事には井戸を使えば勝率が上がる、井戸は最強だと書いていたはずだ。
「は?井戸は最強だろ。」
「井戸はグーとチョキに強くて、パーに弱い。そしてグーはチョキに強くて、パーと井戸に弱い。」
そんなの当たり前だろ。
「井戸を追加することによって、グーは井戸の劣化版になりグーを出す必要が無くなる。」
ん?
井戸は二つに強いから最強ではないのか?
「グーを出す必要がないなら、井戸はチョキに強くて、パーに弱い。井戸なしの時のグーと同じだ。つまり、グーチョキパーが井戸チョキパーになっただけで井戸が増えても何も変化がない。まあ、馬鹿は引っかかるがな。」
それじゃあ井戸とグーは同じだってことか!
そんなわけない!
昨日の俺の時間は無駄じゃない!
「それでも俺は、井戸を出す。最強の井戸を!」
「ああ」
「「ジャンケン、ポン!」」
なぜだ?
「最強の井戸が負けたぁ……」
「ジャンケンする前に井戸出すって、言ったしな。」
「あ……」