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ウラギリモノ

作者: 夏藍湖

歴史わからない人、わかりにくくてすみません。


歴史わかる人、イメージぶちこわしてすみません。





ずっとずっと昔


僕らは、家族だった。


試衞館という家で、無償の愛を分け合う、かけがえのないものだった。




新八さん、あんたは俺のことを、甘ったれのボンボンだって馬鹿にしたな。


毎日毎日馬鹿にして、毎日毎日稽古に付き合ってくれたよね。


それが悔しくって、本当に悔しくって。

毎日がむしゃらに竹刀を振るった。


何刻も何刻も。


あんたはそれに、嬉しそうに付き合ってくれたよな。


あんたと刀を交えるその瞬間が、大好きなメシよりも、何よりも大切だった。


「甘ったれんなよ、子狐」


そういって、頭をなでるあんたの手が、何よりも暖かかった。




もう遠い昔


僕らは仲間だった。


新撰組という組織の中で、誠の旗を掲げる同志だった。




佐乃助は俺の額の傷を、嬉しそうに眺めてたな。


「なんだよ、そのにやけた面は」


生意気な俺に、あんたは嫌な顔一つしなかった。


「平助と俺は、同じもんをもってんだ。俺の腹には男の勲章、おまえの額には誠の勲章。その勲章、隠してからもったいねぇな」


池田屋で受けた額傷。


正面からうけた、避けられなかった恥の証。


なぁ、知ってるか。


おまえのその一言で、恥の証が誠の勲章に早変わりしたんだぜ。


おまえのさり気ない言葉が、俺を強くしてくれた。




新八さん


佐乃助




俺、何を間違えたんだろうな




どこで、間違えてしまったんだろうな






血生臭い毎日の中ででも、いつも三人でじゃれてたね。


命がけで、台所の沢庵をつまみ食いした


土方さんの句集を見つけて、殴られた


源さんの寝顔に落書きしたら、次の日顔が墨だらけだった


斎藤さんの蕎麦を三人で奪ったら、次の日から一週間、三人で悪夢を見た



山南さんの眼鏡を割ったら、翌月の給与が半分だった






いつも一緒だった


初めて人を殺めた時も


生死をさ迷った時も


同志の死のときも




こいつらとなら、どんな時だって耐えられる







「久しぶりだな、平助」


そう言った彼の手には、愛刀。


「そうだね。新八さん、少しも変わってないや。つまんないの」


そう言う俺の手にも、愛刀。



「おまえはやつれたな。ちゃんと食ってねぇだろ?」


図星だ。


やはり、新八さんの眼はすごい。


「食べてるよ。いつまでも、子供扱いしないでくれる?」


「まだまだ俺には程遠いよ、子狐」




「ためして、みる?」



あぁ、なつかしい。


そう考えるのは、不謹慎だろうか。


こうやって、対峙しただけで俺はあのころに戻った気分になる。


それだけで、幸せなあの頃が蘇ってくる。


「何笑ってんのさ。あの頃みたいに、竹刀じゃないんだぜ?」


―あの頃みたいに、竹刀じゃないんだぜ―



新八さんもかな


新八さんも、俺と同じように、あの頃を思い出していたのだろうか。



「なあ、平助。博識で、ボンボンで気だけ強くてなんにもわかってなかった子狐だったのにな」


はっとして、見上げた新八さんの顔は


苦々しく歪んでた


「いつの間にか、自分で考えて、自分で選ぶようになったんだな」


「……新八さん」


「おまえは、自分の足で…俺たちから離れていったんだな…」






そう、俺は自分の足で、新撰組を離れた。




すべては俺の責任だ。


新撰組副長助勤だった俺、藤堂平助。


総長だった山南さん。


「彼らを、頼んだよ」




それだけ言って、逝ってしまった山南さん。



俺はただ、その言葉を守りたかっただけだった。


このままじゃあ、みんな死ぬ。

わかっていたから意見した。


伊東甲子太郎の意見に賛成した。


近藤さんなら、わかってくれると、そう思った。

今の新撰組を変えられると、本気でそう思った。


ただがむしゃらに




気がついたら、新撰組とは違うところにいた。


いつのまにか、誠の旗がなくなって、俺は御陵衛寺にいた。


隣で笑う仲間も、がむしゃらに稽古する仲間も、いなくなった。


そして今、俺はかつての仲間と油行路にいる。


俺と彼の間には、怪しく輝く二本の刀。

そして、見えない大きな壁。





「教えてよ、新八さん。俺は、何を間違えた?いったい、何が、いけなかった?」



きっと、今にも泣きそうな、情けない顔をしていることだろう。


でも、もう限界だった。


彼なら、俺を助けてくれるだろうか。




「間違ってないよ」




「おまえは、何も、間違ってなんかいないよ」



「じゃぁ…、なんでこんなことになった!?俺は、こんなこと、望んでいたわけじゃない」




「間違っているのは、俺たちだ」



――俺たち――


その中に、俺は含まれていない。


「伊東たちも、間違っちゃいない。間違ってるから斬るんじやない。邪魔だから排除する。おまえもよく知ってるだろ?」




「俺も、排除されるってわけ?新八さんに、できるかね」



「まだまだ、おまえには負けないよ」



俺たちは、お互いに愛刀を構え直した。


彼の特技は抜刀術。

すでに刀をぬいている彼に、いささかの違和感もあった。


キィィイィン


刀のぶつかり合う、嫌な音が闇に響く。


おかしい。



俺が、新八さんと一回交えて、まだ生きていられているなんて。



「なっ……」


彼の眼に、殺気はなかった。


あるのはただ、一つの言葉




逃げろ




彼の眼にあるのは、その言葉。


もぅ、敵にされたと思っていた。

仲間ではないと思っていた。


なのに、敵だと思っていた彼の目は、家族の目だった。






ザシュッ




平助ぇぇぇッ



俺の口からでたのは


謝罪の言葉でも


感謝の言葉でもなく


赤い


紅い



ものだった




「平助ぇぇぇえええッ」






ああ


ダメじゃない、新八さん。


俺は今、敵なんだから。




気がついたら、俺は、新八さんに抱えられるようにして、倒れてた。




目の前にあるのは、彼の…歪んだ、歪んだ顔だった。



「なんて顔してんのさ。それが、新撰組二番隊隊長のする顔?」



「しゃべるな、今、安全なところに…」


「そんなこと、してる場合じゃないの、自分が一番わかってる、でしょ。俺は…」



「馬鹿野郎!!」



そう叫んだ彼の手は、赤く紅く、よごれてた。


そう、俺の…俺自身の血で。



「こんな馬鹿げた任務より、おまえのほうが大事に決まってる!!

何穏やかに喋ってんだ、この世間知らずのクソ狐!

おまえこのままじゃ死ぬんだぞ!?」



彼は、俺のために、泣いていた。




自尊心の高いやつだった。

いくらキツい稽古のときも、任務のときも、弱い顔なんて、一度も見せなかった。


山南さんが死んだ時でさえ、彼の顔は澄まして見えた。


彼と斎藤だけは、山南さんの死すら、予想していたかのように穏やかだった。


その、彼が。



今、俺の目の前で泣いている。




「ごめんね、新八さん。ごめん」



「置いてって、ごめん」




「の野郎ッ。また…また置いてくなんて、許さないからな」




「新八さん…見えてるだろ?…この先の未来が。……わかってるだろ?どうなるかくらい」



「何言ってんだ」



「生きて…生きてくれ。」



「は……?」



「誠なんかに、捕らわれて、あんたまで死ぬことないんだ…あんたには……生きてほしんだよ。俺の分まで…」





「平助ェェェッ」



















ああ、山南さん












俺、だめだったよ






新撰組を




みんなを




守れなかったよ
















なんにも、かえられなかったなぁ




みんな、裏切っちゃったしなぁ



















ごめんね、山南さん


















いま、そっちに、怒られにいくよ



駄文、すみません。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ホロリときました。  この作品を(藤堂)を書いて下さり、  そして読ませて下さり、ありがとうございました。
2015/07/14 12:27 退会済み
管理
[良い点] こんばんは。 初めまして! 小説読ませていただきました。 私も幕末、新撰組大好きです。 三人トリオのちらりとかかれた日常が、悲劇をより一層引き立てていて、すごく切なかったです。 作者様の書…
2010/06/25 23:54 退会済み
管理
[一言] すごく、よかったです めちゃくちゃ感動しました
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