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ハニータイム  作者: 淺葱ちま
4/6

なに食べたいか解らない

たまにある、雨の日で、休日で

すっごく無駄にした日をほっこりできないかさせたかった話

 朝から起きて、頭の重たさに辛くなる。

ザァーッと、外から酷い雨の音がする。気圧に弱い自分には、頭も痛ければ体中もだるい。

 今日が仕事休みでよかった。使い物になる自信がない。


 頑張って布団から少し起き上がって開けたカーテンをまた閉めて布団に潜って暖かさを堪能する。

 私より年下の大学生の彼はきっと、この雨の中も大学に通いつめているところだろう。尊敬すらする。


 なのに私といえばどうだ、世の中様は平日で、布団にこもりっきり。食事すら食べる気力も何もない。

 どんどんとネガティブに落ちておく思考、上がる要素が見当たらないのが良くない。携帯が手の届く位置にあって良かった。ソレすらも届かなかったら見なかったに違いないが、彼から連絡が来てた。


『今日仕事休みだよね? 良かった。天気も酷いし、頭痛とか平気? 大学行ってくる。』

『帰り寄っていいなら寄る。何食べたいか教えて?』


 なんていい人なんだ。こっちの心配までして…。なのに何で私なんかと付き合っているんだこの人は…。不思議でたまらず、私の気持ちはドン底に何故か落ちていく感覚に襲われる。

 完璧であればあるほど、私の出来ていない自分自身に目をやって「ひどい女だ」と罵りたくなるのだ


『私なんかと付き合わせて、申し訳ない…何食べたいかもわかんない…』

 

 私は返事を返す。そのまま画面を裏にして目を閉じた。なんとも私らしい返事だ。食べ物のリクエストすらできないのに付き合ってる疑問まで投げつけてしまった


 目を閉じて窓を打つ雨の音を聞く。この音は嫌いじゃない。雨も嫌いじゃない。気圧だけが嫌いなだけ。早くだるくなくなればいいのに。きっと、明るくなれるはず、多分。


 次に目を開けたときには15時だった。可怪しい。明るくなるのは空とかじゃなく私のはずで、私の休日が、睡眠と共に全て消えていた。


「クズ真っ盛りじゃん…」


 そんな言葉があるからは知らないが、自分を表現するためにはそれしか無かった。

彼の授業的には今日はもうそろそろ終わる頃のはず。連絡が来てないか見てみる。


『好きだから付き合ってるの』

『ダルくてネガティブなんでしょ。』

『なんか好きそうな物、作るか買って帰るね』


 小まめに入った連絡のあと、10分前に来ていたのは


『ねた? 生きてる?』


 生存確認だったので、半分死んでましたと返しておく。雨もなくなった空模様を見ていると少し小腹がすいたので、うどんをレンチンして食べることにする。

 世の中、プチッとした鍋のもとと冷凍の野菜とうどんさえあれば最高のうどんが出来るから、やめられない。

 布団からのそのそと出てきたあと、冷凍庫を漁ってうどんを作って食べ始めようとした時に気がついた。


「あ。」


 作るって言ってくれたのに今食べたら何も入んないじゃん。どうしよう。

でももうあとには引けない。手にはチンしてホカホカになりきったうどんがいる。


 彼に謝って今からやっと一食目だと説明して謝り倒す。何か食材を買ってたらほんとにごめんと。そして、それを考えられないクズですまないと…。


 ズゾゾゾゾゾ…食べたいかはわからないうどんを啜る。取り敢えず何か食べねばと思った。それだけなのだ。彼からは


『いいから、気にしないでちゃんと食べなさい。特に食べたいのないのね?』

『適当に買うよ?』


と返事が来る。私の返事は一つしかない。


『私みたいな奴に、ふさわしい、やっすい何かを…』


 うどんは食べきったが、食べたいわけでも何でもないので満たされすらしなかった。一食目だからかも知れないが、もう一食食べたいわけでもないのだ。


 程なくして玄関の鍵が開く音して、ドアが開く音がした。パタパタと寄っていって声をかける。


「おかえりなさい」

「うん。ただいま」


 ハグをして迎え入れる。これが私達のマイルール。時々やるマイルール。手にビニール袋を引っさげた彼は、私にビニールを任せて手洗いをしに行った。

 リビングの机にビニールをおいて、椅子に先に座って待機する。中身をちらっと見ようとした。


「見ようとしたなー?」

「!!!まだだよ! ほんと! なんか、甘いやつっぽかっただけしかわかんない!」

「ちょっと見えてんじゃん」


 笑いながら手洗いを済ませた彼が、パジャマから着替えることのなかったボサボサのままの私の頭をワシャワシャと撫でる。


「はい。やっすいやつね」


 差し出されたのはコンビニの唐揚げ棒ですらなく、唐揚げ1個だけちょこんと入ったホットスナックだった。無性に食べたくなるが沢山いらないのでナイスチョイス。そして少し悲しい。だが、言った手前、受け入れるのが女である。


「ありがと唐揚げ、ナイス唐揚げ」

「で、これが俺用ね」


 出てきたのは高級で有名なアイスだった。その格差たるや。貧民な自分には仕方ないが、悲しさが増した。


「う、ん。うん。そうだよね…それくらい、差、あるよね…」

 現金な女だ。格差を目の前に自分が行った言葉に後悔を感じるなんて、酷いやつだ。彼は私の気持ちを組んでくれたというのに。


「いや、なわけ無いでしょ。休日をちゃんと休めた偉い子にちゃんと買ってあるよ。まず少し唐揚げでも食べてな。冷やしといてあげる」

「やった!!!!」


 本当に出来た男で、私は本当に現金なやつだった。一緒に食べる食事は、味がする気がして美味しくて、食欲が戻った気がした。

そして、気持ちも気づけば晴れていた。



「ねぇね」

「んー?」


 ピトッとくっついた彼にいう。


「付き合ってくれてありがと」

「こちらこそ」


 二人で笑って、アイスを食べて休日を謳歌した話。

 

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