いい子にしてたら魔法少女になれるよ
月がよく見える時間だったろうか
暖かな器に入ったスープを見つめる
「ねぇ」
「ん?」
女はソファーに座った男に声をかける
スプーンで細かく刻まれた野菜をくるくるとかき混ぜる。男は、冷めちゃうよ? と声をかけながら読みかけの本を畳んで床に座る少女の頭をなでた
「どうしたの? 仕事の忙しさにかまけてちゃんと食事を取らないお嬢さんのために僕が作ったポトフは口に合わないかな?」
「んーん、ちがう。ちがくてね?」
「ん?」
冷めてしまう前にと、スープに口をつけていく、じっくり煮込んだじゃがいもやキャベツが美味しい、ひよこ豆もいいなぁと、頬を綻ばせながら食べ進める
「そうそう、何が言いたいかってね。もしも、魔法少女になったらどうする?」
「突然だね」
「突然だよ」
突然の質問に短くでも男の中では少し長めの髪を何度か掻き分けた。そして、男性にしては艷やかな肌に手を当て考える。
「僕は、男だから、魔法少年じゃないかな?」
「魔女って言うけど魔男っていうの?」
「なんか、あんまり響きが良くないから、使わないで欲しいけど、そうなったらなんて呼ぶんだろうね?」
「なんだろ…」
二人は考える。時刻は日付を跨ぎかけているが、二人はそれを考える。
「あっ! 魔法使いかな!?」
「かなぁ? 一番無難、だよね?」
「うん!」
女はスッキリしたー! と言わんばかりに残りのポトフをお腹に収めていく、男はそれを見て微笑んだ。
「…ん? 結局、魔法少女になったらが聞きたかったんじゃないの?」
「あっ! そうそう! だってさぁ、学業とか昼夜関係なく戦わされるんだよ? テスト期間に呼び出されたら本気で留年かかるじゃん?」
「それは、ほら、いい具合にアニメとかではなってるでしょ?」
「甘い!」
スプーンで男をビシッと指す女、黒髪のロングを上の方で束ねており、しっぽのように毛先を使い、背もたれにしたソファーに座る男に髪をペシペシとぶつけて行く
「リアリティーを求めたらそうは行かないのさ!」
「なるほど、んー、まぁ、リアリティーで行けばそうだよね。」
「でしょう?」
そもそも魔法、というものが存在しない時点でリアリティーなどというのはおこがましいがこの話し合いの定義にそれは含まれていない。
「んー、僕なら平和的な魔法少女? 魔法使いになりたいかなぁ、日常生活でちょちょっと魔法を使うみたいな」
「そこに、夢を持つ子供がいるやつ? いないやつ?」
「もって? そっちは?どんなのがいいの?」
男は、苦笑いしながら聞きかえす。聞いてと言わんばかりにこちらを見ている黒縁のメガネをかけた少女にも見える女は
「こう、あれね! 魔法少女を理由に留年したり、大切な人を失ったり、もう魔法少女になんてならないって言う感じのやつ!」
元気よく答えた。流石に男こればかりは、わけがわからないよ…と困惑していた。
「まって! まだ話の続きがあるの! それのね! 敵役にやりたい!」
「魔法少女は!?」
「敵役の魔法少女! 絶望したり、辛い最中を私が助け出すって先方のいわばこれは百合の世界。百合とロリが私を待っているの。最高だよね」
恍惚とした笑みを浮かべながらちょっといただけない話をしている女に男は問う
「今日の睡眠時間は?」
「二時間位」
「寝ろ今すぐだ。」
寝かしつけた翌朝、彼女は悲壮な顔で行った
「魔法熟女が出てきた…こんなのってあんまりだよ…」
男は、睡眠による頭のネジが外れたのではなく百合とロリは本心だった事を心に止め、女の肩をぽんと叩いて慰めるほかなかった。