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私立探偵は異世界を嫌う  作者: 藤木智
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コスプレメイド

 数秒前まで記憶を遡っても、やはりここが何所なのか分からない。

 木組みの建築物に石畳の道が敷かれた西洋の街並みと、道行く馬車や通行人の格好を見る限り、日本では無い事は確かだ。


 しかしスマホに表示された日時は昨夜の出来事から精々八時間位しか経っていない。

 その短時間で海外に移動するのはまず不可能だ。

 

二日酔いで痛む頭で思考を巡らせた結果、楡木は今の状況を説明する一つの結論に辿り着く。


「何所の遊園地だ?」


 自分の知らないテーマパークに連れてこられた。


 それこそが今の状況を説明する答えだと楡木は結論付ける。

 西洋風の街並みをテーマにしたテーマパークなら日本には幾つもある。

 動物の頭をした人間も、パークのキャストが仮装した姿だと言えば納得できるし、日本国内にあるテーマパークなら公共の交通機関を駆使すれば数時間で辿り着ける。


 恐らく昨夜、遅くまで営業しているテーマパークに連れてこられたのだろう。

 そしてホテルに一晩を明かしたのかもしれない。


「けど何で?」


 今の状況を無理矢理納得したものの、なぜ自分がここに連れて来られたのかサッパリ分からない。

 楡木は頭を抱え、疑問を口にしていると、


「お!居た居た!」


 若い女が荒い大声を立てて楡木に近づいてきた。

 女は楡木よりも僅かに身長が高く、黒のワンピースにフリルの付いた白いエプロンドレスを身に着け、編上げのブーツを履いている。

百人中百人がメイドだと答える格好だ。

 しかし口からは牙のように鋭い歯が覗き、目付きもそれに負けない程鋭く野性的に見えた。金髪のロングヘアーはバサバサに痛み、てっぺんは犬の耳の様に跳ねている。そして後ろから覗く大きな尻尾と、背中に背負った二本の剣がコスプレっぽさを演出していた。結果として彼女メイドと言うより残念なクオリティのメイドコスプレイヤーと言える。


「探したぜ!勝手に居なくなったら俺達困るんだけど!」


 男勝りの話し方をするコスプレメイドは楡木の肩を掴み、思い切り揺さぶりだす。

 

 二日酔いの者にその行為は殺人級の威力を感じてしまう。

 頭は割れるように痛み、振り切ったはずの吐き気も再び襲いかかってきた。


「何で黙って出て行ったんだよ!心配したじゃないか!」


 苦しむ様子が分からないのか、コスプレメイドは楡木を揺さぶりながら攻めたてる。そして遂に楡木はその振動に耐えきれず、


「おええええええええ!」


「ぎゃあああああああ!」


 盛大にキラキラ光る物を吐き出した。

 コスプレメイドは絶叫ししながら飛び退き、惨事を逃れる。


「吐くなら吐くって言えよ!」


「言えるかよバカ……」


 楡木は咳き込みながらコスプレメイドに言い返す。

 だがそれ以上は喉が痛み、多くの事は言えなかった。

 激しく咳き込む楡木はまじまじと見たコスプレメイドは心配そうにしゃがみ込み楡木の顔を覗き込む。


「相当辛そうだけど大丈夫か?」


 大丈夫な訳無い。そう言いたかったが、言葉が出てこない。


「もしかして結構ヤバい所まで来てるのか?」


 コスプレメイドは呟くと、ハッとした顔で叫ぶ。


「そうだった!ポーラに診せなきゃ!」


 コスプレメイドは叫ぶと、楡木を軽々と肩に担ぎ、勢いよく走りだした。

 コスプレメイドの口ぶりから察するに、医者か何処かに連れて行ってくれるらしい。

 それは有難いが、せめて背中におぶるか、肩を貸すかしてほしかった。

 最悪の体調で、肩に担がれ、風を切るような速さで走られる状況。

 それはさながら、新幹線の連結部分に張り付けの刑にされる気分だった。


 目的地に着くのが先か、楡木の寿命が尽きるのが先か。


 とりあえず前者に五百円。


 楡木は心の中でチキンレースのベッドをするのだった。



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