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私立探偵は異世界を嫌う  作者: 藤木智
23/25

疑心

メイド達を待つ間、楡木はヴェロニカと情報交換をした。

 

ヴェロニカはセシルと五時頃に塔で食事を共にし、その時酒盛りもしたと言う。

 

もちろんその時はまだセシルは生きていたらしい(嘘か本当かは分からないが)。


そして六時頃に意識が遠くなり始め、塔を後にしようとしたが、酔っぱらった本人は塔を出ず、シャンデリアの上で眠りについた。


ヴェロニカの行動を訝しげに聞いた楡木は、次に塔から逃げる謎の騎士の話をヴェロニカに聞かせる。


「その騎士が犯人の可能性が高いですね」


「最有力候補だよ」


「しかし創作物ではそう言う怪しい人物はブラフのパターンが多いのですが」


「二次元とリアルを一緒にするんじゃねえ」


 もはや何度目になるか分からないツッコミを入れた楡木はふと庭園を見るすると、そこからこちらに向かって来る二人の人影が見て取れた。


「主……待った……?」


「わりーな遅くなって!」

 

 コレットとポーラだった。

 

 怪我はしていないが二人とも服の彼方此方が破れ、汚れている。


「何があったかは聞きませんが、仕事です。準備はよろしいですか?」


「何時でも良いぜ」


「愚問……」


「では行きましょう」


 二人を連れて塔に入ろうとするヴェロニカ。だが、


「待て、ヴェロニカ」


 楡木は女たちを制止する。


「何ですか?」


 足を止めてくれたが、こちらを振り向かない。


「他の騎士や兵士が来るまでお前らも塔には入るな」


「何故ですか?」


 振り向いたヴェロニカは相変わらずにやけた笑顔を浮かべていた。それが尚更不気味に思えて怖い。

 だがハッキリ言っておく必要もある。これも仕事なのだから。


「正直言うと、俺はお前も疑っている」


「そうですか」


 疑惑を持たれた割に動揺していない。予め予測していたような口ぶりだった。


「怒らないのか?」


「塔の中でセシル殿が殺されたのならば、同じく塔に入った人間が殺人犯として疑われるのは当然の流れです。寧ろ酔いつぶれて長時間塔の中に居た私は三番目に疑われる人間です」


「三番だと?」


「一番は楡木様を突き飛ばして行った正体不明の騎士。最も私は楡木様と別れた後、塔の裏に居ましたので、この騎士を直接見ておりません。よって強く主張もできませんが」


「じゃあ二番目は誰だ?」


「貴方です。楡木様」


 調査をする前から犯人指名をされてしまった。しかも自称パートナーに。


「なぜ俺が犯人だと?」


「死体の第一発見者。塔に入ってからの単独行動。疑うには十分な材料が揃っております」


「俺が爺さんを殺して何の得が?そもそも俺をこの世界に連れて来たのはお前だろ」


「そうですね」


 ヴェロニカは口元を隠してクスリと笑う。


「申し訳ありません。あくまで可能性の話をしたまでです。ごく僅かな可能性の」


「楡木が犯人なんて有り得ねーよな」


「限りなくゼロに近い確率……」


 メイド達もヴェロニカに習って鼻で笑う。どうやら弄られているらしい。


「お前らな……」


「これに懲りたら容疑者候補に疑って居る旨を伝えるのはお控えください。言われたら高確率でバサーク状態になりますから」


「ヘイヘイ気を付けますよ」


 息を大きく吐き出し、楡木は頭をクールダウンさせる。


 無闇に疑う発言をすれば自らの立場が危うくなる事実を楡木は受け止めた。

 ここからの発言や行動は特に慎重さを求められる。

 そう肝に免じた。


「それはそうと楡木様。彼らと一緒に塔に入ればよろしいですね?」 


「ん?」


 ヴェロニカが指差した先には、数人の騎士が近づいてくるのが見えた。その中にはサリエスも居る。


「グラスマイヤー卿……セシル様がお亡くなりに成られたのは誠か?」


「死体を確認したのは賢者様ですが、恐らく事実でしょう。神託が外れた事は有りませんから」


「ではなぜ貴殿はまだここに居る?」


「賢者殿のご要望です。貴方方と共に塔へ入るよう望まれたので、ここで貴方達を待っていました」


 サリエスは楡木を一瞥し、すぐヴェロニカに対して視線を向ける。


「流石は賢者……悪人だけを入れないようにするとは聡明な判断……」


「御託は御託は無用です。隊長殿。早く始めましょう」

 

 ヴェロニカ達はサリエスと数人の騎士を伴い塔の中へと消えて行った。

 現場検証はヴェロニカ達に任せ、楡木は自分が出来る事をやる。そう思い、行動を開始した。


「まずはあの人から詳しく話を訊かないと……」


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