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私立探偵は異世界を嫌う  作者: 藤木智
22/25

役割

「……遂に起こりましたか」


「やっとって感じもするけどな」


 セシルの死亡を確認した楡木は塔を駆け下り、ヴェロニカに事件発生の旨を知らせた。


因みにヴェロニカはその時、塔の後ろで、兵士に背中を摩られながらまだ吐いていた。

どれだけアルコールを摂取すればそこまで吐けるのか疑問に思ってしまう程の激しい嘔吐だったが、そこはどうでも良い。


「とりあえず……やる事は決まっています」


 全て吐ききったのか、清々しい顔をしたヴェロニカはスクリと立ち上がり、口を拭う。そして今まで背中をさすってくれていた兵士に命令を下す。


「アルスター城を全面封鎖してください。正門、裏門、地下道。人が通れる場所を全てを」 


「はっ!?」

 

 今迄ヴェロニカの背中を摩っていた兵士は、指示を聞いて驚愕の表情を作る。


「しかしグラスマイヤー卿にはそんな権限は……」


「皇帝陛下より許可は頂いております。ですから、急いで城を封鎖してください」


「は、はい!」


 兵士は敬礼し、急ぎ足で走ろうとしたが、


「あ!待ってください」


「はい!?」


 すぐヴェロニカが呼び止めた。


「剣を二本持ったハーフコボルトのメイドと、クロスボウを持ったハーフケットシーのメイドを見かけたら、ここに来るよう伝えてください」


「分かりました」


 兵士は今度こそ城の方へと走って行った。

 

 城の封鎖はともかく、コレットとポーラならすぐに見つかるだろう。

 庭園前でサリエスと一悶着起こしていたのだから。


「さて……次は」


 ヴェロニカは両手を空に掲げ、そこから強い光を発しだした。

 光の魔法を使ったのだろう。


 しかしなぜそんな事をするのかは分からなかった。


「何やってるんだ?」


「呼び出しです」


 誰を呼んだのか訊こうとしたが、その質問をする前に答えが分かった。


 大きく翼を羽ばたく音と共に、夜空から竜に跨った騎士が下りてきたのだから。


「彼らは城の空を警備する竜騎士です」

 竜騎士が何者か尋ねる前にヴェロニカが教えてくれた。

 

 そうなると先程ヴェロニカが使った魔法は信号か何かだったのだろう。

 

エーデルワイスより一回り小さく、緑の鱗に覆われた竜に乗った騎士は、黒い鎧に覆われた禍々しい格好をしていた。竜騎士と言うより暗黒騎士と言った方がシックリくる。

 

「グラスマイヤー卿……何かご用でしょうか?」

そんな少し怖い風貌をした竜騎士はヴェロニカを前にしても少しの動揺も見せずに尋ねる。そしてヴェロニカも少しも臆することなくてきぱきと指示を出す指示を出した。


「アルスター城から出ようとする者が居たら問答無用に捕獲するようお願いします。皇帝陛下より許可は降りているので遠慮はいりません」


「何かあったのですか?」


「セシル・アーヴィング総司令官が何者かの手によって殺害されました。その捜査の為アルスター城は一時全面封鎖します」

 

竜騎士は声を上げなかった。しかし顔を隠す兜が少し揺れた事から、動揺した事が何となく分かった。


「……分かりました。他の兵にもその様に伝えます」

 

竜騎士は敬礼し、竜に跨るとすぐ闇夜の彼方に飛んで行った。


「慣れてるんだな」


「神託が下った時から、どのように動くか事前にシミュレーションをしておきましたから」


 ヴェロニカはニコリと笑った。


「では楡木様。コレット達が来るまで私達はここで待ちましょう」


「何であいつらを待つ必要があるんだ?」


「現場検証には彼女達が必要です」


 答えになっていなかった。


「アイツらに何が出来るんだ?」

 少なくとも殺人捜査の過程で荒事が起こるとは考えられないし、殺人事件の現場検証が出来る程の知識と経験を二人が持ち合わせてるとも見えない。


 しかしヴェロニカは得意気な顔をして質問に答える。


「ポーラは毒、コレットは武器に対して広く精通しております。そこらの専門家よりも遥かに博識ですので、何か手がかりを見つけてくれる筈です」


「本当か?」


「実践に基づいて得た知識と経験ですので信用できますよ」


「そうか」


実践とはどういう意味なのか少し気になったが、今はそれよりも重要な事がある。


殺人捜査をするにあたって最も重要ともいえる事柄が。 


「それで司法解剖はどうするんだ?誰かできる奴を呼んでくれるのか?」


 楡木が一番気にしている事柄。それは検死をする人間の存在だった。


セシルが何時、どうやって殺されたのか。それらの情報は真相にたどり着く為に必要不可欠な情報だった。


それらを調べてくれる人間がいるのか。楡木は不安を抱えながらヴェロニカに尋ねる。するとヴェロニカは相変わらずの笑顔で、当然のような答えた。


「私が出来ます」


「は?」


信じられないと言わんばかりの声を上げた楡木に、ヴェロニカは改めて答えた。

私が検視を行います。死因と死亡推定時刻を算出する医療知識は持っていますし、魔法反応を探知する術も持っています」


「魔法反応?」


 聞きなれない単語が出てきて、思わず質問を重ねる。


「硝煙反応やルミノール反応と似た様な物で、私は人や物、場所に残ったマナの痕跡をこの眼を使って感知する事が出来るのです」


 自らの右目を指し、ヴェロニカは言い切った。


 しかしヴェロニカいつもニヤけた顔を作っているせいで、ご自慢の眼を認識する事は出来ない。


「そうか。それは凄いな」


「随分と薄い反応ですね」


 楡木のいい加減な反応にご立腹なヴェロニカは口を尖らせて、塔の壁にもたれ掛かる。


「楡木様。一応確認しますが、自らの務めはお忘れではありませんね?」


「爺さんを殺した犯人を見つけ出すんだろ?分かってる」


 今日一日濃い出来事や人間と関わってきたせいで忘れそうになっていたが、忘れては居ない。


 そもそも異世界に連れて来られた理由でもあるし、それを解決しないと日本に帰してくれないのだか

ら。


「忘れる訳ないだろ」


「宜しい。では私達の力は事件解決の大いに役に立つ事も理解しておいてください。そして敬ってください」


 要は褒めて欲しいという事だ。今更ながらヴェロニカは中々面倒な性格をしていると思った。


「はいはい……じゃあ期待しているよグラスマイヤー卿」


「任せてください。降霊術や心理分析は出来ませんが、頑張ります!」


 ニコリと笑うヴェロニカ。だが楡木は笑い返す事が出来なかった。

 楡木はヴェロニカを信用していない。


 なぜならヴェロニカもセシルを殺した容疑者候補の一人なのだから。  

 

 彼女はパートナーか、それともヤスか?


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