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私立探偵は異世界を嫌う  作者: 藤木智
18/25

説明下手なメイド達

唸り声のような騒音で目を覚ました楡木はベッドに横たわっていた。


そして目の前には正体不明の毛の束が顔を撫で回し、目覚めをより不快な物にしてくれる。


「なんだよこれ!」


イラついた楡木は毛をわしづかみ払いのける。すると、


「イテッ!いきなり何するんだ!」


 荒々しい声を上げたコレットが飛び起きた。


 彼女の姿を見て楡木は悟る。

 唸り声の正体はコレットのイビキで、毛の束はコレットの尻尾だった。つまり今楡木は一つのベッドでコレットと添い寝をしていた事になる。


 しかしなぜ?


「コレット?何でお前が?」


「それより言う事があるんじゃないのか?」


「ああ悪い……」


 勢いに流されつい謝ってしまうが、


「いや、そうじゃなくて!」

 

 すぐ我に返り否定した


「何でお前が俺と一緒に寝てるんだよ!それで何で俺は寝てたんだ!つかーここ何処だよ!」

 

 楡木は半ギレで疑問を捲し立てると、溜め息が聞こえて来た。


 声の方に視線を向けると、そこには椅子に腰かけ、本を読むポーラが居た。


「寝起きの割に元気がいい……」


「お前も居たのか」


「看るように言われたから……」


「看る?」


 ポーラは本をパタンと閉じ、コクリと頷く。


「怪我……ニレノキは気を失う前の事覚えてない……?」


「えっと……」


 頭に手を当てて記憶を呼び起こす。

 少し頭が痛いが、記憶はハッキリとしている。


「確か中庭でリーデルと駄弁ってて……色々あって俺、セシルの爺さんに斬られたと思うんだけど」


「当たってる……」


「聞かされた話と一致するな」


 コレットはベッドから這い出て、腕を組んで説明した。


「安心しろニレノキ。お前は斬られて無い」


「みたいだな」


 コレットの言うとおり怪我らしいけがは見当たらない。


「峯打ちで頭を殴られて気絶したんだ」


「脳震盪……後遺症も無い……けどそれとは別に問題が起こる……」


「は?」


 問題があるでは無く、問題が起こると言う奇妙な言い方に引っかかりを感じ、楡木は訊き返そうとした。しかし次の瞬間、強烈な吐き気を催し、口を噤んでしまう。


「ウプッ!」


「……はい」


 この症状が分かっていたと言わんばかりに、ポーラは落ち着いた様子で洗面器を楡木の前に差し出した。

 楡木はその洗面器目がけ、込み上げてきた物をぶちまける。

 

 本日二度目となる嘔吐も相変わらず生暖かく、苦い物だった。

 だが不幸中の幸いなのか、朝食以降、固形物を口にしていなかった為、そんなに不快では無い。吐く事自体に爽快な事も無いだろうが。


「臭え!マジ臭えな!俺が失神しそうな位臭いな!最早公害レベル!」


「大丈夫……吐き気はすぐ収まる……今は耐えて……」


 コレットは面白がりながら罵詈雑言を投げつける物の、背中を摩ってくれている。対するポーラは励ましているものの、視線を泳がせていた。


 どっちがメイドらしいか対応をしているかと問われたら回答に困る光景だ。


「もう吐くものは無いか?」


「……多分……」


「一通り吐いたら数秒で楽になるから安心して……」


 楡木は咳き込みながら尋ねた。


「随分詳しいんだな」



「ニレノキが飲んだ薬……アルノシオン・メイナップスの副作用位……誰でも知ってる……遅延性の睡眠薬……目が覚めて五分以内に激しい嘔吐に見舞われる……そんなの常識……」


「そうだぞ!俺は知らなかったけど常識だぞ」


「とりあえずもう大丈夫だから……」


 高らかに笑ったコレットは吐瀉物の入った洗面器を下げ、代わりに水の入ったコップを楡木に差し出してくれた。


「まあ、目を覚ました事だし、それ飲んだら行くぞ」


「待たせたら私達が怒られる……」


 ポーラは壁に立てかけられていた自分のクロスボウを背負い部屋を出ようとしたが、楡木は急いで止める。


「おいちょっと待てよ。行くって何処に?」


「総司令官様に所にだよ」


「セシルの爺さん……まさかもう死んだのか?」


「ううん……まだ死んでない」


「じゃあなんで行く必要が?て言うかここ何処だよ?俺が寝ている間何があったんだ?」


「質問攻めをする前にとりあえずそれを飲んで落ち着け」


 コレットに言われた通り楡木は水を飲み干し一息つく。そして再び質問攻めを開始した。


「まず俺がセシルの爺さんに気絶させられたことも分かった」


「生き物を斬れば斬る程切れ味が増す闇の魔剣。ブラッド・ソードでな」


「アルノシオン・メイナップスでも眠っていたけどね……」


「そこはどうでも良い。それで?ここは何所で俺は何時まで眠っていたんだ?あとお前らは俺を何所に連

れて行くつもりだったんだ?」


 要約すると教えてほしいのは今何時で。ここは何所で、何所に連れて行かれるかだ。

 しかしポーラはため息をついて、


「賢者なら当ててみたら……?」


 質問を質問で返してきた。

 そしてその意地悪にコレットも乗っかる。


「そうだな!ニレノキってスゲー頭良いって主が言ってたし!当ててみろよ」


「俺を超能力者か何かと勘違いしてるんじゃねえ」


「けど分かるんでしょ……?」


 ポーラの挑発に乗るつもりは無かった。しかしメイド達に舐められるのも何か癪だと思った楡木はあえて挑戦を受ける事にした。


 そして一度落ち着いて今いる場所を見渡す。

 

 部屋の内装は今朝、目が覚めたグラスマイヤー邸の客室に似ている。

 赤い絨毯が敷かれ、楡木が寝ているベッドの他に、家具はポーラが使っていたイスとテーブルしかない(テーブルの上にはコレットの物らしき二本の剣が置かれている)。窓には白いカーテンが掛けられているが閉じられておらず、見える。日が沈み、すっかり夜になっているが、嬢か街の明かりがポツポツ見て取れた。

 これらの情報を整理すると自らが置かれた状況が分かってくる。


「ここは多分城の四階位の……住み込みの人間が泊まる部屋じゃないか?」


「正解……」


「客室は魔物が壊しちまってて今直してる途中なんだって」


「今の季節の日没時間から察するに、今は夜の七時位か?」  


「それも合ってる……」


「お前が気絶してから六時間も寝てたんだぞ」


 昼寝の比じゃない睡眠時間を突き付けられ、楡木は少し驚いた。まるでニートみたいな睡眠時間だ。


「分かったのはそれだけだ。お前らは俺をどこに連れて行くつもりなんだ?あと何でコレットが一緒に寝

てたか教えろ」


 こればかり推理や推測では分からない。



「……別に良いけど」


 ポーラは無表情でチラリとコレットに目を移す。


「何所から話せば良いんだろうな」


 コレットは首筋をポリポリと掻きながら困り顔をした。


「要約して話せ」


「良いぜ」


 軽く咳ばらいをしたコレットは話し出した。


「目が覚めたら総司令官の所に連れて行けって言われたから連れて行くんだよ。終わり」


「分かった……?」


「お前ら、俺をコケにしてるのか?」


 楡木は舌打ちをして不満をこぼす。

 それで分かったと答える人間は絶対分かって無い人間だ。


「もう要約しなくて良い」


「じゃあ少し長い話になるけど良いか?」


「出来る限り手短に頼むぞ」


「分かったよ」


 コレットは咳払いをして、改めて話し出す。


「取りあえず、楡木は総司令官に峯打ちされた所までは覚えているんだよな?」


「ああ」


「その先なんだけどな。大変だったんだよ」


「何が?」


「皇帝が公務のサボタージュを賭けて総司令官と戦ってた……結果は皇帝の負け……」


「良い勝負だったんだけど、ハーフエルフの女魔術師が総司令官に手を貸したんだよ」


「プラチナドラゴンと皇帝を闇魔法で拘束した……」


 ハーフエルフの女魔術師とは、恐らくハルベットの事だろう。


「それでハーフエルフの魔女は鞄を持って何処か行った……」


「皇帝は公務に戻ったって聞いたぜ」


 楡木が気を失った後中庭で行われた事は理解できた。

 しかしまだ分からない事がいくつもある


「それで?それとセシルの爺さんの所に行くのとどう関係が?」


「総司令官がお前に謝りたいって言ってたんだよ」


「客人を巻き込み……怪我をさせてしまったお詫びをしたいんだって……」


「それで目を覚ますまで、俺達が看病して」


「目が覚めたら連れて来て欲しいと言われた……」


「ご主人の命令でな」


「因みに主は今総司令官と一緒……の筈……」


 思ったほど長い話じゃなくて良かった。

そしてセシルに会いに行く理由もまともな理由で少し安心する


「それでどこに行くんだ?」


 その問いかけを答えるように、ポーラは窓際まで歩き、闇に包まれた外を指差した。

 だがその先は真っ暗な闇なため、が何を指しているのか分からい。


「何所だよ」


「あそこ……」


「もっと具体的に言え」


 苛付きを抑えながら質問を重ねる。するとポーラは溜め息を着き、少し具体的に答えた。


「塔……」


「塔?」


「城の端っこ辺りに古い塔があるんだよ。そこが総司令官の執務室になってる」


「遠いのか?」


「……直線距離は近い」


「ここから飛び降りたら五分位で着くぞ」


「飛び降りないで行く方法は?」


「……この部屋を出て階段を降り……廊下を歩いて庭に出る……そこを突っ切って訓練場を突っ切ったら塔に

着く……」


「十五分位で着くぞ」


「じゃあさっさと案内しろ」


 大きな溜め息を着いて楡木はベットから出て、出かける準備を始めるのだった。


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