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私立探偵は異世界を嫌う  作者: 藤木智
13/25

グロ耐性

元の形が分からないほど崩れた魔物の死骸や肉塊が散らばる廊下を進み、連れて来られたのは大広間へと続く大きな両開きの扉だった。


「この先が大広間です。準備はよろしいですか楡木様」


「ちょっと待ってくれ……」


 剣を握り締め、突入準備万端だったヴェロニカに対し、楡木は衰弱しきっていた。


「どうしたのですか?」


「ちょっと気分が良くないだけだ……」


 楡木の気分が優れない原因は精神的疲労だった。

 道路に打ち捨てられた獣の死体ですら見る事に抵抗がある楡木が、血の海や死体の山を見て平静を保っていられる筈がない。

 人の死体が無かったのがせめてもの救いだった。グロテスクな怪物の死骸は楡木の精神をすり減らすのに十分な光景だった。


「まさかあの死骸を見ただけで気分を害したわけじゃないですよね?」


 ヴェロニカは呆れて溜め息を着く。


「悪いか……」


「しっかりしてください。楡木様は今夜殺人事件の捜査をするのですよ。あんな死骸程度で臆していたら捜査所ではありません」


「殺しが起こると決まった訳じゃないし……そもそもグロ耐性なんか要らないだろ」


「分かってませんね」


 ヴェロニカは再び溜め息を着き楡木に改めて説明する。


「良いですか?フレイミア帝国が建国されてから約八百年。神託が外れた事は一度もありません。個人の不幸から国家間戦争の行く末まで、規模に差がある物の、全て的中しております。それにセシル総司令官が殺されると言う神託はありましたが、具体的にどうやって殺されるかまでは分かっておりません。それこそ原形を留めない位酷い殺され方がさえる可能性もあります。そんな時、探偵である貴方が死体を見て失神し、調査もせずに迷宮入りになったなんて話考えたくもありませんよ」 


 早口で捲し立てられ楡木は少し混乱する。


「つまり何が言いたいんだ?」


「私が言いたいのは、事件は確実に起こる事と、死体を見ても大丈夫な精神を今のうちに身に付けて欲しいという事です。ついでに解決しないと日本に帰さないという事も改めて言っておきましょうか?」

 

 黒い笑顔で言ってきたヴェロニカにイラつきながらも楡木は頷いた。


「分かったよ。グロ耐性は頑張って付ける」


「御理解が早くて助かります」


「けど化け物からは守ってくれよ」

 

 グロテスクな物を見る体制は頑張って付けるが、自分がグロテスクな物になるのは御免だ。


「護衛は任せてください。私強いですから」


「そこは疑っていない」


ヴェロニカの戦闘能力の有無は先ほど証明してくれた。命を奪う事に対する躊躇いもない。だが心配事は別にある。


「間違って俺を斬るんじゃねーぞ」


 先ほどのハルベットみたいに、誤って(または面白がって)自分や味方を攻撃するのではないかと言う心配があった。何分ヴェロニカはどこか頭がおかしい。


「大丈夫です。フレンドリーファイヤーは絶対しませんから」


「一々ゲーム用語を使うんじゃねーよ」


 もしかしてコイツと別れてどこかに隠れて居た方が良かったんじゃないか?


 今更ながら後悔の念が押し出してきた楡木を余所にヴェロニカは大広間に続く扉に手を掛けた。


「では楡木様。改めて。戦場に出る準備はよろしいですね」


「えっと」


「よろしいでは参りましょう!」


 楡木の返事を待たずに、ヴェロニカは勢いよく扉を開け、中へと飛び込んで行った。



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