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私立探偵は異世界を嫌う  作者: 藤木智
12/25

異世界の人種と魔法講座

「それでは私も大広間に赴くとしますか……」


 ハルベットはスカートを払いながらスクリと立ち上がり、トランクに手をかける。


「総司令官殿にあそこまでお叱りを頂いた以上、私達も陛下を守りに行かなければさらに怒られそうですからね……グラスマイヤー卿。少々私とお付き合いしてもらえますか?」 


「すみません。私レズでは無いのでその申し出は丁重に断らせてもらいます」


「誰も性交友の話なんかしておりませんわ」


 引きつった笑顔を浮かべたハルベットは少しヴェロニカから距離を取る。


「そうでは無く……私が新たに開発した魔剣の試し斬りをしてもらいたいのです」


「イイですよ」

 

立ち上がったヴェロニカはハルベットに近づき、手を差し出す。


「では早速魔剣を貸してください。丸腰でちょうど武器が欲しいと思っていたところなので」


「せっかちさんです事」


 軽く溜息を着きながらハルベットはトランクを床に置き、ガチャリとふたを開ける。そして中から一本の長剣を取り出した。


 魔剣と言う物だから刃が波打っていたり、炎や光に包まれている物を想像していた、しかし取り出された剣は柄に鉄製のタグがぶら下がっている事を除おたら、コレットや城の騎士達が持っていた物と全く同じ物だった。


「どうぞグラスマイヤー卿」


「ありがとうございます」


 ヴェロニカはハルベットから剣を受け取るマジマジと刀身を眺める。 


「魔法による軽量化は施されていますね」


「当然です。そうしなければ魔剣なんて怪力を持つオークしか使えませんわ」


「それもそうですね。では早速」


 ヴェロニカは突如剣をハルベット目がけ振り払う。


「ひゃあっ!」


 紙一重でハルベットはその場にしゃがみ込み、ヴェロニカの斬撃をかわした。


「何をなさるのですかグラスマイヤー卿!」


「え?試し斬りですが?何か問題ありましたか?」


「問題しかないだろ……」


 やっぱりこの女はイカレてる。

 楡木は他人事ながらそう思った。


「なぜ私で試し斬りをしようとするのですか!?」


「そこに斬る人が居たからですね」


「お前は辻斬りか……」


 ヴェロニカが不名誉除隊になった理由が分かった気がした。きっと冗談か何かで味方を斬りつけたのだろう。


「私で試し斬りなんかしないでくださいまし」


「では誰で試し斬りをすればよろしいのでしょう?楡木様ですか?」


「そんな訳ねーだろ」


「大広間に追い込んでいると言う魔物で試し斬りをしてください」


「ああ成程。その考えには至りませんでした」


 その考えには至る前に、なぜ目の前に居る人間を斬ると言う考えに至ったのか問い質したい。


「では行きましょう……あら?」


 ハルベットの顔を見たヴェロニカは何かに気付いたような声を上げる。


「ハルベット所長。額が切れていますね」


「え?」

 

ヴェロニカの指摘通り、ハルベットの額には真一文字の傷が走っていた。

 かわしたと思っていた斬撃はかわしきれて居なかったようだ。


「すみません。すぐに治します」


「治すふりをして私の首を刈り取るつもりではありませんわよね?」


「治癒魔法を使うだけですよ」


 そう言ったヴェロニカはハルベットの額に手を当てる。

 屋敷で見せてくれた光景が繰り返されるように手が光り、離すとハルベットの傷が綺麗に無くなっていた。


「終わりました」


「一応礼は言っておきますわ。ありがとうございます」


「どういたしまして」


 ヴェロニカはそう言うと、おもむろに踵を返す。そして倒れたミノタウロスの亡骸にゆったりとした足取りで近づき、持っていた剣で亡骸を叩き斬り始めた。


「おい。黙々と死骸を斬りつけるんじゃない。怖いを通りこしてキモイぞ」


「すみません。イライラしているので」


 光魔法を使えば副作用としてイライラして心が荒み出すと言っていた。

 それを発散させる為、ヴェロニカは死骸を斬り付け、八つ当たりをしているのだろう。


「こんな事ならアンタが自分で魔法使って傷を治したほうが良かったんじゃないのか?」


 ストレス発散に勤しむヴェロニカに聞こえないよう、小声でハルベットに尋ねる。


「それは出来ませんわね」


「なんで?」


「私は光と火と地の魔法を使う事の出来ないハーフエルフだからでございます」


「どう言う事だ?」


「それはえっと……」


 ハルベットは苦笑いを浮かべた。

 もしかしたら聞いては行けない不味い質問だったのか。


「賢者殿。この世界の魔法と人種についてどれ位の事を御存知ですか?」


「え?えっと……ヴェロニカから聞いた話だと……この世界には俺やヴェロニカみたいなヒューマン。犬みたいな人間のコボルト。ネコみたいな人間のケットシー。耳の尖った人間のエルフ。そしてヒューマンと混血のハーフコボルト、ハーフケットシー、ハーフエルフが居て……魔法が使えるのはヒューマンとエルフの血を引く者だけ。そして魔法は人間が体内にため込む火、水、土、風、光、闇、時の生命エネルギーであるマナを使って発動される。だったか?」


 頭に人差し指を当てながら今朝ヴェロニカが話してくれた知識を復唱する。

 自分の記憶力を褒めてやりたい。


「及第点ですわね」


 ハルベットは頷き、説明を始める。


「魔法には下級、中級、上級の順に強力な物が存在して、エルフの血をひかないヒューマンはどう頑張っても中級までしか扱う事が出来ませんの」


「ヴェロニカが使った魔法は下級なのか?」


「はい。しかもグラスマイヤー卿は魔法を使役する訓練をしていないが故、下級魔法を使うだけでも副作用を起こしてしまいますわ」


 笑いながら死骸を切り刻んでいるヴェロニカを指差しながらそう言う。

 あれは本当に魔法の副作用なのか疑問に思えてくる。

 本当は魔法に関係無く楽しんでやっているのではないのか? 


「それに魔法は全ての人間が平等に使える技術ではございません。ヒューマンは全ての属性の魔法を使う事が出来ますが、中級の魔法までしか使えませんの」


「それはさっき聞いた」


「逆に純血種のエルフは全ての属性の魔法を上級まで使う事が出来ますわ」


「ヒューマンの上位互換って所か」


「そうとも取れますわね」

 

自分達が劣った存在である事を認めるのは良い気分はしなかった。最も、異世界人である楡木は魔法を全く使えないからヒューマン以下とも取れる。


「そしてヒューマンとエルフの混血種であるハーフエルフは、生まれつき一定の属性の魔法を使う事が出来ません。しかし使える魔法は必ず上位魔法まで扱う事が出来るのです」


「アンタの場合使えないのは傷を治す魔法って事か」


「いかにも」


 一定の魔法が使えない。

 一見してみれば大きなハンデとも取れる障害だったが、ハルベットは全く気にしていなかった。


「ところでコボルトとかケットシーとかは魔法をどれ位使えるんだ?」


「純血種のコボルトとケットシーは全ての属性の魔法が全く使えません。ですが彼らそれを補う程の身体能力を持っております」


「足が速いとか力が強いとかか?」


「五感が鋭い者も居ますわね」


 つまりコボルトとケットシーはゲームで言う所の、パワー重視の戦士タイプという所か。


「じゃあハーフは?」


「ハーフコボルトとハーフケットシーは五感は純血種の半分程度ですが、純血種と異なり、魔剣を始めとする魔道具を通して魔法を使役する事が可能ですわ。純血種のコボルトやケットシーは魔道具すら扱えません事よ」

 

ハーフコボルトとハーフケットシーはパワー寄りオールラウンダー。悪く言えば器用貧乏タイプなのだろう。

 人種と魔法についてざっと説明されて為になった気がした。

 だがこの知識は、これから有効活用できるのかは分からない。

 依頼された殺人事件が解決すればこの世界とは永久にサヨナラするつもりだ。

 いや、そもそもその殺人事件を解決する為に必要な知識なのかもしれない。

 役に立つかは分からないがこの知識は頭の片隅に置いておこう。


「おい!いつまでやってるんだよ」


 ハルベットの魔法講座が一区切りついたと思った楡木は、未だミノタウロスの死骸を斬りつけているヴェロニカに声をかける。いい加減肉を切りつける音も耳障りになって来た。それに関してはハルベットも同意見だったようで、彼女も止めに入る。


「あの……グラスマイヤー卿?そろそろ副作用は収まりましたか?」


「はい。イライラは随分前に収まりましたので、魔剣を試していた所です」


「そうですか……」


「所でこれどうやって使うのですか?」

 使い方を聞かずに効果を実践しようとするコイツは一体何考えてるんだが。いや、何も考えてないからそのような行動を取ったのだろう。

 

そんなヴェロニカに、ハルベットは呆れながら苦笑いを浮かべて説明する。


「魔剣は基本的に普通の剣同様、柄を握り、勢いよく振れば効果を発揮しますわ」


「何も起きませんでしたが」


「その魔剣は『シュガー剣』という闇の魔剣で、刃に付着した血の味を変化させる能力を持っておりますわ」


「名前はダサいですね」


「少しはオブラートに包めよ」


 ヴェロニカの意見に傷付いたのかハルベットは首を垂れる。だがすぐに顔を上げ、明るい笑顔を作った。


「しかし効果は実証済み。試しに付着した血を御舐めになって」


「どれどれ……」

 ヴェロニカは剣に着いたミノタウロスの血を一舐めする。しかし即座に顔を歪め、血を吐き捨てた。


「不味いです……」


「そんな筈は」


 すぐハルベットが剣を受け取り、血を一舐めする。そして満面の笑顔を浮かべた。


「とても甘くて美味しくなっておりますわよ」


「私は甘いのが苦手なのです。甘味が万人受けする味だと思わないでください」


「参考に致しますわ」


 そう言ってハルベットはまるでソフトクリームを舐めるようにべろべろと剣を舐め続けた。

 何かエロい。


「ハルベット殿。この魔剣はどう役に立つのですか?」


「どうとは?」


「血の味を変える魔剣とは面白いと思います。しかしその効果は直接戦闘に置いて役に立つとは思えないのですが」


 その問いかけにハルベットは一瞬固まり、目を泳がせ始めた


「剣に付いた血を舐める人には好評だと思いますわ。毎回鉄の味だと飽きるので、味の変化を着けるには良いかと……」


「あれ別に血が舐めたくてやってる訳じゃないだろ?」


 あれは狂人ぶって敵を威圧する演技。つまりは中二病だ。ハルベットの目からはお腹が空いた人間に見えていたらしい。


「そもそもそう言う輩に限ってすぐ殺されますよ。二次元も三次元も」


「おい、三次元ってどういう事だ?」

 

聞き捨てならない言葉が聞こえ思わず聞き返してしまったが、ヴェロニカは続ける。


「とにかく、これは兵器としての実用性は乏しい魔剣ですね。☆二つ以上は付けられませんね」


 通販サイトにレビューのような指摘を受けたハルベットは、剣を一舐めし、その場に崩れ落ち、顔を伏せた。


「分かっておりますわ……」


 声が震え出した。泣いている様だ。


「分かっておりのよ……こんな魔剣、戦いの役に立たない位……けど……あのひょうきん者の皇帝陛下は面白おかしい物を好みますから……こんなご機嫌取りの代物を作らないと研究費が落ちないんですよ……真面目な物作りをするには道化を演じなければならない時も有るんですよ……」

 

たしかにハルベットの言う通り、リーデルは人殺しの戦闘兵器よりも面白おかしいジョークグッズを欲しがりそうな感じがする。

 偉い人間に仕える研究者も苦悩と葛藤に悩まされているんだな。

 

自営業の私立探偵には無縁な悩みを抱えるハルベットに、楡木は少し同情する。


「しかし……」


 ハルベットはゆらりと立ち上がり、トランクに手を掛ける。


「この騒動で私の魔剣と生物兵器の素晴らしさを総司令官殿を始めとする軍関係者の方々にお披露目すればあんな玩具を作らずとも研究費は落ちる!」


 ハルベットは突如豹変し、ヴェロニカに語りかける。


「そうでしょ?グラスマイヤー卿!」


「そうかも知れませんね」


「そうに違いありませんわね!」


 突如熱弁してきたハルベットにもヴェロニカは動じず対応している。


「そうとなればいざ大広間へといざ行かん!ですわ!」

 

そういったハルベットはトランクをぶら下げながら勢いよく走って行った。

トランクから零れ落ちた書類とシュガー剣を落としながら。


「何だよアイツ……」


「ハルベット所長は比較的真面な人格者だと聞いていたのですが……」


 床に落ちた書類を拾い上げながらヴェロニカは呟く。そして拾った書類に目を通した瞬間鼻で笑った。


「そう言う事ですか」


「何だよ」

「ハルベット所長がおかしくなったのはこれが原因のようです」


 笑いながらヴェロニカは手に持つ『シュガー剣』を指差す。


「この剣に付いた血は甘くなると同時に理性を下げ、戦闘意欲を高める作用も付属させるようです」


「早い話が麻薬じゃねーか」


「資料によると体に害は無いみたいですよ」


 理性を失くしてる時点で無害とは思えない。


「けど使用者によっては依存性にあんるようですね」


「やっぱり麻薬じゃねーか!」


「覚せい剤の呼び名にはブレードと言う物があるらしいので、まさにこの剣はブレードですね」


「上手い事言おうとしてるんじゃねーよ」


 こんな危なっかしい物は早く捨てるかハルベットに返すかしてほしい。


「ところで楡木様。私達はどうしましょう?」


「どうするって……何が?」


「私は一応リーデル陛下とハルベット殿が心配なので大広間に行こうと思うのですが、楡木様はどうなさいますか?」


「どうって……」


 安全な場所に隠れる。それ以外選択は無い。楡木は口を開き、そう答えようとした時、窓が割れ、大きな鳥が目の前に姿を現す。

 鳥は鷲の身体にライオンの頭を持つ凶暴そうな怪物だった。


「うわっ!」


 楡木が悲鳴を上げると同時にヴェロニカは持っていたシュガー剣を魔物目がけて投げつける。


 剣は一直線に魔物へと飛んでいき、体を貫いた。

 

「グオオオオオオオ……」

 魔物は断末魔をあげ、ドサリと大きな音を立てて床に落下した。


「一体どれだけ魔物が居るのでしょう……」


 シュガー剣を引き抜きながらヴェロニカは呟く。


「それで楡木様。もう一度聞きますが貴方はどうなさいますか?」


どこかにかれている。そう思ったがやめた。

 窓をぶち破り、部屋に入ってくる魔物が居るという時点で、安全な部屋に鍵を掛けて籠城する手は使えない。

 いや、例え窓の無い部屋に閉じこもったとしても先程登場したミノタウロスのような巨大で怪力を持つ魔物が現れたらどうだ……無惨に殺される様が容易に想像できる。


「一緒に行っていいか?」 


何時殺しに来るか分からない怪物に怯えるくらいなら、化け物を撃退できる力を持つボディーガードと行動を共にした方が幾分か安全だ。


「一緒に来たいと言うのなら止めません。離れず着いてきてください」


 剣に着いた血を振り払い、ヴェロニカは歩き出す。その後ろを楡木は急ぎ足で着いて行った。


「絶対離れないからな!」


「その言葉、プロポーズととってもよろしいですね」


「よろしい訳ねーだろ!」

 楡木半泣き半ギレ状態でヴェロニカを叱りつけた。


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