プロローグ 二日酔い
二日酔い。それは夜に行われた宴の代償として起こる生理現象。
楡木豊は人気の無い路地裏で、一人その地獄と戦っていた。
ズキズキと痛む頭。ムカムカする胸。口の中に残るネバネバとした感触。吐く度に味わう事になる胃液の苦い味。余りの汚さに自らの視覚に自主規制を掛け、キラキラした物に見えてしまう嘔吐物。そしてその様を嘲笑いながら通り過ぎて行く通行人。
肉体的にも生理的にも精神的にも楡木は最悪の気分を味わっていた。
しかしその最悪な気分を味わう地獄も、昨夜摂取したアルコールを全て吐きだす事によって終わりを告げる。
「気持ちわりぃ……」
口を拭い、独り言を呟いた楡木は来た道を戻る。
大通りに出たら適当なタクシーを拾って家に帰ろう。
しかしその考えは街の景色を見た瞬間、消え失せた。
「……何処だここ?」
目の前に広がる光景。それは楡木が知る現代日本の街では無かった。
アスファルトの道路や鉄筋コンクリートの建物は何所にもない。あるのは木組みの家に石畳の道。走る車もガソリン車では無く、馬が引く馬車。
道行く人々も黄色人種の日本人では無く、皆外国人の顔立ちをしている。
否、外国人だけならまだ良かった。通行人の中には体は人だが、頭が犬や猫の者があちこちに居る。
見覚えの無い街。時代錯誤な交通手段。奇妙な通行人。それらを見て楡木は呟いた。
「……なんじゃこりゃ?」
昔放送された刑事ドラマのセリフを口にし、楡木は思考する。
なぜ自分がこんなおかしな場所に居るのか。
どうやってここまで来たのか。
楡木は酔いの残る頭を必死に働かせ、ここに至るまでの記憶を蘇らせる。




