あさがお
幼馴染って、難しいよね……。
朝日が差し込んできたから、まだ眠い目をこすりながらもゆっくりと起き上がった。ぐー……っと、気伸びをして眠気を飛ばそうとしてみてから、辺りを見渡す。すると、隣のベッドですやすやと寝息を立てている女の子の顔が見えた。
私の旅仲間……もといい、今では親友。
彼女、「レティ」は良い子よ。優しくて、あったかくて、誰が見ても本当に良い子。
でもね、ここだけの話。
たまにすごく……すごく、見ているのが、辛くなるの。
レティと一緒に居るとき、「彼」はすごく活き活きしているように見えるの。「彼女」を守らなくちゃいけないって、強く思っているからなのかな。いつでも手の届くところに、彼女、「レティ」を置いて、優しく見守っている。「敵」や「誰」がいつ襲ってきても、レティに攻撃が渡らないように、身を呈してでも守っている。
それが……ちょっとだけ、羨ましい。
ちょっとだけ……よ?
私は、強くなりたかった。お父さんがアイツに殺されてから、絶対に強くなるんだって……こころに決めたの。お父さんの仇を、自分の手で取りたかったから。アイツのことだけは、どうしても許せなかったから。お父さんの墓前で、誓ったの。
だからこうやって、彼……幼馴染の「エス」も「師匠」と慕う、デリーズの弟子になって、武術をエスと共に極めたんだ。
そのおかげで、そこいらにいる男たちなんかより、今ではずっと強くなれたわ。暴行はもちろん、セクハラ行為なんてしてくる輩なんて、ねじ伏せてやれるんだから。
そう、私は強くなった。
でも……レティのような、「守ってあげたくなるような女の子」からは、程遠くなっちゃった。
どう見たって、今の私は勇ましく、たくましい女子。
髪の毛も、レティのように長く伸ばしてはいないし、戦いの邪魔になると思って短く切ってる。お手入れなんて、していない。そんな余裕と時間があるなら、もっと強くなって、「アイツ」を倒したいって思う。
そんな私の力を、エスも認めてくれている。それはすごく嬉しいの。エスの足を引っ張りたくもないから……。
エスも、家族を「アイツ」に殺されてしまっているから……。「アイツ」を、許せなくて戦っている。家族を守れなかった自分自身とも、戦っている。
そんなエスのことを、私はサポートしたかった。それをこころから望んだ。だから、今のこの立ち位置に、満足したらいい。
でも……私、やっぱり、「女の子」だった。
「こころ」のどこかで、私もレティのように守って欲しい……って、思ってしまっている。
それって、欲張りなのかな。
望んでは、いけないことなのかな。
部屋を出て、廊下から窓の外を眺めていたら、後ろから足音が近づいてきた。そっちに顔を向けると、タオルで顔を拭きながら歩いてくる姿があった。顔はタオルで隠れているけれども、特徴的な髪色で、金髪にピンク色のメッシュを入れたハネ頭からは、容易に「彼」だとすぐに推測ができた。
「おはよう、エス」
声をかけるとタオルを顔から離して、私に目を合わせてくれた。青い瞳の中に、黒髪でボブスタイルのくしゃくしゃ頭の私が映る。
「あぁ、おはよう……ルミナ」
朝一番にエスと挨拶ができて、なんだか沈みかけていた「こころ」がパっと、一気に晴れ上がるのが分かった。さっきまで「もやもや」していたのが、まるで嘘みたい。
「いい天気ね!」
そう言って窓から空を見上げると、エスも同じように空を見た。眩しそうに目を細める姿が、なんだか少し……かっこよかった。彼の方が眩しい、なんて恥ずかしいことを思ってみたりする。
思わずエスに見とれていると、エスはその視線に気づき、怪訝な顔をして私を見てきた。それに気付いて私は慌てて彼から視線をそらすと、エスはまた、首を傾げていた。
「どうかしたのか?」
手をパタパタと横に振って、必死に「なんでもない」と言った。顔が赤くなっているのが鏡を見なくても分かる。すごく恥ずかしい気持ちでいっぱいになった私は、慌てて自分の部屋のドアを開けた。
「じゃ、じゃあまた後でね! エス!」
エスの返事も聞かずに自分の部屋に戻ると、ふー……っと、深く息を吐いた。ドア
を思い切り閉めちゃったから、一緒の部屋でまだすやすやと眠っていたレティは、ドアが閉まる音で目を覚ましちゃったみたい。眠そうな眼をこすりながらも、ゆっくりと身体を起こしながら、私に声をかけてきた。
「おはよう、ルミナ」
朝からにっこりと優しい笑顔を浮かべているレティは、長いくせっ毛を寝癖で更にくちゃくちゃにしながら、ベッドにちょこんと座っていた。その姿だけでも、何だか可愛らしいと思えてしまう。
「もうみんな、起きてるの?」
「エスは起きていたよ。顔を洗っていたわ」
まだドキドキしている胸に手を当ててそう答えると、私も自分のベッドの上に座った。レティは私の言葉を聞いて、タオルやクシを用意して、朝自宅をはじめるようだった。
「そうなの? じゃあ、私も顔を洗ってこようかな」
そして部屋を出て行ったレティは、出たところで廊下にまだ居たエスと会ったみたい。「おはよう」という挨拶から、自然とお話がはじまっていた。いつも無駄にドキドキしちゃって、あんまり上手く話すことができない私とは違って、レティは本当に自然体でエスと会話をしている。
いつもそう。
レティは自然とみんなの「輪」に入っていて、「和」をつくる。
みんなに溶け込んでいる。
私だけ、なんだかひとり置いていかれている気がしちゃうの。
レティとエスの話声を聞いているだけで、胸がとても苦しくなる。こんな私、好きじゃない。好きじゃないけど……やめられない。
私は、私だもの。
レティには、なれないもの。
心のどこかで、レティには勝てない……そう思う、自分がいる。エスのことが、大好きで大好きでたまらない自分も、居る。いつの間にか、エスのことを目で追っている自分が、確かに存在している。
そして……レティのことが大好きな、自分もいる。
「ルミナ!」
いきなりドアが開けたれた。ドアの向こうには大好きなエスと、レティが光を受けながら立っていた。
「うん、何?」
そう言うと、レティは明るい笑顔を向けてくれた。
「今日ね、お祭があるんだって。一緒に行こうね!」
無邪気な笑顔で嬉しそうに話してくれるレティに、私も自然と笑顔で応えていた。
「うん、そうね。行きましょう!」
にこりと微笑んで、レティはそのままドアを閉めて宿の下の階へと降りていった。
レティは、いつでも自然に……素直に自分の気持ちを伝えている。私もレティのように、少しは素直になれたらいいのに……。そうしたらこんなにも、もやもやとしなくてもいいのに……。
でも、レティは旅の途中で出会った仲間。
エスは……同じ村で育った、同じ「仇」を持つ……「幼馴染」。
……幼馴染の「恋」って、難しいのよね。
でも、悪くはないわ。
私は、幼馴染も仲間も……大好きだから。
窓には日よけに、あさがおのツルが伸びていた。
こんばんは、小田虹里です。
珍しく短編ですが、ほのかな「恋愛」物語でした。
思ったことを、思ったままに綴ってみた……という感じの作品です。
「ルミナ」という主人公は、「幼馴染」に淡い恋心を抱いています。でも、それをなかなか伝えられず、もどかしい思いをしているようです。
もうひとりの女の子「レティ」が、「エス」に対してどんな想いを抱いているのかは、読み手側さまに、今のところは委ねたいと思います。
もし今後、この続きを……そうですね。ルミナたちは「祭り」に行くようなので、八月に入って「お祭り」シーズンになったとき。また、書く機会ができれば、そのときには、今度はレティ目線での物語を描けたら、面白いかな……なんて、思ったりもしております。
今回の作品は……「恋愛」ものですが、さらっとしていると思っております。
幼馴染の難しさ……そして、ルミナの「戸惑う心」に視点を合わせている感じですね。
タイトルの「あさがお」は、なんとなく……です。後付けで、最後に出しましたが、実際のところは、「朝」にパっと開いたと思ったら、いつの間にかしぼんでしまっている「あさがお」の花。その様子が、今回のルミナの反応に似ているのかな?……と思い、タイトルとして、つけてみました。
このような拙い作品でしたが、ここまで読んで頂けてありがたいです。
ありがとうございました。
また、別の作品でもお会い出来ますと幸いです。
頑張ります。