たどり着いてしまった場所
崩れていく。裏山も公園も小さな家も。土砂の中に飲み込まれていく。
家族と別れた後、移り住んだ土地。
それはちっぽけな町だった。
街の一角を大きな山が覆い。反対側は海だ。
街は規模が小さく。少し行けば畑が広がっている。
野菜は工場で作ることが多いが。昔ながらの土でできた野菜を尊ぶ古典的な趣味の人がこの近くに大勢いるのと、根菜類は工場で作ることが難しいからだ。
何で難しいかは知らない、技術的なことなんか狼羅にはわからないからだ。
とにかく家にいたくなかったから伯父さんの家に来た。
亡くなった父親も家族から離れる、と何度も言っていた。
狼羅は父親のほうが好きだったから外のときは連れて行ってもらうはずだった。
父親と母親が何故仲たがいしたのか狼羅は知らない。自分の眼が変わった色をしていて、そんな目をした人間がほかにいないせいで母親が自分を疎んじて、それを父親が許さなかったせいだろうか。
それとも別の理由があるのだろうか。狼羅はわからないけれど、伯父や、父の肉親たちも母親のことをなんだかよく思っていないなと思った。
母親のもとにいたくないと言ったらあっさりと狼羅がここに来ることを許してくれた。
そしてあっさりと狼羅を引き取っていいと言っていた母親のことを罵っていた。
そして目の前の光景もよく理解できない。
あの崩れたかけらは伯父の家の壁に似ている。
そしてもうすぐ狼羅が通うはずだった学校が、ゆっくりと横倒しになっていくのが見えた。
かろうじて山の上に逃げ伸びることができた人々はまるで砂地獄に飲み込まれていくように、今まで住んでいた町が地中に吸い込まれていくのを見ていた。
逃げ伸びることができなかった人々も一緒に。
狼羅はこの町に来たばかりだ。だから伯父の家族しか顔見知りはいなかった。
そして、そばにいるのは一番年長の従兄だけだ。
「ねえ、伯父さんは」
父親によく似た伯父を狼羅は慕っていた。
従兄に手をひかれてここまで来た、ほかの家族の姿は全く見えない。
「伯父さんは累」
従兄は小さく首を振った。そして狼羅はそののち、従兄以外の身内にあうことは二度となかった。
それからいとこと狼羅は亡き伯父、遺体は発見されなかったが、そう判断するよりなかった。の伝手をたどって生きていた。
どうやら伯父は何かをしていた人らしい。
そして父も何かにかかわっていた。
父が急死したのは本当に事故だったのか。あの街一つが陥没する事件はまさか伯父の命を狙ったものなのか。
いくらなんでもそれは大事すぎる。
しかし、世の中にはついでと言うものがある。
何らかの実験のため選ばれた土地がちょうど伯父の家のある場所だったということは十分あり得る。
どうやったのか想像もつかないが、何らかの地殻変動を起こす仕組みを作り上げたのだろう。
あんな自然現象が起きたという記録はどれほどさかのぼって調べても一向に出てこなかった。
あれは自然現象ではない。だけど人為的なものならいったいどうやってやったのかもわからない。
いつの間にか狼羅はどっぷりとこの問題につかり込んで逃げられなくなっていた。
そしていつの間にか狼羅の周りには組織ができていた。
同じように巻き込まれた人間達が、自分達の身を守るため寄り添い始め、それぞれがそれぞれのコネを使ったり、周囲に働き掛けたり。
その相対する場所に教会があった。
教会が動くたび、狼羅の組織もまた少しずつ大きくなり複雑化して行った。非合法なやり取りもまた行われるようになっていく。
そして狼羅の眼の前には一丁の銃があった。
工場野菜。葉っぱものはただ光りを当てておけばいいですが、ほかの野菜は適当に闇を与えないとでんぷんの蓄積が起きないのです。レタス以外の野菜の恒常化は今は難しいでしょうね