子供達3
キャロットがその少女に気づいたのはその少女の障害ゆえではなかった。
薄い金色の髪の少女はその顔を巨大なミラーグラスでほとんど覆っていた。
少女が身じろぐたびにピピピと電子音が鳴る。
視覚を失った人間のための補助装置だ。
だがキャロットの眼を引いたのは、その障害ゆえではなかった。
その少女自身だ。
その時、キャロットは遊具が並ぶ公園に来ていた。
舞台ではだれかが歌ったり踊ったりしている。
仲間の子供達は適当に遊んでいる。
今、別の児童保護施設と合同で開催されるイベントに参加していた。
そこで教会の慈善活動に関するPRとキャロット達がただの孤児であるように見せかけているのだ。
その少女は、まったく別の児童養護施設出身者だ。
だが、キャロットにはその少女の精神構造が見えた。
キャロットの視力は通常のものと、切り替えて、相手の精神世界を見るものとがある。
その視力で見ればその少女は周囲の子供と一線を画していた。
キャロットがその少女に柄づくと、キャロットの接近をそのミラーグラスがピピポポポと微妙に変わる電子音の音階が教えていた。
ミラーグラスの弦を調節して音量を抑えようとする。
今のようにしょっちゅう子供が周囲を行きかう中にいればそれはたまったものではないだろう。
「少し離れた場所に行こう」
教団に所属している孤児院の子供だと、腕に腕章をつけているのですぐにわかる。そうした子供は身体に不自由な人に対し、親切であることを求められる。
目の不自由な少女を気遣ってもだれもおかしいとは思わないだろう。
少女はどこか不思議そうな顔で、キャロットが差し出した手を握りしめた。
キャロットが手をつないだので、少女はミラーグラスの電源を落とした。
おぼつかない足取りに、キャロットはこの少女が視力を失ったのはそんなに前ではないだろうなとあたりをつけた。
そして、緊張する。この少女は決して資格を失ったわけではなくそう装っているだけだと、触れ合ったてから感じ取れたのだ。
ミラーグラスはまったく光を通さないレーダーサイトがレンズのあるべき場所についているだけだ。だから今現在彼女は眼が見えていないけれど。ミラーグラスさえ外せばすぐに眼が見えるようになるだろう。
なぜそのような変装をしているのか理由は一つだ。キャロットは一つの合言葉をそっと呟いた。
それは少女の耳にしか届かなかっただろう。そして少女は小さく頷いた。
「そっちから気が付いてくれるって言っていたな」
薄赤い唇は小さく動く。
「声はあるかなしかでいい、それでも俺には届く」
正確には言葉を呟いている頭の中の響きを聴きとることができるだけだが。
教会のやつらはあほだ。仲間達の空に浮かんだり物を燃やしたりする能力だけを尊ぶ。だが、人の考えや思考が読めることがどれほど状況を有利にするか考えたこともないらしい。
キャロットは決してスカを引かない。
無論それは慎重に隠されていることだ。教会のだれも人の心を読む能力については発見していないと思っている。そう思わせておかなければならない。
物心ついたときから、キャロットはあえてまったくの能力なしを装ってきた。また仲間達にもその能力については口に出すなと抑制してきた。
すべてはこの時のためだ。
物心ついたときから、周囲の思惑がわかっていた。
だから反逆を決意していた。
しかし、まさかあちらも子供を送り込んでくるとは思わなかった。