子供達 2
子供が目の前の的をじっと見つめている。
金髪のとても愛らしい女の子。それがあどけなさを見せる容姿とは裏腹にそのまなざしは真剣そのものだ。
的の中心に赤い光が灯る。それが徐々に広がって数秒後、的は焼け落ちていた。
「成功だ」
白衣の男たちが一斉に拍手する。
女の子は疲れた顔に幽かに笑みを浮かべた。
「実にすばらしい、これだけの成果を上げろとは」
初老にさしかかった男が焼け落ちた的を見てまるでこちらが子供のようにはしゃいだ声を上げる。
付き添いで来ていた少年が女の子にそっと声をかける。
小声で二言三言話をすると少年が大きく声をかける。
「疲れたようなので、部屋に戻りたいそうです」
「連れて行け、役立たず」
少年は侮蔑の言葉にめげた様子も見せず、女の子を抱きあげてその場を後にした。
「キャロット」
女の子が気遣わしげにそう呼びかける。
「大丈夫だよフィオナ」
少年はそう言って女の子フィオナに笑いかける。
彼らの名前は本来名前ではない。ランダムにつけられた六文字のアルファベットの羅列。それに一番近い呼び方をされる。
CARROTが少年に与えられたコードだ。FEEONAが女の子に与えられたコード。まともに名前もつけられない子供たち。
フィオナはキャロットだけに聞こえる声で呟く。
後にしてきた部屋で男達がしゃべっていることを。
教団の将来はこれで安全だとか、ようやくいくつもの受精卵を犠牲にした後、確実に能力者に変える方法を編み出したなどと話していた。
その話を聞いてキャロットは眉をしかめた。
つまり、能力者の量産化に成功したとはしゃいでいるらしい。
フィオナは呆れたように肩をすくめた。
能力を持つものは物理的な力だけでなく、感知力も持っているのだ。
子供達はすべてわかっていた。自分達が作られた意味も、作った人々の欺瞞も。
すべてわかっている子供たちが、それから何をするか想像すらしないのだろう。
腕の中のフィオナを抱きしめて、キャロットはふいに眼をすがめた。
長い金の髪を垂らした女が前を歩いていた。
とっさに壁際によって体を小さくする。
あの女は教主のお気に入りだ。
いかにも優しげで美しいが、中身は空っぽの女。
顔を伏せて、侮蔑の視線を向けないようにする。
細い顎をずらして子供たちを視界に入れる。そしてすぐに興味を失い足を進める。
裳裾はないが。裳裾持ちのようにつき従う女達が続く。
すべての女達が姿を消すまで子供達は壁際に控えていた。
フィオナは眉をひそめた。
「勝手なことを言ってるね」
「だけど、これから安定供給できるって、これから俺たちの仲間が増える」
キャロットは歪んだ笑みを浮かべた。
「それで何が起こるかも知らないで」
フィオナはキャロットのシャツをつかむ。
キャロットは大人達からはできそこないと呼ばれているが、子供たちにとっては支柱のようなものだ。
キャロットに依存している子供も少なくない。キャロットをできそこないとさげすめばさげすむほど、潜在的な敵は増えて言っている。そのことを誰も気づいていない。