子供達
幼い子供達が、芝生の上で遊んでいる。
大きい子でも五歳くらい、一番小さい子供はようやく乳離れが終わったあたりだろうか。
子供達は人種も様々だ。一番多いのは白人だが、黄色人種も黒人もいる。
そして白人でも地域によって様々な特徴を持っている。黄色人種も黒人も同様だ。そうしてみると、子供達はすべて違う人種で構成されているといってもいいかもしれない。
幼いということだけが共通点の子供達は芝生を駆け回ったり、円く円を描くように座って片言でおしゃべりをしたり、草木を引っこ抜いたりして遊んでいる。
そうした子供たちの様子を瑯杏はほほえましく眺めていた。
子供達は親も家族もない、教会だけがよりどころの子供達。
瑯杏は一人の子供に目をとめた。
髪も肌も何もかも白く。瞳は薄い紫色だ。
年のころは三歳くらいだろうか。
「アルピノですね、われわれが操作した結果なのか、それとも生来のものか判断は尽きませんが」
そばに控えている女性がそう言った。
黒髪が半ば白くなっている。きついまなざしをしたどこかとがった顔立ちをした女性は子供達を見る目にも温かみというものがまるでない。
一人だけ大きな少年がいた。
真っ赤な髪と青い瞳。そばかすが浮いたやんちゃそうな子供だが、その表情は暗い。
年齢は十歳前後。幼児の中ではひときわ大きく見える。
「あれは」
「あれは失敗作です」
女はにべもなくそう言い切った。
「発生こそ正常に行きましたが、まったく力を持たず、普通の人間と同じ、あるいはそれ以下でしょう」
少年はそれでも周囲の幼児たちに気を使ってやっているのがわかる。
「それでも目安くらいには使えますから、実際に周囲の子供たちとあれが同じ年に生まれたのですよ、力が強ければ強いほど成長の停滞が見られます。その基準としてに飼われているのです」
冷笑と言ってもいい笑みを浮かべた女性を瑯杏は表情を変えず見ていた。
「それくらいの役に立ってもらわねば、われわれがいなければ生まれることすらなかった子供たちなのですから」
この時代、極めて安易に自分達の受精卵を預ける施設がある。その受精卵は所有者が廃棄を望むか、あるいは死亡した場合廃棄されることになっている。
その受精卵を流用してあの子供達を生みだした。
もちろん普通に育てたわけではない。
受精卵の段階で、様々な操作を行っている。
それにより、異能の子供たちを生み出そうとしたのだ。
ほとんどの受精卵が胎児にすらならず死滅した、胎児段階まで育っても、奇形が発覚した場合処分した。それでも数少ない子供達が誕生してきた。
子供たちの成長停滞は最初予想されていなかったが、それが能力の目安になると分かり、それを歓迎していた。
自分たちの作品である子供たちを女性は楽しげに眺めている。
大切な、大切なとてつもなく有用となる自分達の道具を。
瑯杏はあっという間に子供達に興味を亡くした。
もともと子供は好きではない。ただ遊び呆けている子供を長べているのは退屈だ。
「しばらくさがります」
そう言ってその場を離れる。女性と数人の付き添いが、後を追った。
後には子供だけが残された。
子供達は遊んでいるふりをしている。
しかし、その表情はもはやない。
赤毛の少年は真っ白な少女を抱きあげた。
大人達が去っていった方向を見るその目はとても冷たかった。